ずれ続けるテクスト。枝葉と幹が逆転を繰り返すテクスト。「この本は中途半端な疑問が不完全な回答に繋がれた姿で構成されている未完の迷路だな、とわたしは感じる。」 ブローティガンはこう語らせる、この小説を書いた作者に。「だって、わたしのもくろみは、わたしの生活に起こる出来事を日録地図のような形で追っていくことだった。」 そのもくろみは、かないながら、日常の、実は非日常ではない日常の歪みによって、時間が歪んでいく。細部が細部から抜け出して、それ自体が小説を引っ張り回す。ボクらはボクらの生活の細部から、実は生活を逸脱していってしまうのだ。そこに、思うに任せない、しかし、思った通りの、しかも、宙吊りにされる物語が現れる。死んだ女友だちの不運を抱えながら、移動し続ける主人公は日付のある日記のようなものを日本製のノートに書き付けていく。それは、首つり自殺をした女性のことを語ろうとしながら、常に、そこから別の些細な物語に入り込んでいく。そして、日記は書き終わらなければいけない時をもってしまうのだ。その語られるすべてがもつ奇妙な味わいと静けさ。そして、よぎるような哀しさと、傷ついたようなユーモア。ブローティガンはどこまでいっても、彼にしか書けない小説を書く。遺品の中から発見された最後の小説。終わらない物語が、物語の可能性を語りかけるようだ。日本製のノートというところを考えると、案外日本の私小説を形式内容ともにパロディー化したのではないかと思ったりもした。
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