ヴェルディの代表作である歌劇《椿姫》が1853年に初演された日です。オペラの本来のタイトルは《ラ・トラヴィアータ=道を踏み外した女》ですが、日本では専らアレクサンドル・デュマ・フィス(1824〜1895)の原作小説である《椿姫(椿の花の貴婦人)》のタイトルで上演されています。
上の写真は、初演当時にラ・フェニーチェ劇場に掲げられた公演案内です。ただ、今では名作とされている《椿姫》も、初演当初の評価は実はかなり厳しいものでした。
先ず、娼婦を主役にした作品ということで道徳的な観点から当局に問題視されていましたが、ヒロインのヴィオレッタが最後に死ぬというストーリーにしたことで上演を許されたといわれています。そしてラ・フェニーチェ劇場で行われた初演は、完成から上演までの準備不足や、肺病で死にそうなはずのヴィオレッタをかなり恰幅のいいビジュアルの歌手が歌ったこともあって聴衆や批評家たちから痛烈なブーイングを浴びてしまい、歴史的な大失敗となってしまいました(因みにこの《椿姫》と、プッチーニの《蝶々夫人》、ビゼーの《カルメン》は『世界三大初演時大失敗オペラ』という不名誉なタイトルがつけられてしまっています)。
この失敗を受けて翌年に同地で再演した際には入念なリハーサルを重ねて、結果として聴衆たちに広く受け入れられることとなりました。その後も上演を重ねる度に人気を呼んで、現在ではヴェルディオペラの代表作といわれるだけでなく、全てのオペラの中で最も上演回数の多い作品のひとつとなっています。
《椿姫》は長編の原作から要領よく主要なエピソードを取り上げていて、聴きどころに富んだ構成となっています。悲劇のストーリーの中にも華やかな社交界の場面での音楽的な華やかさや力強さを失わないところにヴェルディの特質が最もよく発揮されていて、そうしたところも人気の源泉となっています。
《椿姫》には『ああそは彼の人か〜花から花へ』『プロヴァンスの海と陸を』『パリを離れて』といった様々な名旋律がありますが、何と言っても有名なのは『乾杯の歌』でしょう。これは第1幕でヴィオレッタが主催する夜会でアルフレード・ジェルモンと初めて会った場面でアルフレードが即興で歌った詩にヴィオレッタがその場で応えるというものですが、当時のサロンの文化的素養の高さを窺い知ることができる華やかな場面となっています。
そんなわけで、《椿姫》の初演日である今日はその『乾杯の歌』をお楽しみいただきたいと思います。1973年に上演された舞台での、レナータ・スコットのヴィオレッタとホセ・カレーラスのアルフレードの歌唱を御堪能ください。