漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「巩(工凡)キョウ」 <両手で工具をもつ>と「恐キョウ」「鞏キョウ」「跫キョウ」「筑チク」「築チク」 

2024年08月11日 | 漢字の音符
 「工凡」(これで一字)がパソコンで表示されませんので、ご了承ください。
巩(工凡) キョウ  工部        

解字 金文は、「工(工具)+人が両手を出した形」の会意。人が両手で工具を持つ形。工は甲骨文字でノミ(鑿)の形とされる。音符「巩キョウ」となるほか、工具を上下させて打つことを表わす。篆文は手が独立し、以後「工丮」を経て旧字で「巩」の形になったが、単独で使われることはなく、新字体で音符となるとき、「工凡」と表記される。
※両手をだした形の丮ケキは、現代字では丸ガンに変化していることが多い。例:執シツ孰ジュク埶ゲイ。丮⇒凡に変化するのは珍しい。 

イメージ 
 「形声字」(恐・鞏) 
 工具で「とんとんと打つ」(跫・筑・築)
音の変化  キョウ:恐・鞏・跫  チク:筑・築(※チクの音符は竹チク) 

形声字
 キョウ・おそれる・おそろしい  心部 kǒng
解字 旧字は「心+巩(キョウ)」の形声。不安でおそれる気持ち(心)を恐キョウという。[説文解字]は、「ク(おそれる)也」とする。新字体で恐に変化する。
意味 (1)おそれる(恐れる)。おそろしい(恐ろしい)。おどす。「恐怖キョウフ」「恐慌キョウコウ」(恐れあわてる。パニック)「恐喝キョウカツ」(おどして金品をゆすりとる)「恐竜キョウリュウ」 (2)おそれいる。かしこまる。「恐縮キョウシュク
 キョウ・かたい  革部 gǒng
解字 旧字は「革(革ひも)+巩(キョウ)」の形声。革ひもで固く縛ることを鞏キョウという。新字体に準じ鞏に変化する。
意味 (1)かたくくくる。つかねる。「鞏束キョウソク」 (2)かたい(鞏い)。「鞏固キョウコ」(鞏も固も、かたい意。=強固)「鞏鞏キョウキョウ」とは、かがまるさま。(3)地名。「鞏県キョウケン」(今の河南省鞏義市)。「鞏洛キョウラク」(河南省の洛陽と鞏県)

とんとんと打つ 
 キョウ・あしおと  足部 qióng
解字 旧字は「足(あし)+巩(とんとんと打つ)」の会意形声。足をとんとんと打つこと。足音をいう。新字体に準じて跫に変化。
意味 あしおと(跫)。人の歩く音。「跫音キョウオン」(あしおと)「跫然キョウゼン」(足音がよく聞こえるさま)「空谷跫音クウコクのキョウオン」(人気のない寂しい谷に足音がひびく。予想外の訪問や便りのたとえ)
 キョウ・こおろぎ  虫部
解字 「虫(むし)+巩(とんとんと打つ)」の会意形声。羽をこすりあわせて、くぎるように音を出して鳴くコオロギをいう。新字体に準じて蛩に変化。
意味 (1)こおろぎ(蛩)。直翅目の昆虫。「吟蛩ギンキョウ」(コオロギの鳴き声)「秋蛩シュウキョウ」(秋のコオロギ)(2)セミのぬけがら。(3)いなご。(4)「蛩蛩キョウキョウ」とは、うれいを抱くさま[楚辞・九歎]。
 チク  竹部 zhù 
解字 旧字は、「竹(たけ)+巩(とんとんと打つ)」の会意形声。この字で、音符は竹チクになるが参考のため重出した。細い竹でとんとんとたたいて鳴らす楽器のこと。新字体に準じて筑に変化。

中国古代楽器の「筑」(中国のネットから)https://baike.baidu.com/item/%E7%AD%91/20237697
意味 (1)中国の古代楽器。筝(琴)に似た形で、弦を竹の細棒で打って鳴らす。弦は先秦時代は5弦であったが、のち13弦となった。(2)筑紫国(つくしのくに)の略。「筑前チクゼン」(旧国名。今の福岡県の北西部)「筑後チクゴ」(旧国名。今の福岡県南部)
 チク・きずく  竹部 zhù
解字 「木(き)+筑チク(=巩。とんとんと打つ)」の会意形声。木の棒を手に持ち、まんべんなく土をたたき固めて土台工事をすること。
意味 (1)つく。つきかためる。「築地ついジ」(土を突き固め瓦屋根を葺いた土塀)「築地つきジ」(海や沼を埋め立てて築いた土地)「築山つきやま」(庭園などに土を突き固めてつくる山)「版築ハンチク」(板で枠を作り、土を入れて杵で搗き固めること。この層を何層も重ねて城壁や土壇を造る)(2)きずく(築く)。建物をつくる。「建築ケンチク」「構築コウチク」「築城チクジョウ
<紫色は常用漢字>

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音符 「劦キョウ」 <多くのちから> 「協キョウ」「脅キョウ」「脇キョウ」

2024年08月09日 | 漢字の音符
 キョウの音符字はすべて常用漢字です。
 キョウ  力部 xié・liè


  上は劦キョウ、下は力リキ
解字 劦キョウの甲骨文字は「農具のスキ(耜)三つを置いた形。農耕に関する祭祀儀礼を表したものであろう(甲骨文字辞典)」とする。金文は口サイ(器物)の上にすき(耜)三つを置いた形。この形は甲骨文にもあり、祭祀儀礼を表したものと思われる(意味は把握できていない)。篆文は力を「筋肉のちから」の意味にかえており、力を三つ組み合わせた形で[説文解字]は、「力を同(とも)にする也(なり)。三力に従う」とし、力を合わせる意とする。
意味 ともにする。ちからをあわせる。

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 「ちからを合わせる」
(協)
 「形声字」(脅・脇)
音の変化  キョウ:協・脅・脇

力をあわせる
[恊] キョウ・かなう  十部 xié 
解字 「十(おおい)+劦(力をあわせる)」の会意形声。多くの力を一つにあわせる意。忄(こころ)のついた恊は異体字で[諸橋大漢和]は「協は衆人の和する意。恊は衆心の和する意」とし、両字に若干の違いがあることを説明している。
意味 (1)あわせる。力を一つにあわせる。「協力キョウリョク」「協議キョウギ」「協奏曲キョウソウキョク」「協和キョウワ」(なかよくする)(2)かなう(協う)。うまくいく。「協調キョウチョウ」「妥協ダキョウ

形声字 
 キョウ・おびやかす・おどす・おどかす・おびえる  月部にく xié
解字 「月(からだ)+劦(キョウ)」の会意形声。キョウは劫キョウ(おびやかす)に通じ、人のからだを脅かすこと。
意味 (1)おびやかす(脅かす)。おどす(脅す)。「脅迫キョウハク」「脅威キョウイ」 (2)おびえる(脅える)。すくむ。「脅息キョウソク」(息をころす)「脅肩キョウケン」(肩をすくめる)
 キョウ・わき  月部にく xié
解字 「月(からだ)+劦(キョウ)」の形声。キョウは挟キョウ(はさむ)に通じ、両側からはさまれる体の胴の部分、すなわち両脇をいう。したがって、劦は横に付いている。
意味 (1)わき(脇)。「脇腹わきばら」「両脇りょうわき」「脇見わきみ」(よそみ) 
(2)かたわら。そば。「脇息キョウソク」(ひじかけ)「脇侍キョウジ」(仏像の左右に置かれる像。脇士わきじ

脇息キョウソクにもたれる若衆髷の男(鳥居清信画)[浮世絵フリー素材サイト]
<紫色は常用漢字>

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音符「豪ゴウ」<毛が長くて強いイノシシ> と 「濠ゴウ」「壕ゴウ」

2024年08月07日 | 漢字の音符
 ゴウ・コウ・やまあらし・おさ  豕部 háo      


  上は豪ゴウ、下は豕
解字 篆文は「豕(いのしし)+高(たかい⇒長い)」の会意形声。豕はイノシシまたはぶたの姿を描いた象形だが、ここではイノシシの意。長い毛をもつイノシシの意で、剛ゴウ(つよい)に通じ、長く強い毛をもつヤマアラシをいう。人に移して、つよい・すぐれる意となる。現代字は高が略体になっている。

ヤマアラシ(秋田市大森山動物園)
意味 (1)やまあらし(豪)。「豪猪やまあらし・ゴウチョ」(2)つよい。たけだけしい。「豪快ゴウカイ」「豪傑ゴウケツ」(3)すぐれる。「文豪ブンゴウ」(4)おさ(豪)。かしら。「豪族ゴウゾク」(土地に土着し、大きな富や勢力を持つ一族)「土豪ドゴウ」(その土地の豪族)(5)ぜいたく。さかん。「豪華ゴウカ」「豪遊ゴウユウ」(6)オーストラリアの表記。「豪州ゴウシュウ」(=濠州)

イメージ 
 「やまあらし」
(豪)
 「形声字」(濠・壕)
音の変化  ゴウ:豪・濠・壕

形声字
 ゴウ・ほり  氵部 háo
解字 「氵(水)+豪(ゴウ)」 の形声。ゴウという名の中国・安徽省にある川の濠川ゴウセンをいう。淮水(淮河ワイガ)に流れ込む。転じて、城の堀の意に用いられる。
意味 (1)ほり(濠)。城のまわりにめぐらした水のはいったほり。「内濠ナイゴウ」「外濠ガイゴウ」「環濠カンゴウ」(周囲に濠をめぐらす)「環濠集落カンゴウシュウラク」 (2)オーストラリアの表記。「濠州ゴウシュウ」(=豪州)

大和郡山市(奈良県)稗田(ひえだ)の環濠集落(国土地理院)
 ゴウ・ほり  土部 háo
解字 「土(つち)+豪(=濠。ほり)」の会意形声。土を掘った水のない堀をいう。
意味 ほり(壕)。みぞ。土を深く掘ったみぞ。戦いなどで防御として使う。「塹壕ザンゴウ」(塹も壕も、ほりの意。野戦で掘った土を敵に向けて積み上げ、身をかくすほり)「防空壕ボウクウゴウ」(空襲のとき逃げ込む土地をトンネル状に掘った構築物)

塹壕で訓練を行うドイツ軍・1917年ウィキペディア「塹壕」より)
<紫色は常用漢字>

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音符「稟リン」<穀物倉> と 「廩リン」「凜リン」「懍リン」 と 「啚ヒ」「鄙ヒ」「図[圖]ズ」

2024年08月05日 | 漢字の音符
   リン <穀物倉・こめぐら>
稟[禀] リン・ヒン・うける  禾部 bǐng


①陶製のミニチュア穀物倉(中国のネットから)②西漢代の陶製ミニチュア穀物倉(「中国宜春市博物館所蔵
解字 金文は「穀物倉+禾(こくもつ)」で、実った禾を保管する穀物倉(日本では、こめぐら)を表す。漢代の穀物倉の製陶ミニチュアの屋根①は丸く先がとがっており似ている。②の穀物倉は高床式になっている。篆文は「亠(やね)+回(回りの厚い壁)+禾(こくもつ)」のになり、これが現在に続いている。この字の原義は穀物倉だが、穀物倉から俸給としてもらう米や穀物の意から、うける(ける)・さずかる意となり、さらに転じて生れつきの資質をさずかる意となる。また、さずかる意から、さずけた者に対し謝意などを「申し上げる」意ともなる。禀は下部を禾⇒示に変えた俗字で、禾の字が下部にあり斜めの線が書きにくいためにうまれた。
意味 (1)こめぐらから給料として与える米。ふち(扶持)。「稟給ヒンキュウ」(俸給)(2)うける(ける)。さずかる。「稟賦ヒンプ」(生れつき与えられた)「稟性ヒンセイ」(生れつき。天性)(3)申し上げる。「稟議リンギ・ヒンギ」(①意見を上に申し上げる。建議する。②[日本]担当者が文案を回覧して承認を得ること)「稟申リンシン・ヒンシン」(申し上げる。上申)(4)こめぐら(稟)。こくもつぐら。日本では「こめぐら」と表現している。

イメージ  
 「こめぐら(転義)」(稟)
 「こめぐら(穀物倉)」(廩・凜・懍)
音の変化  リン:稟・廩・凜・懍

こめぐら(穀物倉)
 リン・くら  广部 lǐn
解字 「广(やね)+稟(こめぐら)」の会意形声。稟(こめぐら)が、うける(稟ける)や申し上げる等の意味で使われるようになったので、广(やね)をつけて本来の意味をあらわした。
意味 (1)くら()。こめぐら。「倉廩ソウリン」「廩囷リンキン」(くら。方形を、円形を囷という) (2)ふち(扶持)。給料として与える米。(=稟)「廩給リンキュウ」(=俸給)「廩食リンショク」(官から支給される俸禄のこと)「黄衣廩食コウイリンショク」(黄衣は宦官が着る服。俸禄を支給され宮中に仕える役人の宦官のこと) (3)蓄積する。あつまる。
凜[凛]リン  冫部 lǐn
解字 「冫(こおり)+稟(こめぐら)」の会意形声。米ぐらの周辺が寒気におおわれること。寒さがきびしい意となり、転じて、寒さで身や心がひきしまる意ともなる。凛は俗字。
意味 (1)さむい。寒さがきびしい。「凜冽リンレツ」(寒気が厳しいさま)「凜気リンキ」(冷気)(2)りりしい。身や心がひきしまる。「凜(りん)と」(①しっかりとした態度。②音や声がよくひびくさま)「凜凜リンリン」(勇ましく勢いがあるさま。寒さで身がひきしまるさま)
 リン・おそれる  忄部 lǐn
解字 「忄(こころ)+稟(=凛。寒さがきびしい)」の会意形声。きびしい寒さに心が引き締まること。転じて、おそれる意となる。
意味 (1)つつしむ。身や心が引き締まる。「懍懍リンリン」(①つつしむ。②おそれつつしむ)(2)おそれる(懍れる)。「懍慄リンリツ」(①寒くてふるえる。②おそれおののく)



  <穀物倉のある領地>
 ヒ 口部 bǐ・tú

解字  甲骨文字は「囗(区画した地域)+(屋根)+左右二つのふくらみ」の形。屋根の下の二つのふくらみは厚い壁を表し、屋根と併せて穀物倉を表す。上についた囗(区画した地域)は、この穀物倉に穀物を収める地域を表す。金文は区画した地域が〇になり、穀物倉がかなり変形した。篆文は「囗(区画した地域)+亠(やね)+回(厚い壁)」となり、現代字の啚となった。
 農村の支配者は、領地の農民が収穫した穀物を保管する穀物倉を必要とした。そこで一定の農家戸数ごとに倉を作って管理した。啚は穀物倉のある農村の領地の意。鄙の原文。
意味 穀物倉のある農村の領地(=鄙)。鄙の原文。金文に「都啚トヒ」(=都鄙。みやこといなか)の用例がある。

イメージ 
 「穀物倉のある農村の領地」(啚・鄙・図)
音の変化  ヒ:啚・鄙  ズ・ト:図

穀物倉のある農村の領地
 ヒ・ひな・いやしい  阝部 bǐ
解字 「右についた阝おおざと(村・行政区画)+啚(穀物倉のある農村の領地)」の会意形声。農村の領地である行政区画のむら。殷の次の周代になると、鄙は500戸の集落を言った。かなり大きなむらであるが都からみると田舎なので、いなかの意となった。
意味 (1)ひな(鄙)。いなか。さと。「辺鄙ヘンピ」(かたいなか)「鄙語ヒゴ」(いなか言葉)(2)いやしい。「鄙吝ヒリン」(心がいやしくて物惜しみする)(3)自分を謙遜していう。「鄙見ヒケン」(つまらない考え)
[圖]ズ・ト・はかる  囗部 tú 
解字 旧字はで、「囗(全体の範囲)+啚(穀物倉のある農村の領地)」 の会意。穀物倉のある農村の領地の全体(囗)を図面で示した形で地図のこと。農村の領地の地図は支配する者にとって基本となるものだった。領地の境界などをはっきりさせるため、①領地の確定を計画(意図)し、紙面に図を書きこむこと。また、②出来た地図をいう。のち、農村だけでなく都市図・道程図・版図(領土の地図)などが作られた。新字体は⇒図に簡略化された。
意味 (1)はかる(図る)。考える。計画。「意図イト」「企図キト」(2)ず(図)。ずめん。え。「図表ズヒョウ」「地図チズ」(3)書物・本。「図書館トショカン
<紫色は常用漢字>

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音符「戠ショク」 と 「職ショク」「織ショク」「幟シ」「熾シ」「識シキ」

2024年08月03日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ショク・シキ  戈部 zhí      

解字 [甲骨文字辞典]は「戠ショク・シキの甲骨文字(上)は細いノミ(鑿)の象形である丵サク型)と戈(ほこ)に従う。戈は犠牲を殺す道具、丵は犠牲を解体する道具であろう。異体字(下)には口を加えて言と同形にしたものがある。意味は①祭祀名。②地名またはその長。③赤色を示す形容詞(当て字)の用法などがある」とする。金文は言の口に短い横線がはいり音となった。篆文は「音+戈」の戠となるが[説文解字]は「闕ケツ(欠)。戈に従い音に従う。発音は从之弋(ショク)切」とし意味は示していない。現在の意味も、①同音の埴ショクに通じた埴(はに)。粘土。②聚合」などの意味しかない。つまり戠は発音のショク・シキ・シを表す音符字である。戠を含む音符字は、すべて形声字となる。

イメージ 
 「形声字」
(幟・識・職・織・熾) 
音の変化  ショク:職・織  シ:幟・熾  シキ:識

形声字
 シ・のぼり  巾部 zhì
解字 「巾(ぬのが垂れた形)+戠(ショク⇒シ)」の形声。長い布を目印として立てることを幟といい、のぼり(幟)の意味をあらわす。
意味 (1)のぼり(幟)。長い布に模様をつけてめじるしとして立てる旗。「旗幟はたのぼり」「旗幟キシ」(表立って明らかにする態度)「旗幟キシを鮮明にする」「鯉幟こいのぼり」(鯉のかたちをした幟)「赤幟セキシ」(赤い旗。源平合戦では平家の旗)(2)[仏教]しるす。あらわす。「標幟ヒョウジ」(形でその内容を表現すること。密教では、印(指の組合せ)・持物などで仏の役割を表す)
 シキ・しる・しるす  言部 shí・zhì
解字 「言(ことば)+戠シキ」の形声。[説文解字]は「知る也」とし、「廣韻」などの韻書は、「記(しる)す也(なり)」とする。言葉をしるすことを識シキという。また、言葉にしるすことによって深く認識することをいう。
意味 (1)しるす(識す)。しるし。「標識ヒョウシキ」(標も識も、しるしの意。目印) (2)しる(識る)。考える。さとる。「識別シキベツ」「認識ニンシキ」「識見シキケン
 ショク・シキ・おる  糸部 zhī・zhì
解字 「糸(いと)+戠(ショク)」の形声。糸で布を織ることを織ショクという。
意味 (1)おる(織る)。布をおる。はたおり(機織り)。「織機ショッキ」「染織センショク」(染めと織り)「紡織ボウショク」(糸を紡ぐことと織ること) (2)あやぎぬ。色糸で織った絹。「織文ショクブン」(模様のある織物。錦にしきなど) (3)組み立てる。組み合わせる。「組織ソシキ
 ショク  耳部 zhí

解字 「耳(みみ)+戠(ショク)」の形声。耳で聞いて知り覚えることを職という。転じて、役割・担当する・つとめる意を表す。職の字は金文からあり、部首と戠が組み合わさった字形としては一番はやくからある。なお、白川静[常用字解]は「戦場で討ち取った敵の左耳を切り取って戦功の証拠とするが、その耳に識(しるし)をつけることを示しているのが職である。識(しるし)をつけて戦功を取り扱うことを職というので「つかさどる(職務として担当する)」の意味となり「つとめ、しごと」の意味となる。」と独特な解釈をしている。
意味 (1)つとめ。役目。担当する。「職務ショクム」「職掌ショクショウ」(うけもつ職務)(2)しょく(職)。いとなみ。しごと。「就職シュウショク」「定職テイショク」 
 シ・さかん・おき  火部 chì
解字 「火(ひ)+戠(ショク⇒シ)」の形声。火のいきおいが盛んなさまを熾という。転じて、勢いがはげしいさまをいう。
意味 (1)さかん(熾ん)。勢いがはげしい。「熾烈シレツ」(勢いが盛んで激しい)「熾盛シセイ」(熾も盛もさかんの意)(2)[国]おき(熾。=燠)。薪が燃えて炭火のようになったもの。「熾火おきび」(赤く熱した炭火)
<紫色は常用漢字>>

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音符「囱ソウ」<まど>と「窓ソウ」と「悤ソウ」「総ソウ」「聡ソウ」

2024年08月01日 | 漢字の音符
  ヤオトン(穴住居)の窓
 ソウ・まど  ノ部 cōng     


①荒れ果てて放置された穴住居のヤオトン(中国のネットから)

②人が住んでいるヤオトン(ブログ「春風駘蕩舎」より)
解字 ヤオトン(中国語で窑洞yáo dòng)は中国北部の黄土高原に住む人々の伝統的な居住様式。中国の陝西省・甘粛省・遼寧省にひろがる黄土の層は非常に厚く、人々はこの地形を利用してヤオトンという住居を造り上げた。多くは高原の崖に面した所に穴を掘りこんだが、平らな所に大きな穴を掘り、その四方に住居を掘る形式もある。土の家なので夏は涼しく冬は暖かい。
 ①は崖に穴を掘ったヤオトンで、穴の上部に換気窓があり、窓の桟サンに交差線が交わる部分があり、篆文の窓穴の形を連想させる。②は平らな所に穴を掘り、その四方に住居を掘った陝西省のヤオトンで、換気や煙出しとしての窓が独立しており、文字の囱(まど)の形を表している。
意味 まど(囱)。けむりだし。

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 「まど」(囱・窓)
 「形声字」(悤・総・聡)
音の変化  ソウ:囱・窓・悤・総・聡

まど
[窗] ソウ・まど  穴部 chuāng 

解字 篆文は窗で「穴(横穴)+囱(まど)」の会意形声。横穴住居(ヤオトン)の換気窓のこと。この字が旧字まで続いたが、現代字は「穴(あな)+忩の略体(ソウ)」で囱ソウを同音の忩ソウの略体に変えた形。窓は窗の俗字として使われていたが、第二次戦後、新字体として正字となった。窓にどうして心がつくのか? 疑問の残る字である。
意味 (1)まど(窓)。「窓外ソウガイ」「窓口まどぐち」 (2)窓のある部屋。教室。学校。「学窓ガクソウ」「同窓ドウソウ

形声字
悤[忩] ソウ  心部 cōng

解字 篆文・旧字とも「心(こころ)+囱(ソウ)」の形声。ソウは匆ソウに通じ、心をつけた怱ソウの意味である、あわてる・いそぐ意となる。意味 あわてる(悤てる)。いそぐ(悤ぐ)。しかし、悤は意味と関係なく発音を表す音符字として用いられる。また、旧字の悤は現代字で忩に変化する。
ソウの正体は何か?
 私の推測では忩ソウは悤ソウの俗字、すなわち略字であろう。なぜかというと悤は画数が11画あるのに対し、忩は8画である。画数が多い悤に代わり、囱(7画)の部分を公(4画)に略した忩が俗字として普及し、ついに正字にまで登りつめたのが、窓・総・聡である。窓になぜ心があるのか不思議に思ったが、こう考えると納得できる。しかし、略字の忩は正統派の文字ではない。

[總] ソウ・すべる  糸部 zǒng

解字 篆文はで「糸(いと)+悤(ソウ)」の形声。[説文解字]は「聚(あつ)めて束ねるなり」とし、糸束の末端を結んでまとめることをいう。また、まとめた糸を通じて全体を思うようにコントロールすること。旧字までのかたちだが、新字体は悤⇒忩に変化した総になる。
意味 (1)まとめる。ひとつにくくる。「総括ソウカツ」「総合ソウゴウ」(2)すべる(総べる)。全体を治める。統率する。「総理ソウリ」「総督ソウトク」(総べひきいる官)「総領事ソウリョウジ」(3)ふさ(総)。糸をくくった飾り。また、髪の毛を束ねること。「総角ソウカク・あげまき」(子どもの髪をつののように両側に束ねた髪)「総髪 ソウハツ」(髪の毛全体を後ろに垂らして束ねた髪形)
聡[聰] ソウ・さとい  耳部 cōng

解字 篆文はで「耳(みみ)+悤(ソウ)」の形声。[説文解字注]は「察する也(なり)。耳に従い悤ソウの聲(声)」とあり明察(事情・事態を見抜くこと)をいう。新字体は、悤⇒忩に変化。
意味 さとい(聡い)。かしこい。耳がよく聞こえてわかる。「聡明ソウメイ」「聡慧ソウケイ」(非常に聡明なこと)「聡智ソウチ」(さとくかしこい)
<紫色は常用漢字>

ソウの字を残したい。
 ソウはヤオトンの窓として黄土高原にすむ人々の生活様式を代表する字だが、現代字では忩ソウなどという意味のわからない俗字の全部および一部に置き換えられてしまったのは残念。本来ならばすべての旧字を正字とすべき音符群です。しかし、旧字としては残っているので使うのは個人の自由。窗ソウ・まど はヤオトンの窓そのものであるので、窗(まど)のようにルビをつけて使ったらどうでしょうか。

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