昨日の雨は上がって、今日は薄曇りの朝となりました。それから昼近くになって徐々に晴れ間がのぞいてきて、それに伴って気温も湿度も上昇してきました。
ところで、今日5月22日はヴァーグナーの誕生日です。
ヴィルヘルム・リヒャルト・ヴァーグナー(1813〜1883年)は19世紀ドイツの作曲家、指揮者、思想家で、ロマン派歌劇の頂点である作曲家の一人として、また『楽劇王』の別名で知られています。殆どの自作歌劇の台本を単独で執筆しただけでなく理論家、文筆家としても知られていて、当時の音楽界だけでなく19世紀後半のヨーロッパに広く影響を及ぼした中心的文化人の一人でもあります。
一方でユダヤ人を執拗に攻撃する執筆を発表したり、ドイツ三月革命に参加するも失敗してスイスに亡命を余儀なくされたりといった、なかなかアグレッシブな経歴の持ち主でもあります。また、ヴァーグナーの2番目の妻であるコージマはフランツ・リストの娘で、指揮者ハンス・フォン・ビューローと離婚してまでヴァーグナーと再婚した女性でもあります(この略奪婚でビューローはヴァーグナーと仲違いし、当時ヴァーグナーと敵対していたブラームス派に寝返ったといわれています)。
ヴァーグナー作品の特徴としては、オペラの一様式である『楽劇』という音楽を唱道したことにあります。『楽劇』は音楽・文学・舞踊・造形芸術などの総合としての全体芸術作品で、従来のオペラのようにアリアを繋いだオペラではなく、1幕ないし1場を通じて音楽が途切れることなく続く『無限旋律』を底流に、人物や場面を象徴的に表す言語的表現力をもつ『ライトモティーフ』が用いられました。
ヴァーグナーの主な楽劇作品には
《さまよえるオランダ人》 (1842年完成)
《タンホイザー》(1845年完成)
《ローエングリン》(1848年完成)
《トリスタンとイゾルデ》(1859年完成)
《ニーベルングの指環》 (1874年完成 )
《パルジファル》 (1882年完成)
などがあります。特に《ニーベルングの指環》はヴァーグナー35歳の1848年から61歳の1874年にかけて作曲され、
序夜『ラインの黄金』 (Das Rheingold )
第1夜『ヴァルキューレ』 (Die Walküre )
第2夜『ジークフリート』 (Siegfried )
第3夜『神々の黄昏』 (Götterdämmerung )
の4部作完結まで26年もの歳月をかけたというバケモノ級の大作です。
さて、こうしたヴァーグナーの楽劇の中でも一般に人気がある作品といえば《ニュルンベルクのマイスタージンガー》 (1867年完成)ではないでしょうか。
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》は全3幕の楽劇で、実在したニュルンベルクの詩人ハンス・ザックスを主人公とした喜劇調の作品です。そして、その中でもとりわけ有名なのが『第1幕への前奏曲』です。
この『第1幕への前奏曲』は楽劇の幕開けを告げる華やかな音楽で、楽劇を離れてオーケストラの演奏会プログラムにも単独で採り上げられることの多いものです。個人的な話ですが、恐らく私が一番多く演奏したヴァーグナー作品であることは間違いありません。
そんなわけでヴァーグナーの誕生日である今日は《ニュルンベルクのマイスタージンガー》から『第1幕への前奏曲』をお楽しみいただきたいと思います。早世が惜しまれるジュゼッペ・シノーポリ指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団による、日本公演でのアンコール(!)演奏を御堪能ください。