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「ハイン 地の果ての祭典」アン・チャップマン著 大川豪司訳

2017-06-24 | 先住民族関連
日刊ゲンダイ-2017年6月23日

20世紀末に絶滅した南米の先住民族セルクナム族の文化と特異な彼らの祭典「ハイン」を伝える文化人類学リポート。
 1923年に行われたハインに立ち会ったドイツ人文化人類学者のマルティン・グシンデ神父による写真や記録に加え、関係者やセルクナム族の末裔たちの証言などから、人類が定住した最も南の最果ての地で行われていた希少な儀式を再現する。
 セルクナム族が住んでいたティエラ・デル・フエゴ(フエゴ諸島)は、南米大陸の南端、マゼラン海峡で大陸と隔てられて点在する島々。南極大陸と1000キロも離れていない過酷な土地に、かつて言語も生活様式も異なる4つの部族があり、セルクナム族はそのひとつだった。
 若い男たちの通過儀礼だったハインは、その昔は、1年以上の長い期間をかけて行われたそうだ。
 全裸かグアナコやアザラシの毛皮一枚をまとうだけで暮らしている彼らだが、ハインでは、体中を美しく彩色してそれぞれの役割に扮装する。
 中でも、もっとも手の込んだ扮装をするのが、精霊役の男たちだ。のっぺりとした仮面をかぶり、白く塗った体に太い赤の縦縞(写真)や、横縞に白い雪のようなまだら模様、深紅の全身に細い白の横縞、彩色された体全体を鳥の綿毛や綿羽で覆った姿など、参加者は異界に入り込んでしまったかのような錯覚を覚えたことだろう。
 ハインの重要な目的は、極端な父権制社会の維持であり、若い男を鍛え、女たちに身のほどをわきまえさせておくための儀式であるとともに、社交の場であり、重要な宗教的意味も持っていた。ゆえにこうした扮装は女たちをだまし、時に笑わせるためのもので、女性たちは精霊たちが本当にいると信じて(あるいは信じているふりをして)いたそうだ。
 ハインのもとになる神話を解説した上で、グシンデ神父が撮影した写真をもとに、1923年のハインの様子を克明に紹介。読めば読むほど、人々と精霊たちが織りなす物語の不思議な世界に引き込まれていく。
 1880年ごろにはセルクナム族と、隣接して住んでいたハウシュ族(彼らも彼らのハインを行っていた)の人口は合わせて3500~4000人ほどいたという。しかし、彼らの土地を植民地化した西洋人による虐殺や、持ち込まれた疫病で1930年ごろには100人ほどに減少。最後のハインが行われたのが1933年で、1999年には生粋のセルクナム族の女性が亡くなり、彼らは地上から消えてしまった。
 部外者に秘匿され続けてきた幻の祭典と、アートのような彼らの身体彩色を今に伝える貴重な書。(新評論 3000円+税)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/207948

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新移民法=一部項目拒否の末に裁可=恩赦や先住民国境移動は不可=反対運動やJBS騒動の影響?

2017-06-24 | 先住民族関連
ニッケイ新聞 2017年6月23日

4月18日新移民法承認時の上院の様子(Fabio Rodrigues Pozzebom/Agência Brasil)
 5月24日は、ブラジリアで大規模反政府デモが発生し、デモに紛れた暴徒が官庁に投石、火を放っため、テメル大統領が軍も出動させるほどの大荒れの一日だった。この日は同時に、昨年12月に下院を、今年4月18日には上院も通過した「新移民法」の大統領裁可の期限日だった。5月17日の〃JBSショック〃以降、その火消しに躍起の大統領は、もはや移民法の裁可も拒否権行使もできず、法律全文承認となる可能性もあった。しかし、デモ隊鎮圧のために軍の出動さえも命じたその日の夜、テメル大統領は新移民法の一部拒否権行使の上で、裁可を行った。「移民大国」にとってこの法律は、最も国柄を示すといっていいものであり、一部拒否権行使にいたった経緯を追った。
 そもそも伯国は、移民受入れに前向きな国だ。先住民族出身者以外すべてが移民にルーツを持つと考えれば、国民のほとんどが、移民子孫ともいえる国だ。
 ポルトガル、イタリア、ドイツなどの欧州のみならず、アフリカ系、シリア、レバノン系、日系の子孫も、多くが国家中枢を担っている。
 アロイジオ・ヌネス上院議員(当時、今は外相)(民主運動党・PSDB)が13年に提出した新移民法は、最初に上院を通過した後、下院で変更点が加えられ承認。変更点が出たため上院での再承認まで、3年以上のプロセスをかけて両院でじっくりと議論されてきた。
 ヌネス外相は、「新移民法は、移民を国家への不安要素ととらえ、移民に差別的な条項を含む、1980年、軍政時代制定の外国人法を廃止し、より現代的な内容にして、移住者の権利の保護、移住者や旅行者の伯国入国時や滞在に関する規定を定めたもの」としている。
 この4年は、与野党が激しく入れ替わった。その過程でいくつかの法案は、本来のコンセプトよりも、党利党略に影響されてきた。だが新移民法は右派、左派の別なく、昨年12月の下院も、今年4月の上院も、賛成多数で可決されてきた。
 民主社会党(PSDB)のアロイジオ・ヌネス外相が提案した法律の下院報告官を、伯国共産党(PCdoB)のオルランド・シウヴァ下議が務めるという、政争の具にさえなりようがない法案だった。これに対して拒否権を行使させたのは一部国民の声だった。
欧米の影響で国内に反移民の流れ
 2011年のシリア内戦に端を発する大量のシリア難民の欧州流入。それが引き起こしたショックは当然伯国民もニュースで目にするところとなった。
 イギリスのEU離脱や、「イスラム教徒の入国制限」や「メキシコ国境に壁を作る」と公約したトランプ氏の大統領就任、リベラリズムの象徴的存在だったフランスでの極右政党台頭の波は、確実に伯国にも届いていた。
 「新移民法で、イスラム教徒がどんどん入ってくるぞ! そんなのごめんだ!」と叫ぶ、新移民法裁可の阻止を目的とした反対運動は、4月18日の上院承認から激しさを増し、インターネットには「テメル拒否しろ」の書き込みがあふれた。
 聖市では4月25日、5月2、16日と、3回の反対デモが発生し、そのうち5月2日のデモの際にはデモ隊と、アラブ系移民が衝突し、負傷者や逮捕者も出る騒ぎとなった。
 それでも政権基盤が盤石ならば、法案は全文裁可となった可能性が高い。現に与野党間で、新移民法より、賛否両論激しかった派遣法などは、裁可期限より大きく前倒しで裁可されている。しかし、5月17日の「JBSショック」がテメル政権を大きく弱体化させてしまった。
 拒否権行使の直前となる5月21日以降は、国防省や軍警、GSI(安全保障局)などからの拒否要求もあり、24日の裁可期限日までにいくつかの項目が拒否されることは確実になっていた。
 結局、新移民法の裁可は、事前に報道されていた6項目を大きく上回る、20項目の拒否と共に行われた。
 拒否された項目の中には、「2016年7月6日までに入国した全ての移民に対し恩赦として居住許可を与える」や、「伯国内に居住する先住民族が伝統的に専有してきた地域内の移動の自由は、たとえ隣国との国境をまたぐ事になっても保証する」「移民が公職に就くことを許可する」「公職採用試験に受かったら居住権を与える」「1988年より前に宣告された国外追放令の失効」が含まれた。
 人権擁護系NGOコネクタス・ジレイトス・ウマ―ノスの対外政策部門コーディネーター、カミーラ・アサノ氏は、「裁可された法案は、人権の観点から見ればかなりの進歩と言える。しかし、より実効性を与える項目に関して、いくつか拒否されてしまったことは残念」と語った。
 反対に「新移民法は国を滅ぼす! 伯国でもイスラム過激派のテロがはびこる。伯国は伯国人のもの」と過激な主張を繰り返し、反対デモを主催してきたジレイタ・サンパウロは、「法案の完全拒否を望んではいたが、当初我々を外国人排斥主義者、差別主義者と呼んで我々の声を聞こうともしなかった状態だった政府が、一部とはいえ拒否権を行使した事に満足している」との声明を出した。
 JBS騒動や、選挙高裁の行方、さらに年金改革を含む社会保障制度改革のための憲法改正案や労働法改正の議論に隠れて決着した新移民法。世界的に各国が「内向き」姿勢を打ち出しつつある中、今後の伯国の移民政策にどのような影響を及ぼすのか、今後の法改正を含めた行方が注目される。
http://www.nikkeyshimbun.jp/2017/170617-b1especial.html

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