早川書房から出版された『プリティ・モンスターズ』の最初に収録されている小説。
本当に久しぶりに読んだケリ-・リンク。やはり面白かった。
この本、各小説のタイトルの裏に挿画があって、一節が添えられている。この「墓違い」では、小説の中で出てくる像が描かれている。
その像は、頭がもげた聖フランチェスコ像に、ガネーシャ象神という象の顔をした神の頭を載せたものだ。そして、添えられた一節が、
「誰だって、うっかり違った墓を掘り返してしまうことはある。」なのだ。
ドキッとしながら、クスッと笑ってしまう。まず、誰だって、墓を掘り返したりしないだろうと、思ってしまう。が、そのあり得ないこ
とがあり得ても平気で、それでいながら奇妙なのがケリー・リンクだ。
笑いながら、切なくて、怖い。スリリングで突拍子もないのに、あたりまえのように描かれて、そのあたりまえさの中に入っていきなが
ら、奇妙さが面白い。とんでもない出来事が起きているのに、起きていないようで、あれ、この何もなさって普通じゃんと思うと、その
状況自体がとても普通じゃないことを思い起こす。拘束されずにせき立てられずに、いつか踏み外している快感。それが、楽しい。
この小説の書き出し。すでに語り手と登場人物がいる。一気に奇妙さへ。
あんなことになったのもみんな、マイルズ・スペニーという、あたしがむかし知っていた男の子が墓泥棒の真似事を
思いついて、ガールフレンドだった、死んでまだ一年も経っていないベサニー・ボールドウィンの墓を掘り起こそうな
んて了見を起こしたからだった。目的は、ベサニーの棺に入れた自作の詩の束を取り戻すこと。入れたときはロマンチ
ックで美しい行為に思えたわけだけど、実は単にすごく間抜けな真似だったのかもしれない。何しろコピーも取ってお
かなかったのだ。
と、こう始まる。ユーモアを交えながら、ワクワクさせる。スペニーは彼女を亡くし、彼女に捧げる詩を棺に入れて埋葬した。詩人に
なりたい彼は、詩のコンクールに出品する作品を考えたときに、埋葬した詩の束が素晴らしかったと思い、どうしても取り戻したくなる。
そして、墓を掘り起こしてしまうのだ。そして、掘り返した墓が、……。ここから、表紙裏の一節と、その一節から、読者によっては逸
れていく、あるいは予想通りの、物語が紡がれる。どちらにしても面白いのだ、意表を突かれても、突かれなくても。そして、後半何だ
か、切な哀しさがふっとよぎる。ページにして30ページほど。すぐに他の作品も読みたくなってしまう。
こんな一節もあった。
詩人とは、瞬間の中で生き、と同時に瞬間の外に立って中を見ている存在であるはずだ。
フーム。谷川雁という詩人は「瞬間の王は死んだ」といって詩をやめたという。
もうひとつ。印象に残った場面。墓を掘り返したときに、そこに眠る女の子が口を開く場面。
「トントン(ノックノック)」と彼女は言った。
「え?」とマイルズは言った。
「トントン」と(略)女の子はもう一度言った。
いいよな。
本当に久しぶりに読んだケリ-・リンク。やはり面白かった。
この本、各小説のタイトルの裏に挿画があって、一節が添えられている。この「墓違い」では、小説の中で出てくる像が描かれている。
その像は、頭がもげた聖フランチェスコ像に、ガネーシャ象神という象の顔をした神の頭を載せたものだ。そして、添えられた一節が、
「誰だって、うっかり違った墓を掘り返してしまうことはある。」なのだ。
ドキッとしながら、クスッと笑ってしまう。まず、誰だって、墓を掘り返したりしないだろうと、思ってしまう。が、そのあり得ないこ
とがあり得ても平気で、それでいながら奇妙なのがケリー・リンクだ。
笑いながら、切なくて、怖い。スリリングで突拍子もないのに、あたりまえのように描かれて、そのあたりまえさの中に入っていきなが
ら、奇妙さが面白い。とんでもない出来事が起きているのに、起きていないようで、あれ、この何もなさって普通じゃんと思うと、その
状況自体がとても普通じゃないことを思い起こす。拘束されずにせき立てられずに、いつか踏み外している快感。それが、楽しい。
この小説の書き出し。すでに語り手と登場人物がいる。一気に奇妙さへ。
あんなことになったのもみんな、マイルズ・スペニーという、あたしがむかし知っていた男の子が墓泥棒の真似事を
思いついて、ガールフレンドだった、死んでまだ一年も経っていないベサニー・ボールドウィンの墓を掘り起こそうな
んて了見を起こしたからだった。目的は、ベサニーの棺に入れた自作の詩の束を取り戻すこと。入れたときはロマンチ
ックで美しい行為に思えたわけだけど、実は単にすごく間抜けな真似だったのかもしれない。何しろコピーも取ってお
かなかったのだ。
と、こう始まる。ユーモアを交えながら、ワクワクさせる。スペニーは彼女を亡くし、彼女に捧げる詩を棺に入れて埋葬した。詩人に
なりたい彼は、詩のコンクールに出品する作品を考えたときに、埋葬した詩の束が素晴らしかったと思い、どうしても取り戻したくなる。
そして、墓を掘り起こしてしまうのだ。そして、掘り返した墓が、……。ここから、表紙裏の一節と、その一節から、読者によっては逸
れていく、あるいは予想通りの、物語が紡がれる。どちらにしても面白いのだ、意表を突かれても、突かれなくても。そして、後半何だ
か、切な哀しさがふっとよぎる。ページにして30ページほど。すぐに他の作品も読みたくなってしまう。
こんな一節もあった。
詩人とは、瞬間の中で生き、と同時に瞬間の外に立って中を見ている存在であるはずだ。
フーム。谷川雁という詩人は「瞬間の王は死んだ」といって詩をやめたという。
もうひとつ。印象に残った場面。墓を掘り返したときに、そこに眠る女の子が口を開く場面。
「トントン(ノックノック)」と彼女は言った。
「え?」とマイルズは言った。
「トントン」と(略)女の子はもう一度言った。
いいよな。
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