ご存知の通り、ロシアによる謂れなきウクライナへの侵攻が連日報道されています。2008年にもクリミア半島への一方的な介入があり、現在までウクライナ領でありながらロシアに一方的に実効支配されたままですが、プーチン大統領はそれだけで満足せずに、新たな惨劇を繰り広げています。
前回のグルジア侵攻は2008年、今回のウクライナ侵攻は2022年、これらの出来事がいずれも中国・北京で夏季・冬季オリンピックが開催された年に起こっていることは偶然なのか定かではありません。ただ、『奇妙な一致』であることに疑いの余地はありません。
普段あまり政治的なメッセージを書かない拙ブログですが、あまりの惨劇の長期化に何らかのメッセージを発信できないかと思うことがあります。そんな中で見つけたのが、
ウクライナ出身の歌手ナターシャ・グジーさんが歌う《防人の歌》の動画です。
《防人の歌》は、日露戦争を描いた映画『二百三高地』の主題歌としてさだまさしさんが発表した作品です。『海は死にますか、山は死にますか』という強烈に印象に残る歌詞と美しい旋律は、今でも聴く人の心を揺さぶります。
《防人の歌》の歌詞は、万葉集に掲載されている
鯨魚(いさな)取り
海や死にする 山や死にする
死ぬれこそ
海は潮干(しほひ)て 山は枯れすれ
海が死ぬなどということなどあるのか?山も死ぬのだろうか?(そんなはずがないのに)。
しかし死ぬからこそ、海の潮は干上がり、山も草木が枯れるのだ
(巻16-3852 作者未詳)
という和歌に基づいています。
「鯨魚取り」というのは海、浜、灘といった言葉に掛かる枕詞で、昔は近海で鯨が多く捕れたことによります。この歌を詠んだ人物は不明ですが、この歌の前に三首の釈教歌(仏教詠)が並んでいるので、恐らくこの歌も僧による歌なのでしょう。
そんな万葉集の歌を通して日露戦争の悲哀を描いた映画のために作られた歌ですが、はからずもそれが今、ロシアとウクライナとの戦争の悲しい惨状と重なっているように感じてなりません。ましてその歌を、ウクライナ出身であるナターシャ・グジーさんがウクライナ伝統のバンドゥーラを奏でながら歌うことによって、尚更深い意味を持つように聴こえてきてならないのです。
そんなわけで、今日はナターシャ・グジーさんの歌唱とバンドゥーラ演奏による《防人の歌》の、100万回再生を超えたという動画を紹介させていただきます。万葉の歌に込められた美しくも激しい慟哭を感じながら、戦火未だ止まぬ遥かウクライナに思いを馳せていただければ幸いです。