パオと高床

あこがれの移動と定住

ケン・リュウ『Arcアーク』古沢嘉通編・訳(早川書房2021年5月20日)

2022-01-03 18:43:27 | 海外・小説

「ベスト・オブ・ケン・リュウ」という、ケン・リュウのベスト版。
映画化もされた冒頭「Arcアーク」、面白い。
折り返しのストーリー紹介を抜く。
「つらい別れを経て心身ともに疲弊した」わたしは、「ボディ=ワークス社」に就職する。
ここは、「防腐処理を施した死体にポーズを取らせ、肉体に永続性を与える仕事」をする会社で、
才能を見いだされたわたしは「創業者の息子ジョンと恋に落ちる」。彼は「老齢と死を克服したいと考えており……」と書かれている。

生きものの宿命である老化と死。いったい人類は不死を、永遠の若さの獲得を出来るのだろうか。
「アーク」はもとは「円弧」という文字が記されていたらしい。大いなる円弧として繋がっていく生命と私の生の永続性。
ボクらの感情は価値観は、どのような方向を選び取るのだろう。

不死や永遠の若さというとどうしても萩尾望都の『ポーの一族』を思い出してしまう。
あの情感と思索がどうしても中心になってしまう。
人が自らの生を選べる時代は来るのだろうか。NHKでは、確か若さの永続性を描いた科学番組(?)があったな。
また、ボディ=ワークス社の仕事は、死者と死体の境界をなぞるようでスリリングだった。
どこまでが死者でどこからが死体なのだろう。死体となったものをまた、死者に戻し、呼び戻す行為とは何だろう。

ケン・リュウの小説は描写もいい。訳も含めて。
例えば、
「爪先で踏みしめる砂は冷たく、濡れており、ときたま貝殻の破片が裸足の足裏に刺さった。
 だけどわたしは汀を裸足で歩き続けた。」とか。
で、呼応するように、
「美しい午後だ。綺麗な貝殻を取り合い、砂に残していくわたしたちの足跡で模様を描くのにはうってつけだ」
という表現があったりする。
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