パオと高床

あこがれの移動と定住

ウィリアム・モリス『世界のかなたの森』小野二郎訳(晶文社)

2008-02-07 10:53:53 | 海外・小説
ウィリアム・モリスという人も、ボクはその実績をよく知らないままに、名前だけが記憶の中にあるという人の一人だ。この本、「ウィリアム・モリス・コレクション」の中の一冊。このコレクションは「ファンタジー文学の未踏の原野をきりひらいた」全7巻の「文学的冒険の精髄」というふれこみがついている。
カバーはモリスの壁紙のデザインになっていて、章の中の小見出しにも、モリスのデザインがあしらわれている。

モリスは19世紀後半のイギリス・ヴィクトリア朝時代の装飾芸術家で、社会主義運動家、詩人で作家。私家版印刷所を作り「理想の美しい本づくり」を追求した人である。昨年末に「ウィリアム・モリス展」という展覧会が開催されて、「世界の三大美書」の一つと言われる「チョーサア著作集」などが公開された。

小説は、主人公ウォルターが、ふと目にした女王と侍女と小人の三人に誘われるように「地の裂け目」から森に入りこみ、そこで・・・という展開である。過剰に魔術や異形の者が現れてくるわけではない。しかし、ストーリーは短い章構成に牽引されるようにウォルターの移動にしたがって起伏があり、また、この物語世界は、ちまちました、せせこましさとは無縁な空間の中にいる気分にさせてくれる。谷間、森、草原、海、浜辺、川、湖、城壁のある都市が、木々や草花が、対象として描かれるというより、臨場としてそこにあるというように感じられるのだ。
ばたばたと読むのではなく、何か、違う時間の流れで読むような、話の速度とは別に、ゆっくりとした時に包まれているような、そんな読書の時間だった。



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