北海道新聞 03/09 05:00
■雲や湧き水表現
大地が「創造の扉」となり、生まれるアートがある。
「頭に浮かぶデザインを形にすると、大自然へとつながっていく」。釧路市阿寒町の銀細工職人、下倉洋之さん(42)が、自作の腕輪を手に取った。内側に彫り込んだ幾つもの渦巻きで風を表現した、アイヌ民族の文様の影響を受けたデザインだ。
阿寒摩周国立公園を訪れる観光客でにぎわう阿寒湖温泉街の外れに下倉さんの工房「rakan(ラカン)」がある。妻絵美さん(44)の伯父でアイヌ美術の彫刻家、故床ヌブリさんの作業場を引き継ぎ2015年に開いた。雲、湧き水、芽吹き…。自然の営みを銀で表現したペンダントや指輪なども並ぶ。
横浜市出身。専門学校を経て東京都内の彫金工房で働いていた1998年、オートバイでツーリング中に寄った二風谷アイヌ文化博物館(日高管内平取町)でアイヌ民族の衣装にほどこされた刺しゅうにくぎ付けになった。「単純な曲線や渦巻きなのに、見えない何かへの敬意が伝わりズドン―と胸に響きました」
アイヌ文化を調べ、自然との共生の歴史を知った。その後、都内でアイヌ音楽の歌手として活躍していた絵美さんと出会い結婚。13年から、絵美さんが育った阿寒湖温泉のアイヌコタン近くで自然に寄り添い暮らす。
阿寒湖温泉に遅い春が来ると、摘み立てのフキノトウを絵美さんが煎じた茶が大地の息吹を体に吹き込む。国の特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」をまつる「まりも祭り」の前には、コタンの“男衆”に加わりアイヌ民族の祭具イナウ(木幣)の材料のヤナギを採りに山へ向かう。昨秋は釧路管内白糠町の茶路川でアイヌ民族の伝統漁「マレク(もり)漁」に参加。大きなサケの命の重みを体で感じた。アイヌ民族が文様に込めた自然への敬意を日々感じ共感する。
6月に東京で新作を発表する。作品にはあえて説明は添えないつもりだ。「阿寒の暮らしが作品に影響しているかとよく聞かれるが、自分では分からない。手に取った人が何を感じてくれるかが、その答えだと思う」
■下倉洋之さんと彫刻家藤戸幸夫さん(オホーツク管内津別町在住)の二人展
6月14日(木)~17日(日)、アトムCSタワー(東京都港区新橋)。問い合わせは工房「rakan(ラカン)」(電)0154・64・1728へ。
◇
工房「rakan(ラカン)」は釧路市阿寒町阿寒湖温泉3の8。午前10時~午後5時、要予約。不定休。7月にカフェを併設予定。予約は(電)0154・64・1728へ。
下倉さんの作品は、阿寒湖温泉1の土産店「AKANKO STYLE ART LABO(阿寒湖スタイル・アート・ラボ)」、札幌市中央区南3東1の「G.M(ジェロニモ)」、胆振管内白老町の「アイヌ民族博物館」でも取り扱い中。
下倉さんは、オホーツク管内津別町在住のアイヌ民族の彫刻家・藤戸幸夫さんと6月11~17日、東京都新橋のアトムCSタワーで二人展を、同20~26日には東京都港区南青山の「グラスギャラリー・カラニス」で大阪市在住のとんぼ玉作家・増井敏雅さんと二人展を開く。
■湿原の生物題材
今にも動きそうなキタサンショウウオやエゾアカガエル、獲物を狙うエゾフクロウ…。釧路市の竹本万亀(まき)さん(43)宅に自作の切り絵がゆらゆらとぶら下がる。高校の美術教師で、札幌、東京などで多数個展を開催する切り絵作家だ。釧路湿原周辺に生息する生き物が題材だが、いずれも体に葉や風を思わせる文様を刻み込んだ幻想の姿だ。
「生き物と、彼らが生きる大自然を私流に合体させたら、こうなりました」と笑う。
釧路管内厚岸町生まれ。鶴居村、浜中町で育ち、キタキツネやエゾシカなどの野生動物が身近だった。小学1年で切り絵を始めた。初めは人物や風景を描いていたが、道教大釧路校在学中にカエルを題材にした。友人からカエルのゴム人形をもらい、子供時代に、近所の沼でカエルの卵を採っては瓶で育てたことを思い出したのがきっかけだった。
黒画用紙から切りだしたカエルの体には、自然と一体化させようと湿地や沼に茂るヨシ、水草、湧き水の水泡を思わせる模様を入れた。「もっと遊び心を」と、カエルをまんじゅうやギョーザ、信号機などあらゆるものに“変身”させたシリーズをアート系イベントなどで発表し話題となり、道内外から出展依頼が来るようになった。トカゲ、モモンガ…とレパートリーは広がり、新作は年間30を超す。
アイヌ民族がカムイ(神)とあがめた動物たちを題材とした竹本さんの切り絵に、宗谷管内中頓別町在住の公務員榎田(えのきだ)純子さん(43)が詩を添えた二人展「カムイ絵巻」が、釧路市立美術館で31日まで開催中だ。一昨年、北九州市でも開催し、竹本さんの切り絵の妖しげな雰囲気が、反響を呼んだ。
「創作意欲をかき立てる生き物が身近にいるから生まれた作品。実物そのままではなく、似ているけど、違うのが面白い―。そんな作品を作っていきたい」(佐竹直子)
■「ここに住まうもの大集合! カムイ絵巻」
31日(土)まで、釧路市立美術館(幣舞町4)。問い合わせは美術館(電)0154・42・6116へ。
◇
竹本万亀さんの切り絵は、「創作の遊び場RANGAI」ホームページ(http://rangai.main.jp/archives/author/maki-takemoto))で紹介中。釧路市立美術館(幣舞町4)で開催中の「カムイ絵巻」は31日まで。入場料は一般140円、大学生以下無料。午前10時~午後5時。月曜休館。問い合わせは釧路市立美術館(電)0154・42・6116へ。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/170423
■雲や湧き水表現
大地が「創造の扉」となり、生まれるアートがある。
「頭に浮かぶデザインを形にすると、大自然へとつながっていく」。釧路市阿寒町の銀細工職人、下倉洋之さん(42)が、自作の腕輪を手に取った。内側に彫り込んだ幾つもの渦巻きで風を表現した、アイヌ民族の文様の影響を受けたデザインだ。
阿寒摩周国立公園を訪れる観光客でにぎわう阿寒湖温泉街の外れに下倉さんの工房「rakan(ラカン)」がある。妻絵美さん(44)の伯父でアイヌ美術の彫刻家、故床ヌブリさんの作業場を引き継ぎ2015年に開いた。雲、湧き水、芽吹き…。自然の営みを銀で表現したペンダントや指輪なども並ぶ。
横浜市出身。専門学校を経て東京都内の彫金工房で働いていた1998年、オートバイでツーリング中に寄った二風谷アイヌ文化博物館(日高管内平取町)でアイヌ民族の衣装にほどこされた刺しゅうにくぎ付けになった。「単純な曲線や渦巻きなのに、見えない何かへの敬意が伝わりズドン―と胸に響きました」
アイヌ文化を調べ、自然との共生の歴史を知った。その後、都内でアイヌ音楽の歌手として活躍していた絵美さんと出会い結婚。13年から、絵美さんが育った阿寒湖温泉のアイヌコタン近くで自然に寄り添い暮らす。
阿寒湖温泉に遅い春が来ると、摘み立てのフキノトウを絵美さんが煎じた茶が大地の息吹を体に吹き込む。国の特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」をまつる「まりも祭り」の前には、コタンの“男衆”に加わりアイヌ民族の祭具イナウ(木幣)の材料のヤナギを採りに山へ向かう。昨秋は釧路管内白糠町の茶路川でアイヌ民族の伝統漁「マレク(もり)漁」に参加。大きなサケの命の重みを体で感じた。アイヌ民族が文様に込めた自然への敬意を日々感じ共感する。
6月に東京で新作を発表する。作品にはあえて説明は添えないつもりだ。「阿寒の暮らしが作品に影響しているかとよく聞かれるが、自分では分からない。手に取った人が何を感じてくれるかが、その答えだと思う」
■下倉洋之さんと彫刻家藤戸幸夫さん(オホーツク管内津別町在住)の二人展
6月14日(木)~17日(日)、アトムCSタワー(東京都港区新橋)。問い合わせは工房「rakan(ラカン)」(電)0154・64・1728へ。
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工房「rakan(ラカン)」は釧路市阿寒町阿寒湖温泉3の8。午前10時~午後5時、要予約。不定休。7月にカフェを併設予定。予約は(電)0154・64・1728へ。
下倉さんの作品は、阿寒湖温泉1の土産店「AKANKO STYLE ART LABO(阿寒湖スタイル・アート・ラボ)」、札幌市中央区南3東1の「G.M(ジェロニモ)」、胆振管内白老町の「アイヌ民族博物館」でも取り扱い中。
下倉さんは、オホーツク管内津別町在住のアイヌ民族の彫刻家・藤戸幸夫さんと6月11~17日、東京都新橋のアトムCSタワーで二人展を、同20~26日には東京都港区南青山の「グラスギャラリー・カラニス」で大阪市在住のとんぼ玉作家・増井敏雅さんと二人展を開く。
■湿原の生物題材
今にも動きそうなキタサンショウウオやエゾアカガエル、獲物を狙うエゾフクロウ…。釧路市の竹本万亀(まき)さん(43)宅に自作の切り絵がゆらゆらとぶら下がる。高校の美術教師で、札幌、東京などで多数個展を開催する切り絵作家だ。釧路湿原周辺に生息する生き物が題材だが、いずれも体に葉や風を思わせる文様を刻み込んだ幻想の姿だ。
「生き物と、彼らが生きる大自然を私流に合体させたら、こうなりました」と笑う。
釧路管内厚岸町生まれ。鶴居村、浜中町で育ち、キタキツネやエゾシカなどの野生動物が身近だった。小学1年で切り絵を始めた。初めは人物や風景を描いていたが、道教大釧路校在学中にカエルを題材にした。友人からカエルのゴム人形をもらい、子供時代に、近所の沼でカエルの卵を採っては瓶で育てたことを思い出したのがきっかけだった。
黒画用紙から切りだしたカエルの体には、自然と一体化させようと湿地や沼に茂るヨシ、水草、湧き水の水泡を思わせる模様を入れた。「もっと遊び心を」と、カエルをまんじゅうやギョーザ、信号機などあらゆるものに“変身”させたシリーズをアート系イベントなどで発表し話題となり、道内外から出展依頼が来るようになった。トカゲ、モモンガ…とレパートリーは広がり、新作は年間30を超す。
アイヌ民族がカムイ(神)とあがめた動物たちを題材とした竹本さんの切り絵に、宗谷管内中頓別町在住の公務員榎田(えのきだ)純子さん(43)が詩を添えた二人展「カムイ絵巻」が、釧路市立美術館で31日まで開催中だ。一昨年、北九州市でも開催し、竹本さんの切り絵の妖しげな雰囲気が、反響を呼んだ。
「創作意欲をかき立てる生き物が身近にいるから生まれた作品。実物そのままではなく、似ているけど、違うのが面白い―。そんな作品を作っていきたい」(佐竹直子)
■「ここに住まうもの大集合! カムイ絵巻」
31日(土)まで、釧路市立美術館(幣舞町4)。問い合わせは美術館(電)0154・42・6116へ。
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竹本万亀さんの切り絵は、「創作の遊び場RANGAI」ホームページ(http://rangai.main.jp/archives/author/maki-takemoto))で紹介中。釧路市立美術館(幣舞町4)で開催中の「カムイ絵巻」は31日まで。入場料は一般140円、大学生以下無料。午前10時~午後5時。月曜休館。問い合わせは釧路市立美術館(電)0154・42・6116へ。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/170423