共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はモーツァルトの歌劇《後宮からの誘拐》の初演日〜グルベローヴァの名唱『あらゆる拷問が』

2022年07月16日 18時10分25秒 | 音楽
今日も気候の不安定な日となりました。時折激しく降りしきる豪雨はまるで熱帯のスコールのようで、締め切った部屋の中まで雨音が響いてきたほどです。

さて、今日7月16日は



モーツァルトの歌劇《後宮からの誘拐》がウィーンで初演された日です。《後宮からの誘拐》はモーツァルトが1782年に作曲した3幕からなるドイツ語オペラで、正確に言うと今日でいうミュージカルのような『ジングシュピール』と呼ばれる歌芝居のジャンルに属する作品です。

時のオーストリア皇帝ヨーゼフ2世から直々に作曲を依頼されたモーツァルトは1782年5月19日にオペラを完成させ、7月16日にウィーンのブルク劇場で《後宮からの誘拐》が初演されました。この頃のモーツァルトは前年に故郷のザルツブルクからウィーンに移住したばかりでしたが、この初演の成功によりウィーンでの名声を確立しました。

このオペラは、ブルク劇場で『ドイツ語オペラを成功させる』という皇帝の長年の望みを果たすものでした。それ以前にこの劇場で成功したドイツ語のオペラは、イタリアやフランスといった外国語作品の模倣や翻訳によるものだけだったのです。

作曲当時はオスマントルコ帝国によるオーストリアへの軍事的な脅威がなくなったばかりでしたが、トルコへの刺激的な関心は残っていた時代でした。このオペラにはそうした文化的背景を反映して、オーケストラにバスドラムやシンバル、トライアングルといった当時としてはエキゾチックな楽器が使われるなど、トルコ音楽を西欧化したものが随所に含まれています(モーツァルトはこれ以前の作品にも、ピアノソナタ第11番の第3楽章『トルコ行進曲』やヴァイオリン協奏曲第5番『トルコ風』でトルコ音楽を採用したことがあります)。

オペラの筋は、主人公のスペイン貴族ベルモンテが召使ペドリッロの助けを借りながら、誘拐された恋人のコンスタンツェをトルコ人の太守セリムの後宮(ハーレム)から救い出すというもので、モーツァルトのオペラの中でも高い人気を誇るものとなっています。モーツァルトのオペラの中ではもっとも若い時期の作で、全体に溌剌としたリズムと親しみやすいメロディにあふれています。

浮き立つような序曲に始まって様々な名曲が連なる《後宮からの誘拐》ですが、今回はその中からヒロインであるコンスタンツェのアリア『あらゆる拷問が』をご紹介したいと思います。この曲は、太守セリムが自分に対していつまで経っても心を開かないコンスタンツェに業を煮やして

「ありとあらゆる拷問を受けろ!」

と言い放ったところで、それに対してコンスタンツェが

「あらゆる拷問が私を待ち受けていようと、私の思いは変わりません。どうかこの心に免じてお慈悲を。さもなければ死が私に訪れますように。」

と決然と答えるアリアです。

このアリアの特徴は、オーケストラにソロパートが多いことで、フルートやオーボエ、クラリネットといった管楽器は言うに及ばず、ヴァイオリンやチェロにもソロがあります。生前のモーツァルトはチェロのソロ曲を遺していませんが、この曲のチェロソロを聴くと、モーツァルトのチェロ協奏曲があったら聴いてみたかったなと思います。

そして何よりの特徴は、コンスタンツェの歌唱の超絶技巧です。高音域のコロラトゥーラは勿論ですが、時にソプラノ歌手にはキツいであろう低音域にまで及ぶ幅広い音域は、初演でコンスタンツェを演じたカタリーナ・カヴァリエリの技量の素晴らしさを物語っています(カタリーナ・カヴァリエリについてモーツァルトは「コンスタンツェのアリアはカヴァリエリ嬢の柔軟な声に捧げました」と記しています)。

そんなわけで、今日はそのアリア『あらゆる拷問が』をお聴きいただきたいと思います。昨年他界された名ソプラノ歌手エディタ・グルベローヴァと晩年の巨匠カール・ベームの指揮による、素晴らしいパフォーマンスを御堪能ください。



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