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北海道・阿寒湖畔に広がる「光の森」を歩いて感じた、見直すべき自然との付き合い方[FRaU]

2024-12-01 | アイヌ民族関連

FRaU 11/30(土) 10:40

今なおアイヌの暮らしが残る北海道・阿寒湖。湖畔に広がる美しい“光の森”は、アイヌの人々が生活の糧を得てきた場所だ。東京から長野に移住し、自給的生活に挑戦中の工作家・清水麻由子さんにとって、自然の恵みを活用して生きるアイヌの知恵は尊敬の念を抱くもの。アイヌの母を持つガイド、瀧口健吾さんと森を歩き、森と人間の理想的な関係について考えた。

アイヌとともにある“光の森”。北海道・阿寒湖畔の深い森へ

森に入る前に祈りを捧げるのがアイヌの作法。

森の前に立ち、ガイドの瀧口健吾さんは両手をこすり合わせ上下させる。清水麻由子さんもその動きに従う。森に入る前、アイヌが行うお祈り“オンカミ”を終え、森へ入る。

「木が大地をつかんでいるよう」と瀧口さんが言った木。清水さんは熱心にメモをとる。

北海道・阿寒摩周国立公園の中にある阿寒湖。マリモで知られる湖の周りには広大な森が広がり、今もアイヌが生活を営む「阿寒湖アイヌコタン」がある。

森を歩きながらアイヌの伝説を教えてくれた瀧口さん。山に暮らすアイヌは海沿いで生きるアイヌの伝説から、海の自然や食べ物について学んだそう。

彫刻家の父とアイヌの母の間に生まれた瀧口さんは両親の工芸店「イチンゲの店」を受け継ぎ、木彫り作家として活動。阿寒の森のガイドも務め、アイヌの文化を伝えている。

Photo:Kentauros Yasunaga

阿寒湖アイヌコタンにある瀧口さんの店「イチンゲの店」には父で彫刻家の瀧口政満氏の作品も。北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4-7-10。不定休。

木彫り作家としても活動する瀧口さん。

阿寒湖アイヌコタンから歩いて5分ほどで巨木がそびえる森が始まる。ここは“光の森”と呼ばれ、認定ガイドの同行が必須。

森に入る木漏れ日が美しいことからその名がついた“光の森”。

これほど広大な森を原始の姿に近く残してこられたのは、森を保全管理してきた前田一歩園財団の存在が大きい。

1906(明治39)年、初代園主の前田正名が国有未開地の払い下げを受け、阿寒湖に「前田一歩園」として牧場を開拓。スイスで見た山の美しさに心奪われた正名は阿寒湖畔の森を「伐る山から観る山にすべきである」と考え、守ってきた。

水が豊かな阿寒湖畔の森。温泉も自噴する。

1959(昭和34)年、「阿寒のハポ(母)」と呼ばれた3代目園主の前田光子が阿寒湖の私有地の一部をアイヌに無償で貸し出したことで現在も続く「阿寒湖アイヌコタン」がつくられた。

水辺に育つミズバショウは冬眠明けのヒグマに欠かせないデトックス植物。

「あの大きな葉っぱ、なんだかわかりますか?」と瀧口さん。「ミズバショウですね」と清水さんが答える。清水さんは茨城県笠間市出身。自然豊かな土地で子供時代を過ごした。美術短大でデザインを学び、古材を使った木材加工や家具製作などを行う木工所に入社。独立後は木など自然の素材を用いて小物を作る作家として活動してきた。

「ミズバショウの根茎にはシュウ酸カルシウムが含まれていて、食べると下痢をします。だからアイヌは食べません。でも冬眠明けのクマは食べて、冬眠中に体内に溜まった毒素を排出するそうです。あっちはキハダという木。古くからアイヌは腹が痛い時にその実を食べていて、とった実を乾燥させて薬のように使っていました。食べてみますか?」

アイヌはオヒョウの木の内皮から糸を作り、それを編んで衣服やバッグなどをこしらえる。

瀧口さんが、持参した黒い実を手渡す。

「ジュニパーベリーに似た香り」と清水さん。ふたりは森を歩きながら、食べられる実、危険な植物などを見つけては立ち止まる。7年前に東京から長野県の上田市に移住した清水さん。米や野菜を作り、山菜をとって食べる暮らしの中でアイヌ文化に興味を持った。

オヒョウの葉。先端が3~5つに裂けている。

「衣食住、あらゆる生活の糧を自然からいただく。それはすごく難しいと上田に暮らし始めて実感しました。だからこそ土地の恵みを活用し、敬い、その知恵を伝えてきたアイヌの生活から学びたいことがあるんです」

堂々たるカツラの巨木。「かつてのアイヌが切らずにいたから、今ここにこの木があるんです」と瀧口さん。

土がえぐれ、木の根が剥き出しになっている様子を見て、瀧口さんが言った。

「多くの人は土から木が生えると思っているでしょう。でもアイヌは木が大地をつかんでいると考えます。山の木を全部切ると大地をつかんできた木がなくなり、鉄砲水や土砂崩れが起きる。だから木は大切だと考えます。儀式に使うヤナギの木を切ったら、必ず枝を一本土に刺しておく。そこから新しい木が育って、また儀式に使わせてもらえるから。それを怠ったら、すごく怒られます。そんなふうに生活に必要なものを自然からいただきつつ、全部とり尽くさないよう気をつけてきたんです」

対等だから奪い尽くさない。アイヌから学ぶ自然との関係

クマゲラが穴をあけた木。ここからアイヌの丸木舟が生まれた。

森の中で瀧口さんが穴だらけになった木を指差す。

「クマゲラが幹の中の虫を食べるためにクチバシであけた穴です。アイヌはあの様子を見て、木をくり抜いて丸木舟を作るアイデアを得た。クマゲラはアイヌ語でチプタチカップカムイ、舟を掘る鳥の神という意味です。アイヌはヒグマをはじめ様々な動植物や自然現象にカムイ(神)が宿るとして敬いますが、人間にはできないことができる、そんな力を持ったものをカムイと考えます」

驚いたことに“悪いカムイ”もいるとか。

「ヒグマはキムンカムイ(山の神)ですが、人を食べたヒグマはウェンカムイ(悪い神)となって、死んでもカムイの国にはいけない。アイヌにとってカムイはただ崇めるだけの存在ではなく、両者の関係はあくまで対等。互いに影響を及ぼし合って成り立っているものだと考えてきました」と瀧口さん。

朽ちた木から幼木が育っていた。気の遠くなるような時間をかけて、森は人知れず命を繋いでいる。

清水麻由子(しみず・まゆこ)

工作家。古材を使用した家具製作などを行う木工所に勤務後独立。木や自然物を用いた作品を発表する。料理家の山戸ユカらと無添加のトレイルフード〈The Small Twist Trailfoods〉も展開する。

●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ea844352b445ba251bc6b9d2f690c99685ec7fb

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