共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

特別展《京都・南山城の仏像》@上野・東京国立博物館

2023年11月05日 17時17分20秒 | 神社仏閣
連休最終日の今日は、お昼過ぎから上野恩賜公園に出かけました。霜月だというのに風が心地よく感じ、あちこちに夏の装いの人たちが行き交う中を、東京国立博物館に向かいました。

現在、こちらでは



特別展《京都・南山城の仏像》が開催されています。

近鉄奈良駅近くのバス停から一時間に一本しかないJR加茂駅行きのバスに乗って30分ちょっと揺られていくと、奈良県との県境にある京都府木津川市にある浄瑠璃寺というお寺に到着します。ここには



日本国内に唯一現存する九体阿弥陀堂(国宝)があり、その中には



九体の阿弥陀如来坐像(国宝)が安置されています。

阿弥陀如来は往生者の生前の善行悪行に合わせて上品上生(じょうぼんじょうしょう)・上生中生(ちゅうしょう)・上品下生(げしょう)・中品上生(ちゅうぼんじょうしょう)・中品中生・中品下生・下品上生(げぼんじょうしょう)・下品中生・下品下生の九つの姿で現れて極楽へと往生者を導くと言われています。そして、その九つ全ての姿の阿弥陀如来像を安置しているのが九体阿弥陀堂です。

かつて最盛期には大小合わせて30余もの九体阿弥陀堂が京の都に存在していたという記録が残っていますが、応仁の乱を始めとした戦乱に巻き込まれてそのほぼ全てが焼失してしまいました。浄瑠璃寺の九体阿弥陀堂は都の中心部から遠く離れた山の中にひっそりと建っていたためにそうした戦禍を逃れ、九体阿弥陀堂として現存する唯一の貴重な遺構となったのです。

今回の展覧会は2018年度から5年の歳月をかけて、明治時代以来110年ぶりに行われた九体の阿弥陀如来坐像の修理が完了した記念として開かれたもので、浄瑠璃寺の他に現在の木津川市・城陽市・京田辺市といった南山城一帯の名刹古刹ゆかりの仏像を一堂に集めたものです。普段は観光でも訪れることも少ないような寺院の仏像も出陳されていて、なかなか貴重な機会となっています。

今回のメインは何と言っても



修理を終えた浄瑠璃寺の九体阿弥陀如来坐像(国宝)の一体です。板光背を背にして座る阿弥陀如来坐像は、漆や金箔の剥落止めや内部補強を終えたこと、それに博物館の照明に効果的に照らされていることもあって、御堂で拝見するよりも一層神々しく見えました。

阿弥陀如来坐像の両脇には



四天王像のうちの多聞天と広目天(いずれも国宝)が睨みをきかせています。現地の御堂では絶対に拝観できない各像の背面も垣間見ることができるのも、昨今の展覧会ならではの演出です。

浄瑠璃寺からは、この他に



地蔵菩薩立像(重文)も出陳されていました。



平安時代の作とされる地蔵菩薩立像は優美な立ち姿で、衣に施された彩色や戴金(きりかね)模様が当時の貴族趣味を感じさせます。浄瑠璃寺には他にも



1000円切手の図案にもなっている秘仏・吉祥天女像(重文)もありますが、残念ながら今回は出陳されていませんでした。

浄瑠璃寺の仏像の他には



浄瑠璃寺と同じ京都府木津川市にある海住山寺(かいじゅうせんじ)に伝わり、現在では奈良国立博物館に寄託されている十一面観世音菩薩立像(重文)が出陳されていました。通常は



水瓶に後の時代に補われた蓮華の花が生けられているのですが、今回はそれを外した御姿でのお出ましとなりました。

頭上から足元までほぼ一材で彫り出している十一面観世音菩薩像は像高45.6cmという小像ながら、細部にいたるまで実に精緻に作り上げられています。その愛らしくも精悍なお顔立ちは、観るものを引きつけて離しません。

京都府京田辺市の寿宝寺からは千手観世音菩薩立像(重文)か出陳されています。42本に省略されることの多い千手観世音菩薩ですが、平安時代に造立されたこちらのお寺の像は



奈良・唐招提寺の真数千手像に迫るようなほぼ千本に近い数の手をもつ迫力満点の御像です。

京都府城陽市の極楽寺からは



阿弥陀如来立像(重文)が出陳されていました。この御像は大仏師運慶(生年不詳〜1224)と並び立つ慶派の名工快慶(生没年不詳)の弟子である行快(生没年不詳)が作ったことが分かっていますが、


引き締まった凛々しいお顔立ちや指先の優美で繊細な表現に、



師である快慶作の阿弥陀如来立像(東大寺俊乗堂・重文)の尊容に通ずる美しさが秘められています。

私が最後に浄瑠璃寺に行ったのは、今から十数年も前のことです。今回こうして久しぶりに阿弥陀如来の御尊顔を拝したことで、また浄瑠璃寺に行ってみたくなりました。

この特別展は来週11月12日(日)まで、東京国立博物館本館大階段裏の特別5室で開催されています。チケットは当日まで発売されていて日時や時間の指定もありませんので、興味のある方は是非おいでになってみてください。


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