宀(たてもの)に豕(ぶた)にを加えて何故「家いえ」になるのか? この解字をめぐって多くの学者が論争を繰り広げてきた。ある中国の学者は「雲南省では、家の1階で豚(豕)を飼い2階で人が住む家があり、これが家の字のはじまりだ」という。一方、白川静氏は[字統]で、「古くは犬牲(犬を犠牲にする)に従う字で家の地鎮のために犬を犠牲とした」と、豕(ぶた)でなく犬だと主張した。
この字を最も早く解字したのは[説文解字]を著した後漢の許慎キョシンで、「宀(たてもの)+豭カ・ケ(オス豚)の省声」の形声文字とした。つまり、家の中の豕は豭(オス豚)の省略形で、カ・ケの発音を表している字ですよ、というのである。しかし、清代に[説文解字]に注釈を加えた段玉裁は、これに疑いありとして「宀+豕」の会意とした。しかし、その後もこの解字をめぐり議論が続いた。その後、甲骨文字が発見・解読され、新しい解釈が生まれてきた。それは、甲骨文字には、「宀+豭カ・ケ」と「宀+豕シ」の両字があり、のちに「宀+豭」の意味が「宀+豕」に置き換えられたというのである。落合淳思氏は[甲骨文字辞典]で、この経過を簡潔にまとめている。
家 カ・ケ・いえ・や 宀部 jiā・jia・jie・gū
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上から、家、豕(豚)、犬
解字 家の甲骨文字第1字は、建物の形である宀ベンを意符、オス豚を意味する豭カ・ケの初文(オスの生殖器が下腹に付く)を声符とする形声文字で宗廟(①祖先のみたまや、②天子の祖先をまつるところ)施設を指す。第2字は建物(この場合は家畜小屋)の形である宀ベンと豚を意味する意符の豕シからなる会意文字で家畜の豚、あるいは家畜として飼うために捕らえた豚を指す。なお、中段の豕シの甲骨文字は、オス豚以外の家畜の豚が描かれている。また、下段の犬の甲骨文字は尻尾を巻いた形になっている。
中国では祖先をまつる祭礼に動物の肉を供えるが、祖ソは祭壇のまえに肉を盛った且ソを供えた形であるが、建物にオス豚を供えた形の家カは、一族の祖先を祭る建物すなわち宗廟を意味する。
なお、[甲骨文字辞典]は「家族・家屋は宗廟施設からの引伸義であるが、甲骨文字にその用法は見られない」とする。金文も同じくオス豚(第1字)と豕の豚(第2字)の2種を含む形があり、意味も多様化しており、[簡明金文詞典]では、①家庭、②家族・宗族、③国家、④量詞(=家戸)、などとなっている。篆文から「宀+豕」の字体が用いられ、家屋・家族・家系・家名など氏族の単位を中心に表され現在に至っている。
なぜオス豚が用いられたのか?
甲骨・金文第1字に何故オス豚が用いられたのだろうか? これについて[説文解字]の許慎キョシンから落合淳思氏まで、その理由を何も語っていない。私はその理由を次のように推測したい。およそ、宗廟施設でオス豚を供える場合、何か目的がある。私は最初、神または祖先を喜ばせるために美味しい豚肉となるのはオス豚か? と考え、オス豚の肉について調べたところ、肉にするオス豚は繁殖用にする一部を除き例外なく子豚のとき去勢されることが分かった。[養豚場での豚の生産][お肉の豆知識]。また、去勢されたオス豚はメス豚と比べ特に美味しいことはないという。すると、オス豚を供えるのは繁殖用のオスであり、これを捧げることにより子孫が繁栄するよう祈ったのではないだろうか。
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オス豚の種付け(「養豚場での豚の生産」(上記)より)
家を音符に含む字は、宗廟の意から「一族・一族のすまい」のイメージを持つ。
意味 (1)すまい。いえ(家)。や(家)。人の住む建物。「家屋カオク」「家財カザイ」「家主やぬし」「家庭カテイ」「家族カゾク」(2)血縁の集まり。一族。「王家オウケ」「漢家カンカ」(①漢王朝の帝室、②漢方医)「家系カケイ」「本家ホンケ」「良家リョウケ」(3)学問や技術の流派。専門にする人。「詩家シカ」「家元いえもと」「専門家センモンカ」(4)商店。みせ。仕事。「酒家さかや」「農家ノウカ」
イメージ
「一族のすまい・一族」(家・嫁)
「形声字」(稼)
音の変化 カ:家・嫁・稼
一族の住い・一族
嫁 カ・よめ・とつぐ 女部 jià
解字 「女+家(一族)」の会意形声。他の一族にとつぐ女性。
意味 (1)とつぐ(嫁ぐ)。よめ(嫁)。嫁にいく。「嫁入よめいり」「嫁資カシ」(嫁入り支度の費用)「許嫁いいなずけ」(婚約者)(2)罪や責任をなすりつける。「転嫁テンカ」
形声字
稼 カ・かせぐ 禾部 jià
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解字 甲骨文字は「田の上に禾(いね)が二本・三本植えられている形」。篆文は「禾(いね)+家(カ)」の形声。田に稲を植えて育て収穫することを稼カという。[説文解字]は「禾(いね)之(の)實(みの)った秀(穂)を稼カと為す。禾(いね)に従い家カの聲(声)。一に曰(いわ)く稼は家事也(なり)」ともする。
意味 (1)うえる。稲を植える。耕作。農事。「苗稼ビョウカ」(苗をうえる)「稼穡カショク」(農事)「稼業カギョウ」(①農業。②生活をささえる仕事)(2)みのり。収穫。「秋稼シュウカ」(秋の取り入れ)(3)[国]かせぐ(稼ぐ)。かせぎ(稼ぎ)。精出して働きお金を得る。「稼働カドウ」(①働き稼ぐ。②機械などを動かすこと)
<紫色は常用漢字>
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この字を最も早く解字したのは[説文解字]を著した後漢の許慎キョシンで、「宀(たてもの)+豭カ・ケ(オス豚)の省声」の形声文字とした。つまり、家の中の豕は豭(オス豚)の省略形で、カ・ケの発音を表している字ですよ、というのである。しかし、清代に[説文解字]に注釈を加えた段玉裁は、これに疑いありとして「宀+豕」の会意とした。しかし、その後もこの解字をめぐり議論が続いた。その後、甲骨文字が発見・解読され、新しい解釈が生まれてきた。それは、甲骨文字には、「宀+豭カ・ケ」と「宀+豕シ」の両字があり、のちに「宀+豭」の意味が「宀+豕」に置き換えられたというのである。落合淳思氏は[甲骨文字辞典]で、この経過を簡潔にまとめている。
家 カ・ケ・いえ・や 宀部 jiā・jia・jie・gū
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上から、家、豕(豚)、犬
解字 家の甲骨文字第1字は、建物の形である宀ベンを意符、オス豚を意味する豭カ・ケの初文(オスの生殖器が下腹に付く)を声符とする形声文字で宗廟(①祖先のみたまや、②天子の祖先をまつるところ)施設を指す。第2字は建物(この場合は家畜小屋)の形である宀ベンと豚を意味する意符の豕シからなる会意文字で家畜の豚、あるいは家畜として飼うために捕らえた豚を指す。なお、中段の豕シの甲骨文字は、オス豚以外の家畜の豚が描かれている。また、下段の犬の甲骨文字は尻尾を巻いた形になっている。
中国では祖先をまつる祭礼に動物の肉を供えるが、祖ソは祭壇のまえに肉を盛った且ソを供えた形であるが、建物にオス豚を供えた形の家カは、一族の祖先を祭る建物すなわち宗廟を意味する。
なお、[甲骨文字辞典]は「家族・家屋は宗廟施設からの引伸義であるが、甲骨文字にその用法は見られない」とする。金文も同じくオス豚(第1字)と豕の豚(第2字)の2種を含む形があり、意味も多様化しており、[簡明金文詞典]では、①家庭、②家族・宗族、③国家、④量詞(=家戸)、などとなっている。篆文から「宀+豕」の字体が用いられ、家屋・家族・家系・家名など氏族の単位を中心に表され現在に至っている。
なぜオス豚が用いられたのか?
甲骨・金文第1字に何故オス豚が用いられたのだろうか? これについて[説文解字]の許慎キョシンから落合淳思氏まで、その理由を何も語っていない。私はその理由を次のように推測したい。およそ、宗廟施設でオス豚を供える場合、何か目的がある。私は最初、神または祖先を喜ばせるために美味しい豚肉となるのはオス豚か? と考え、オス豚の肉について調べたところ、肉にするオス豚は繁殖用にする一部を除き例外なく子豚のとき去勢されることが分かった。[養豚場での豚の生産][お肉の豆知識]。また、去勢されたオス豚はメス豚と比べ特に美味しいことはないという。すると、オス豚を供えるのは繁殖用のオスであり、これを捧げることにより子孫が繁栄するよう祈ったのではないだろうか。
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オス豚の種付け(「養豚場での豚の生産」(上記)より)
家を音符に含む字は、宗廟の意から「一族・一族のすまい」のイメージを持つ。
意味 (1)すまい。いえ(家)。や(家)。人の住む建物。「家屋カオク」「家財カザイ」「家主やぬし」「家庭カテイ」「家族カゾク」(2)血縁の集まり。一族。「王家オウケ」「漢家カンカ」(①漢王朝の帝室、②漢方医)「家系カケイ」「本家ホンケ」「良家リョウケ」(3)学問や技術の流派。専門にする人。「詩家シカ」「家元いえもと」「専門家センモンカ」(4)商店。みせ。仕事。「酒家さかや」「農家ノウカ」
イメージ
「一族のすまい・一族」(家・嫁)
「形声字」(稼)
音の変化 カ:家・嫁・稼
一族の住い・一族
嫁 カ・よめ・とつぐ 女部 jià
解字 「女+家(一族)」の会意形声。他の一族にとつぐ女性。
意味 (1)とつぐ(嫁ぐ)。よめ(嫁)。嫁にいく。「嫁入よめいり」「嫁資カシ」(嫁入り支度の費用)「許嫁いいなずけ」(婚約者)(2)罪や責任をなすりつける。「転嫁テンカ」
形声字
稼 カ・かせぐ 禾部 jià
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解字 甲骨文字は「田の上に禾(いね)が二本・三本植えられている形」。篆文は「禾(いね)+家(カ)」の形声。田に稲を植えて育て収穫することを稼カという。[説文解字]は「禾(いね)之(の)實(みの)った秀(穂)を稼カと為す。禾(いね)に従い家カの聲(声)。一に曰(いわ)く稼は家事也(なり)」ともする。
意味 (1)うえる。稲を植える。耕作。農事。「苗稼ビョウカ」(苗をうえる)「稼穡カショク」(農事)「稼業カギョウ」(①農業。②生活をささえる仕事)(2)みのり。収穫。「秋稼シュウカ」(秋の取り入れ)(3)[国]かせぐ(稼ぐ)。かせぎ(稼ぎ)。精出して働きお金を得る。「稼働カドウ」(①働き稼ぐ。②機械などを動かすこと)
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