女性誌ネット 4/30(火) 10:40配信
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先住民族として、手付かずの北の大地に生き、衣食住の全てを自然の恵みのなかに育んだアイヌの人々。文字を持たなかった彼らは、手から手へバトンを渡すようにやさしく丁寧に、その独自の文化を今に伝えてきました。ガラス作家の山野アンダーソン陽子さんが北海道へ、彼らのものづくりを旅します。
時代を超えて伝わる、 アイヌ文化の現在。
守さんが彫ったイタ。クルミやカツラの木を素彫し、オイルを塗って仕上げる。二風谷に伝わるうず巻きと、陰影で表現される細かな鱗の文様が特徴的。
お隣には、雪子さんの息子さんで、アイヌ語でイタと呼ぶ盆を作る貝澤守さんの工房がある。木彫り職人の父の仕事を見て育った守さんも、伝統工芸作家として32年、その技術を伝承している。
イタに彫られた文様は、二風谷に伝わるもの。うず巻きを模したモレウノカや、鱗を模したラムラムノカが特徴で、これらはイタだけでなくさまざまな道具や衣服にも描かれる。古くから、これらの自然界のかたちは、悪い霊から身を守る、魔除けになったとされる。実際に彫るところを見せてもらった。
彫りの美しさに目を奪われる山野さん。工房は『貝沢民芸』として、店舗も兼ねている。
「とにかく細かくて、繊細な仕事に驚きました。お盆に使うにはもったいなくて、飾っておきたいくらい。彫刻に使う手作りの道具も、手入れが行き届いていて素敵ですね」
使い込まれた美しい道具に、本質を見る。山野さんも同じ、つくり手だからこその目線だろう。
工房の神様に供えられたイナウに触れさせてもらう。これも自然界の恵みのかたちだ。
「かつては結婚の儀式などで、狩りの才能を象徴するものとして彫刻の腕前が問われたと言います。本当のところはどうなんでしょうね」と、守さん。長い歴史に培われた、アイヌのロマンに思いを馳せた。
底の部分から扇形になるように編み進め、最後に三つ編みの紐を作る。つなぎ目は一箇所だけ。重りに使う石は、何でもいいわけではなく、丁度いい楕円形の石を川で探す。無くさないよう石に名前を書くほど大切。
次に向かったのは、編み糸にしたオヒョウからサラニプと呼ぶ袋を作る貝澤美和子さんのご自宅。掛け紐がついた丸底の袋を作るのは、アイヌ女性の家仕事のひとつ。山で収穫した山菜などを入れるのに使う。実は美和子さんの出身は九州。大学時代に北海道を訪れ、全く知らなかったアイヌの文化に惚れ込んだ。二風谷に嫁いでからは48年になる。
晴らしい手仕事を残すために、現代の生活に合うものも考えています」
伝統的なサラニプが完成。
伝統的な手仕事を大切にしながら、サラニプをA4版の入る四角いバッグにカスタマイズしたり、アイヌ刺繍でテーブルセンターを作ったり、より身近なものにすることにも力を注ぐ。それとともに、お年寄りに聞き取りをして文化を書き残すことにも積極的に取り組んでいる。そんな美和子さんにとって一番の先生は家に伝わる着物だと、大切な家宝を見せてくれた。
「アイヌ文様ひとつにも表現のルールや意味があるとされますが、この着物の刺繍を見て、それだけに固執しないデザインや遊び心に多くを学びました。それぞれの解釈があっていいし、自由でもいいんだと思った」
アイヌ文化をまとめた貝澤美和子さんの冊子。表紙は昔のアイヌの暮らしの様子。
文様のシンメトリーを崩す遊び心、ルールを飛び越えた美しいデザイン。伝統文化を基盤にしながらも新しさを取り入れた創作に、美和子さんが学んだことは大きい。3人のつくり手と向き合って、夜になった。
夕食は苫小牧の鮨屋『鮨一』へ。/鮨一 北海道苫小牧市錦町1-4-12
平取町立二風谷アイヌ文化博物館
北海道沙流郡平取町二風谷55
二風谷工芸館(平取町アイヌ文化情報センター内)
北海道沙流郡平取町二風谷61-6
●情報は、2019年3月現在のものです。
※本記事内の価格は、すべて税込み価格です。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190430-00010000-kjn-life