はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ペンクラブ秋の研修会

2008-11-28 20:44:56 | 毎日ペンクラブ鹿児島
 「はがき随筆」「女(男の気持ち)」など毎日新聞投稿欄の愛好者でつくる「毎日ペンクラブ鹿児島」(岩田昭治会長)の秋の研修会が16日、鹿児島市の見聞かセンターで開かれ約20人がさんかした。
 俳人の辺見京子さんが「見るを楽しく」と題し講演。肺結核を患って入院中に初めて句会に誘われたエピソードなと、自信の作句歴を紹介しながら、俳句や文章の楽しみを語った。
 「心で見た句は少しおかしい所があっても力強い。見ていない句は一見きれいでも人を打つ力がない」「はがき随筆のような単文はだらだら書いてもまとまらない。簡潔な表現は俳句に通じる」なとの言葉に、参加者はメモをとりながら熱心に聴き入っていた。(毎日新聞鹿児島支局・村尾哲記者) 2008/11/17毎日新聞鹿児島版掲載

 今年も秋の研修会が終わりました。残念ながら私は参加できませんでしたが、皆さん熱心に学ばれたようです。次に全員が顔を合わせるのは5月の総会です。懐かしいお顔を思い浮かべています。また紙上でお会いしましょう。

島の運動会

2008-11-28 20:33:02 | 女の気持ち/男の気持ち
 一度は行きたいと思っていた離島の運動会に参加する機会に恵まれた。
 大漁旗を翻した漁船に迎えられ、出水市蕨島港から7分も乗ると米ノ津中の桂島分校に着く。分校の在校生は中2の女子1人だけ。その女生徒が元気よく宣誓して運動会は始まった。
 たった1人の生徒を主人公に、全島民が気持ちを一つにして盛り上げていく。「我は海の子」という競技では、最後に筏を漕いでゴールする。おそらくどこの学校にもないここだけの種目だろう。100人近い参加者全員が大いにわきあがっていた。
 妻は「出水音頭」という踊りに、私は「バケツリレー」に参加し、桂島の方々と楽しい時間を過ごさせていただいた。
 昼食はおにぎりに、釣ったばかりのタイやブリの刺し身など。さすがは島の運動会と、感動しながらたらふくごちそうになった。
 生徒は1人しかいないけれど、その1人をみんなが我が子のように大事にしている。島の方々の熱と温かさを随所に感じた。当の女生徒は何種目にも出場し、疲れていたはずなのに、私たち島外の一般参加者のために港まで見送りに来てくれた。
 ジーンと来た。小島には今、日本が失いつつあるものが残されている。桂島は、人々の心が詰まった宝の島だった。
   鹿児島県出水市 小村 忍(65)2008/11/15
   の気持ち 掲載

島の運動会

2008-11-28 20:32:49 | 女の気持ち/男の気持ち
 一度は行きたいと思っていた離島の運動会に参加する機会に恵まれた。
 大漁旗を翻した漁船に迎えられ、出水市蕨島港から7分も乗ると米ノ津中の桂島分校に着く。分校の在校生は中2の女子1人だけ。その女生徒が元気よく宣誓して運動会は始まった。
 たった1人の生徒を主人公に、全島民が気持ちを一つにして盛り上げていく。「我は海の子」という競技では、最後に筏を漕いでゴールする。おそらくどこの学校にもないここだけの種目だろう。100人近い参加者全員が大いにわきあがっていた。
 妻は「出水音頭」という踊りに、私は「バケツリレー」に参加し、桂島の方々と楽しい時間を過ごさせていただいた。
 昼食はおにぎりに、釣ったばかりのタイやブリの刺し身など。さすがは島の運動会と、感動しながらたらふくごちそうになった。
 生徒は1人しかいないけれど、その1人をみんなが我が子のように大事にしている。島の方々の熱と温かさを随所に感じた。当の女生徒は何種目にも出場し、疲れていたはずなのに、私たち島外の一般参加者のために港まで見送りに来てくれた。
 ジーンと来た。小島には今、日本が失いつつあるものが残されている。桂島は、人々の心が詰まった宝の島だった。
   鹿児島県出水市 小村 忍(65)2008/11/15
   の気持ち 掲載

親近感の感動

2008-11-28 20:19:40 | はがき随筆
 「夕焼け小焼けーの」と、話しかけるような懐かしい歌声が静まり返った館内に流ちょうな日本語で流れ、感極まった。先般ベトナムの楽団を見に行った。竹楽器の軽やかな合奏に始まり、独特の民族文化が次々に繰り出された。フランス植民地として整備されたサイゴン市近郊の街道沿いに昭和17年、しばらく駐留した。笑顔の人なつっこい当時の市民をはるかに思い浮かべ、親近感に浸りながら熱心に見入り、感動のひとときであった。終わって出る時、求めて握手、ありがとうを言った。後で良かった良かったと口々に聞いてなぜかうれしかった。
   鹿屋市 森園愛吉(87) 2008/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

佳日

2008-11-28 20:14:06 | はがき随筆
 どうした? 君はこのごろ体調が悪そうだね。母さんの介護疲れかな。「気晴らしに海に行って魚釣りをしないかい?」
 秋晴れ、午前。阿久根港の一角で小アジ釣りを始めたが、全くアタリがない。仕掛けを替え沖に投げてもさっぱりだめだった。いつかぼんやり鳥の声に聴き入っていた。と、君のウキが見えない。「来てる!」。右に左に走る獲物を君は堤防に釣り上げた。「やったあ」。見ると30㌢くらいのコノシロだった。
 その夕。数匹分の鮮やかな刺し身。「オイシーイッ」と言って君は母さんと食べていた。2人とも実にいい笑顔だったよ。
   出水市 中島征士(63) 2008/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

華の50歳組と

2008-11-28 20:05:52 | はがき随筆
 阿久根市の小学校の運動会では、50歳になった大先輩を迎えて祝い、共に競技を楽しむ。題して“華の50歳組”。
 私はT小学校の運動会に参加した。35年前のT中学校の卒業生が招いたのだ。彼らの顔に昔の面影が残っていて懐かしい。
 「イチニイイチニ!」。誕生日が私と同じ美人と肩を組んでの二人三脚は息がピッタリ。玉入れ競技ではリーダーの「両手で玉を持って」というかけ声にも上の空。それぞれが童心に返り玉を放り投げて楽しんでいる。
 慰労会では学生時代の思い出話が弾み、運動会のハッスルぶりに笑いが続いた。
   出水市 清田文雄(69) 2008/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

頼むね

2008-11-28 19:59:20 | はがき随筆
 夫が、車でデイケアに出かける時、必ず私の目を見て、
「頼むね」
と、言う。
 窓は閉まっているから、声は聞こえないが、口の形を見ていればわかる。
 「頼むね」
とゆっくり言って頭を下げる。
 細くなった首をカクリとかたむけて。
 それから、じっと前を見つめたまま、つれて行かれる。
 私はいつでも、その車を追いかけたい気持ちになるが「頼むね」の言葉と、おじぎを思いだし、家を守って待っていようと思う。
   鹿児島市 萩原裕子(56) 2008/11/25 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2008-11-28 19:53:06 | はがき随筆
 「突然ですが、60年前に広島の小学校でお世話になったMです。定年後に始めた弓道でねんりんピックに大阪から出場することになりました。先生の住所がやっと分かり是非お会いしたいと思い、便りを…」
 驚きと喜びで胸がいっぱい。涙がいっぱい。でも頼れる夫は逝き、独り暮らしの重度心身障害者では会場へは無理だ。
 理由を知らせ、電話で健闘を伝えたが、二度とない機会だと出発前のホテルで会った。わずか30分だが語り合えた。
 M君、絶望感に駆られがちな私に、すてきな思い出をありがとう。
   薩摩川内市 上野昭子(80) 2008/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

支えられた講話

2008-11-28 19:47:02 | はがき随筆
 思いがけず講話を依頼された。川内まごころ文学館で「命を育む(はぐくむ)川内川」という、私には難題で75分もの持ち時間。元県立短大学長の後で、心が重い。
 気を取り直し、アユの写真を幕に映したり、カワニナの標本を回覧したりし努力。教え子Mさんの厚意で川流域の校歌も皆様に聞いていただいた。それに、うれしかったのは随筆や詩の仲間、先輩、友人が鹿児島や大口からも激励にかけつけ、会場を埋めてくださったこと。
 緊張した時間だったが無事終了。ばてやすい私はほーっとし、夜は感謝しながら熟睡した。励ましに支えられた日だった。
   出水市 小村 忍(65) 2008/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

指名される

2008-11-28 19:40:09 | はがき随筆
 近くの駐車場へ行こうと誘いに来る3歳。補助輪付きの自転車でも、庭と違って駐車場ではよく走るので好きらしい。
 兄ちゃんが遊ぶテレビゲームの主人公になったつもりで「マリオ」とか「ヤッホホー」と叫びながらこぐ。下り坂は添えている手を離せと得意げである。
 ウルトラセブンで覚えた「セブンさがし」は数字の7をさがす遊び。最後はかけっこ。唯一、祖母の私が指名される遊びなので、万難を排して相手をすることになる。
 3人目に生まれ口も動作も達者な男の子である。こうして毎日、彼の独壇場が展開される。
   霧島市 口町円子(68) 2008/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載

11月の蚊

2008-11-28 19:34:03 | はがき随筆
 消灯後、弱々しい蚊の羽音がする。夏と違って勢いも元気もない。ここ数日、部屋に居着いているのか、床に就く時分に現れる。蚊は何回か旋回するものの刺す気力はないらしい。私には蚊が、地球温暖化の影響で死する時を失い、ただ命を永らえているように思われる。
 ふと私は自分の人生を思った。「団塊世代」の私の老後はどうなんだろう。今時、子供をあてにする親は少なかろう。寝たきりで病院をたらい回しにされるのも嫌だ。適当な施設があって入ることがはたして可能か。
 季節外れの蚊は、老後をさまよう人間の姿に似て悲しい。
   伊佐市 山室恒人(62) 2008/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆10月度入選

2008-11-28 19:27:40 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入選作品が決まりました。
▽伊佐市大口上町、山室恒人さん(62)の「へんてこな夢」(10日)
▽薩摩川内市宮里町、田中由利子さん(67)の「蛇とサンマ」(5日)
▽志布志市志布志町内之倉、一木法明さん(73)の「短いいのち」(2日)

──の3点です。
 お彼岸だったせいかどうか、10月分の随筆には近親者の死やその思い出をつづったものが多く見受けられました。また、季節の移り変わりの時期でもあり、秋草についての感想もたくさんありましたが、これらの文章に一ひねりほしいというのはいつもの実感です。
 山室さんの「へんてこな夢」は、3年前に退職したのに、まだ職場で失敗したり焦ったりしている夢を見る、という内容です。夢の実態は多くの説があってまだ定説はないようですが、たとえ失敗談でも、山室さんのように、その夢を通して自分の存在を分析して、楽しむのが何よりだと思います。
 田中さんの「蛇とサンマ」は、庭をはう大きなどす黒い蛇(青大将でしょう)をみたら、旬のサンマを買う気がしなくなって、このショックからなかなか立ち直れない、という内容です。「サンマ苦いかしょっぱいか」。この秋はあきらめるより仕方なさそうです。
 一木さんの「短いいのち」は、ほぼ全文がご夫婦の会話で構成されています。その会話の中に、鈴虫の短い命の、燃焼と滅びとが、たくみに表現されています。このような、命そのものに触れるという生活が無くなりつつありますので、身にしみる文章です。
 次に印象に残ったものを紹介します。
 口町円子さんの「クロちゃん」(3日)は、放し飼いかの猫が、ときたまふらりとやってきて、甘えて帰る「悠々自適?」に、人も慰められるという内容です。森孝子さんの「消えた百円札」(22日)は、なけなしの百円札をもっ病気の父親の代わりに精米所へ行く時、それを落としたら、先生が拾って持ち帰ってしまったという、なんともひどい、子どもの時の苦い思い出です。伊地知咲子さんの「ワレモコウ」(31日)は、秋になるとひっそりと咲く「吾亦紅(われもこう)」に、<思い出せない思い出>がよぎるという意味深長な内容です。花の名前はいいですね。「勿忘草(わすれなぐさ・フォゲット・ミイ・ノット)」というのもあります。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
 係から 入選作品のうち1辺は29日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。