「仮想と現実、脳内と世界を巡回する圧倒的な言葉の力」
「きれいごとを吹き飛ばす圧倒的描写力によって日常世界がめくれあがる。見慣れたはずの外界が何かおかしい。人間の嘘がべろりと浮かび上がる。人間とは何ものか。一見そうは思えないが、本書は脳と文明の虚妄(でっちあげ)をあばく恐るべき哲学小説である。」
エログロな精神異常的妄想の連鎖が続く世界の話だと思いながら読み進めていましたが・・、
「世界は展がりを失った。そこに何か納得のいく理由があるだろうか。チクを見張る監視兵は民間の自警団であり、立体視を望む人の心が幾つものドローンを空に飛び交わせているだけで、全体状況を把握している国家機構の存在がそれらの背景にあるわけではない。国家の中枢部が壊れつつある事は、国民には直感的に分かるものだ。或いは初期の段階で国がこの現象を地理的に限定させようとする意図を持ち、その為にチクなるエリアを捏造したという事はあったかも知れない。・・・突然の避難指示に従わなかった人々は、チクの閉鎖が実際には行われていない事を知っていた。外部こそ危険ではないかと警戒する者もいた。」
『皆、永い眠りから覚めた時、その事が分かっちゃったのよ。ホンモノの世界はとても恐ろしくて、そんな世界に住む事は私達には出来ないのよ。虫とかロボットなら出来るんだろうけど。私達には耐えられないの。だから安心出来る偽物の世界を、一生懸命頭の中に創り上げていくしかないのよ。・・・もしホンモノの世界が見えてしまっても、頑張って何も見なかった振りをするのよレナ。その内に段々コツが分かってくるわ。頑張ればきっと出来る筈よ』
読み続ける自分は登場人物と同じ世界の住人なのに気付いていない振りをしている・・、と言う事なのだろうか・・、そういう感じもするが・・。
(20/03/04撮影)