はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

消えた猫たち

2010-02-08 16:32:48 | 女の気持ち/男の気持ち
 長いこと犬や猫との同居が続いた我が家も、18歳と16歳の猫を相次いで亡くした後、いまだに飼えずにいる。最近は野良猫さえ見かけなくなった。たまに道で出合っても、「おいで」と手を出すと逃げる。野良生活も厳しくなったようだ。
 越してきたころは野良猫数匹が周りに暮らしていた。我が家は庭が広く出入り自由。子猫も飼っていたので猫たちの格好の遊び場になっていた。夜になると消え、朝は顔をそろえているというパターンが続いた。やがて冬が来て、4匹が身を寄せ合って暖を取っている姿を見た。屋根のある場所に段ボールを置き、寝床を作らずにはいられなかった。子猫を探すと、野良たちに抱かれてお泊まりしていることもあり、新居は居心地が良かったようだ。
 ある日、屋根から下りられずに鳴いている猫を助けたら、居ついてしまった。ジと名付けた新米野良は先輩たちに追い出されはしないが、仲間に入れずに昼間は1人でひなたぼっこ。夜も隣の段ボールに1匹丸くなって寝ていた。しばらくたった寒い夜、懐中電灯で照らした光景は今でも目に焼き付いている。茶トラ、黒、三毛、白黒の塊の中にドジが交じっていた。
 5匹の寝姿は平和そのもので、心癒やされる日々だった。なのに突然全員が消えたのである。
 仲間として一緒に出ていったドジ。それを思い出すと慰められ、温かな風に包まれる。
 佐賀市 諌見 恵子・65歳 2010/1/30 毎日新聞の気持ち欄掲載
写真はmistyleさん

ツルの北帰行

2010-02-08 15:19:26 | はがき随筆
 ツルの北帰行が始まった。早い旅立ちである。春の訪れも早いだろう。お礼を言うかのように2、3回羽を上下にふり、大空に舞い上がり、方向を見定めると、一直線に飛んで行く。無事に目的地に着き、家族を増やし、来シーズンも元気に郷ってきてほしい。
 以前は各地に分散していたのを、出水市が餌付けなどを熱心にやった。その結果、今年も最高の1万1637羽を観測し、13季連続の「万羽ヅル」を記録した。
 渡来地の農家はツルがいない聞、田起こしから稲の取り入れまで忙しい日が続く。
  出水市 田頭行堂(78) 2010/2/7

お身体を大切に

2010-02-08 14:56:02 | はがき随筆
 賀状で「お身体を大切に」とありました。考えてみると、ご飯を食べて胃液で消化し、自分の気付かないうちに腸に運ばれ栄養となり、分別されて吸収されます。抽出された血液は、身体のすみずみまで回り、いろいろな働きをします。また指を針で刺すと痛さが伝わり、瞬時に身体が反応します。
 これらのちみつな働きはロボットでは出来ません。漫画やテレビに出てくるサイボーグなどは、とうてい作れませんね。パソコンや車とも違うのです。
 このように貴重なものが私たちの身体なのです。何であだおろそかに出来ましょうや。
  鹿児島市 高野幸祐(77) 2010/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

がんばった悟君

2010-02-08 14:36:35 | はがき随筆
 岩の間から、どっとわく水源を見て「すごい」と悟君は声をあげた。やっと球磨川源流にたどり着き、私もほっとした。
 昨年12月6日。希望した小学6年の悟君、彼の祖父ら、計3人を球磨川の源に案内した。
 目的地近くでは雪が舞い、ガイドの私は動揺。そのうえ落ち葉で消え、滑る山道を、悟君は「よいしょ」と、声を出したり立ち止まったりしながち、慎重に上る。約80分後、ついに高度I100㍍余の水源に到達。
 私は彼にひどく感心し「がんばったね」と、ねぎらった。悟君なら、困難な人生も克服して進むだろうと、私は思った。
  出水市 小村忍(66) 2010/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

お母さん

2010-02-08 14:02:15 | はがき随筆
 この世に連れてきたのは、男 の子ばかり2人。その子たちも長男が2男1女、次男が1男1女を連れてきた。つまり私の孫は5人。鹿屋に住む長男夫婦は共働き。年末の3日間ほど預かるのが恒例になった。小学生と保育園児で大して手はかからない。正月は嫁さんの実家に帰るのだった。いよいよ帰る日の前の夜、妻が5歳の孫娘に何やら小声で話しかけている。聞くともなしに聞いていると「お母さん」と孫娘。続いて「ありがとう」と妻。老いるごとに息子より娘がいいのか、少しだけ身につまされた。私は一日中「お母さん」と呼んでいるのだが。
  志布志市 武田佐俊(66) 2010/2/4 


苦手な人

2010-02-08 13:29:23 | はがき随筆
 人づきあいで、苦手な相手に対して嫌だなあと思ったら顔に出る。心と表情は連動しているらしい。当然相手にも伝わる。相性の良い悪いだけでなく、人間は感情の動物だから厄介である。私にも職場で苦手な先輩がいた。人前でもつらく当たられて涙すること度々。ついに私はその人の定年を指折り数えるようになった。ところが先輩が辞めてしばらくして、はたと思い当たった。私の態度が良くなかったのだと。苦手と思うからつい身構えてしまう。それが分かって不愉快にさせていたのかもと。それ以来意識して苦手な人を作らないように努めている。
  霧島市 口町円子(70) 2010/2/2/3 毎日新聞鹿児島版掲載

「仏の顔も」

2010-02-08 13:23:44 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会員   沖 義照 

 「早く起きてー、今日は資源ごみの日よー」。妻の叫ぶ声で目が覚めた。朝の散歩に出かけたところ、ある街角に資源ごみが出ているのを見て、あわてて戻ってきたという。急いで着替え束ねておいた重い新聞紙を両手に提げて持ち出した。

 集積所に行ってみると、いつもと違って何も出ていない。「今日は資源ごみの日ではないのでは?」と思いながらも置いて帰った。妻にそれを伝えると、ごみカレンダーをチェックした。やはり前の週がその日であった。捨てたものを引き取りに行く。

 しかし、こんなことで私は怒らない。まだ3度目の出来事だから。
  (2010.02.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載