はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ミラノからの電話

2010-12-13 17:44:26 | はがき随筆
 有明町のUさんは長崎での原爆被爆者である。後遺症があるけれども84歳にしては元気である。病院などへの外出は、もっぱら奥様の運転である。
 2人には1人息子さんがいるが、イタリアに住んでいる。鶏のヒナの鑑定士で各国で指導してきたが、イタリアの方と結婚され、ミラノに定住された。
 帰国の折、夫婦にお会いしたが、奥様は全く日本語が話せない。でも、Uさん夫婦には通訳なしで通じ合っていた。
 Uさん宅は毎週日曜日、夜8時は留守にできない。ミラノからの電話は定刻に来るとか。
 この絆を誰かに話したい。
   志布志市志布志町内之倉 一木法明 2010/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆11月度入選

2010-12-13 17:10:25 | 受賞作品
 はがき随筆11月度の入選作品がまりました。

▽阿久根市赤瀬川、別枝由井さん(68)の「ほれぼれしもす」(28日) 
▽垂水市海潟、宮下康さん(51)の「香りに誘われて」(16日)
▽志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(84)の「つわぶきの花」(21日)

の3点です。

 東京出張で、久しぶりに飛行機に乗ったら、機内の飲み物が有料になっていました。そのためか機内が静かになったような印象をもちました。今までがサービス過剰だったという気もします。欲しくなくても、配って回ったわけですから。この際、社会全体で徹底して無駄を省いたら、落ち着いた気分の世の中になるのではないでしょうか。今月は、静かな気分での暮らしぶりの文章に佳編が目立ちました。
 別枝由井さんの「ほれぼれしもす」は、温泉で肌の美しさを褒められて、いい気分で帰宅したという内容です。いくつになっても褒められるのは嬉しいし、日常の生活の中のささいなことに、嬉しいことを見つけられるのはやはり幸福です。
 宮下康さんの「香りに誘われて」は、車窓から入ってくるキンモクセイの香りに誘われて、神社の境内に登ると、黄金色の稲穂と緑樹の好景色を見ることができたという内容です。「飛びっきりぜいたくな森林浴」も、やはり幸福感ですね。
 小村豊一郎さんの「つわぶきの花」は、晩秋にひっそりと咲く石蕗の花への思いをつづった文章です。雨に濡れて崖の斜面などに咲く花に、孤老の身のうえの寂しさを重ね合わせ、静かな情調の散文詩になっています。
 この他に3編を紹介します。
 鹿児島市唐湊、東郷久子さん(76)「折り紙」(27日)は、来年の干支に合わせて、ウサギの折り紙を完成させた喜びが書かれています。いくつになっても「出ることは嬉しいこと」ですね。
 志布志市有明町野井倉、若宮庸成さん(71)の「ギャラリー」(29日)は、ゴルフ見物の挿話です。奥さまは「石川遼」を探し出し、ついて回り、はぐれ、ケータイで連絡し、無事帰宅したという、なんとも微笑ましい内容の文章です。
 姶良市加治木町錦江町、堀美代子さん(66)ま「ファンタジックと虹」(6日)は、ビルの谷間に見つけた虹に、お孫さんの姿や自分の子供の時のことなどが、幻想的に思い出されたという内容です。
 日常の瑣事に幸福感を見つけるのは老年の特権とも言えそうです。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

 

ウサギのお目見え

2010-12-13 17:02:31 | はがき随筆

 今年も西之表の郵便局玄関横に、来年の干支のウサギのオブジェがお目見えした。体はススキの穂と藁、目は芋、つま先は貝殻、色紙のハナを首飾りにと、島の産物を活用している。
 年々、年賀状を出す人が減ってきている。携帯電話のメールにとって代わられているとか。また出すにしても、ソフトを使ってパソコンで手書き部分なしで作り上げてしまう人も多い。私もそれに近いが……。
 そんな中、ウサギの姿で、“手作りの温かさ”をアピール、種子島の西之表の郵便局は年賀状作戦に“頑張ってま~す”。
  西之表市 武田静瞭 2010/12/11 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は武田さん提供

じいじの涙

2010-12-13 16:53:25 | はがき随筆
 空港へ見送ったまでは良かった。ところが、帰宅し、湯船に身を沈めると、夕べまで風呂場にあったアンパンマンやミニカーが無い。楽しく洗いっこもしたのに。「納豆好きな人?」。「は~い」。手をたたいて喜ぶその口に、何度もスプーンを運んだのに。「虫、いないねえ」。草っぱでバッタも探したね。「飛行機から乗り継いだ電車内で、ミニカーを握りしめて涙をためている」と娘からのメール。不覚にも私の目からも涙があふれる。「じいじ~」と叫びながら、今にも駆けて来そうだ。春杜! 2歳の君がいなくて、じいじは、こんなにも寂しい。
  霧島市 久野茂樹 2010/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載