はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆2月度月度入選

2010-03-29 17:52:48 | 受賞作品
 はがき随筆2月度の入選作品が決まりました。

▽薩摩川内市高江町、横山由美子さん(49)の「1月の大そうじ」(9日)
▽阿久根市大川、川畑マスミさん(73)の「夜景」(2日)
▽出水市上知識町、年神貞子さん(73)の「柿の木」(22日)

--の3点です。

 昨年の暮に腰を痛め、病院通いをしています。坐骨神経痛がこれほど痛いものとは知りませんでしたが、そのおかけで、紫原台地の季節の推移をバスの窓から楽しんでいます。枯れ枝に始まり、雪景色、水仙、今はコブシと梅花が満開です。やがて桜のつぼみもほころびるでしょう。
 横山さんの「1月の大そうじ」は、息子さんたちが帰省して大掃除を手伝ってくれるのを心待ちにしていたが、なかなかうまくいかない。そういう些事(さじ)のなかに、親離れ子離れの時期を予感しているという、哀感のある文章です。「帰りを待つ作業の始まり」という表現は象徴的で、いいですね。
 川畑さんの「夜景」は、夕闇せまるころ戸締りをしながら、あちこちの家に灯がともるのを眺めては、それぞれの生活に思いをはせるという内容です。散文詩の趣のある文章です。火ともしごろが一番人恋しくなります。
 年神さんの「柿の木」は、いつまでも母親の干し柿をあてにすまいと、種から育てた柿の木の実で干し柿を作ったというものです。干し柿を通しての親子の時間の継続がよく表現されています。
 以上が入選作です。他に3編を紹介します。
 森孝子さんの「雪と赤い火」(16日)は、久しぶりの積雪に四十数年前の、やはり雪の日の地震を思い出したという記憶です。子供たちを連れ出し、練炭の火を雪の上に捨てた時の情景が鮮やかに思い出されています。
 楠元勇一さんの「親切な人」 (20日)は、妹さんの面会に行こうとしたが入所先が分からない。途中で道を尋ねた人が実に親切であった、という内容です。こういう親切に未来を託すのは、すがすがしい気分にさせます。田中京子さんの「いざ生きめやも」(12日)は、
この句を励ましにしてきたのに「とても生きてはゆけない」という意味だと聞かされて驚いたというものです。小説家が文法通りに書くとは限りません。「風立ちぬ」を読めば明らかですが、これで「気力を引き出して」ください。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)


 係から 入選作品のうち1編は27目午前8時半過ぎからMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
 だれでも投稿できるミニ随筆です。日常生活の印象的な出来事を日記がわりに、気楽に書いて下さい。作品は文章部分が250宇前後(14宇×18行)。他に7宇以内の題。住所(番地まで)、氏名、年齢、電話番号を明記し、〒892-0847鹿児島市西千石町Iの32 児島西千石町ビル 毎日新聞鹿児島支局「はがき随筆」係へ。はがき、封書など書式は問いません。新人の投稿を歓迎します。
  2010/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載




夢を形にGO!

2010-03-29 17:48:57 | はがき随筆
 小さい時から、両親や弟とテニスを始めた君は、テニスプレーヤーになる夢を抱いていた。
 父親がタイの日本人学校に赴任した時は、現地の日本人や各国の少年、指導者に巡り合えて、テニスを続けた君。帰国後は中学に進み、試合の度に徳之島から、母親や弟と、時には一人で船でやって来た。
 昨春、父親の転勤で日置市に住むようになり、いい指導者や仲間に恵まれテニスができた。
 夢に向かって努力し、感謝の心を忘れない君の態度に、皆が協力を借しまなかった。
 この春、願い通り福岡のY高校に進む孫。夢を形にGO!
  薩摩川内市 森孝子(68) 2010/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい一日

2010-03-29 17:46:08 | はがき随筆
 先日、鹿児島にゴルフに出かけた時のこと。
 見知らぬ女性に声をかけられた。「毎日新聞の『はがき随筆』読んでますよ!」
 キャディーバッグにぶら下がった名札を見て、声をかけてくださったのだ。
 たまたまの、書き手と読み手の、人と人との不思議な出会い。人間て楽しいなあ-。
 スタート前の張りつめた空気がなごみ、うれしかった。
 山桜満開。天気良し、気分良し、ゴルフ場良し、スコア今いちの楽しい春の一日だった。
  指宿市 有村好一(60) 2010/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

老境の日々

2010-03-29 17:36:39 | はがき随筆
 迷っていた免許証を昨年3月、警察に返した。自主返納である。無免許となり歩いて帰っ
た。昭和37年、難儀して取って以来47年、無事故で共に歩いてきた免許証にありがとうと言いたい。免許証の「力」を今更ながら強く感じる。その不便さは思っていた数倍かそれ以上に深刻である。不自由な老境で頼れるのは子供。その子供も仕事や生活に追われ、頼み事をするのはわが子でも思った以上に気を遣うものであることを知った。極端に弱った足腰、歩行の困難。このような中で「ひと」に頼らない「自力」の生活を心がけて暮らす老いの日々である。
  鹿屋市 森園愛吉(89) 2010/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

入院寸景

2010-03-29 17:29:15 | はがき随筆
 手術を前提とした検査のため、鹿児島の大学病院にI週間入院した。その日は日曜日。ぼんやり病室の窓の外を眺めていた。海岸近くの工場から煙がまっすぐ立ち上がっている。錦江高原ホテルの方に目を転じると、山頂の風力発電の風車も回っていない。樹木の葉もそよとも動かない。工場は動いているというのに、風の神は休業?携帯電話のカメラで窓越しに撮っていると「春の景色を撮っているんですか?」と看護師さん。「風車が回っていないのですよ」と言うと「そうですね」と一言。同室の患者さんたちも平然、騒いでいるのは私だけだった。
  西之表市 武田静瞭(73) 2010/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載
  写真は武田さん提供

オーディション

2010-03-29 17:19:51 | はがき随筆
 華麗なる業界の花形、あこがれの職業、某テレビ局のオーディション。約200人の応募者から2人の合格。課題は「制限時間内に自由に語る」。才能、素質があるから合格したのだ。難関を突破。各地のイベントがあればマイク片手に状況をリポートする。テレビで娘は神々しくも映えた。親は、失敗しないように陰でただ神に祈るばかり。同級生や知人、親類も応援してくれた。ずぶの素人がプロの道へは険しい。「人知れぬ苦労、困難があったろう」。小1の時の担任の先生は、娘は将来アナウンサーにふさわしいねと。娘はその道へと羽ばたいた。
  加治木町 堀美代子(65) 2010/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

ロウソクの灯

2010-03-29 17:02:11 | はがき随筆
 ゆうパックの空箱に一体何を入れておいたかしら?と開けてみると、燃えないごみの電池などをそれぞれ分別して入れてある。その他もう一袋は、小さな人形や張り子の虎を入れ、ロウソクが三つある。
 ともしびって温かいものとコップロウソクを三つ取り出して火をつけた。ちろちろちろと酸素を集めて炎が揺らぐ。じっと見ていると父母や夫がまるで現れて私にやさしく話しかける。
 「どう、元気か。寒さが戻ったようだね。風邪ひかないように」。私のおもいなのに声が聞こえる。「温かいね、ともしびの心は」と応えた夕べ。
  鹿児島市 東郷久子(75) 2010/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載