はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「趣味は何ですか」

2010-12-14 20:56:32 | 岩国エッセイサロンより
2010年12月14日 (火)
岩国市  会 員   稲本 康代

リズム音痴の私が、フォークダンスを始めて1年になる。苦手なことに挑むと苦労が付きまとい、何度やめたいと思ったことか。しかし、70代や80代の人たちが軽やかにステップを踏む姿を見ると、負けてはならないと自分を励ましてきた。フォークダンスの練習は脳トレの時間の様でもある。ひとつ覚えたと思うと、次々に新しいステップを覚えなければならない。

やっと覚えたと思っても、次の時にはすっかり忘れている。80代になったころ「趣味は何ですか」と聞かれたら背筋を伸ばして「フォークダンスです」と答えられるように頑張ろう。
  (2010.12.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載 岩国エッセイサロンより転載

美人ナノ?

2010-12-14 20:40:04 | ペン&ぺん
 訳あって、ヘアドライヤーを物色する。メーカー各社のカタログを入手し、見比べる。ナノなのね、今の流行は。流行だとは、わかる。だが、しかし──。
 あるカタログには、こう書いてある。「ナノイオンは、8㍉四方のペルチェ素子が空気中の水分を凝縮し、その微細な水の粒子に、ダブルクラウンリングで多量に発生したマイナスイオンを帯電させた水分たっぷりのイオンです」。
 わからぬ。科学事典や国語辞典を探す。1ナノ㍍は10億分の1㍍。とてつもなく小さい。目に見えないほどだ。どおりで、ナノさんに、お目にかかる機会がなかったわけだな。 
 次に、イオン。辞典によると、正または負の電気を持つ原子または原子団。原子団って、団体様か? ご一行様でやって来るのか? ペルチェ素子に至っては見当もつかない。ペルシャは昔のイランだよね。無関係? まさか、ペルチェという名前の外国人と結婚した素子(もとこ)さんじゃないよね。このあたりで「クリスマスのプレゼントは、ドライヤーにして」と言い出した妻を若干、恨みます。
 気を取り直し、カタログを読み返す。要するに途中は読まない方が身のためだ。「ナノイオンは(中略)水分たっぷりのイオンです」。これなら理解できる。いや、待てよ。ドライヤーは、ぬれた髪を乾かすもの。なぜ、水分たっぷりのものが出てくる?
   ◇
 赤い容器に入った化粧品を、やたら宣伝している。松田聖子と中島みゆきがCMしているヤツ。何か、すごく肌に良さげだ。これもプレゼント系かと思い、調べた。ネットで入手した広報文に、こうある。「肌への浸透性とバリア機能を高めるヒト型ナノセラミドを配合」。ヒト型とは、ヒトの形をしたってことではなさそう。ナノセラミドは、とっても小さいセラミドか。それで、セラミドって何?
 もう、いい。とにかくナノで美人になる。そうナノ? ほんとナノ?
 鹿児島支局長 馬原浩 2010/12/12 毎日新聞掲載

2人の母と

2010-12-14 18:24:17 | 女の気持ち/男の気持ち
 すれ違いを修復できぬまま、母は7年前に旅立った。
 4人姉妹の長女で、婿を取れと言われた母は教師の道をあきらめ、職業軍人の父と見合い結婚した。終戦後、2人で小さな商いを始めたが、うだつは上がらなかった。夫婦のいさかいが絶えず、父を見限った母は息子の私に自分の希望のすべてを託した。自尊心が強く見栄っぱりで慎みのない母を、私はいつしか遠ざけるようになった。
 不仲の両親を長い間見てきた私は、自分の妻とうまくやることを最優先にしたが、母は必ずしもそれを望んではいなかった。父の死後、私たち夫婦との対立は悪化の一途をたどった。
 妻との結婚で、私にはもう1人の母ができた。彼女は早くに夫を亡くし、私の妻を筆頭に4人の子どもを育て上げた。飾り気のない彼女の前で、私は素直に自分を出せ、気づかぬうちに本当の息子のような気持ちになっていった。
 80歳を超えた彼女は、長男夫婦と浜松に住み、私とよくメールのやりとりをする。話題は専ら私たちの一人娘と2歳になる孫のこと。そして互いに思わしくない体調のこと、新聞に掲載された私の投稿のこと。
 人は子どもを産めば、母親になれるわけではない。まして誰もがマリアのような良き母にはなれない。母と子は互いの力に助けられて成長し合うのだ。
 最近、母の短所を自分に見つけて驚く。嫌だった母と少し近づけた気がする。
  鹿児島県霧島市 久野茂樹 2010/12/9 毎日新聞の気持ち欄掲載

パワースポット

2010-12-14 18:10:05 | はがき随筆
 今から38年前、実家から来るまで20分ほど先の街の金融機関支店まで通勤していた。約3年間、働いていたが、この場所のことは知らず、また、ウワサにも出なかったので訪れたことはなかった。
 ひょんなことから友人から、「パワースポットとして評判の地」と聞いて、昔の勤務地の懐かしさも手伝って、妻と出かけた。
 街からはずれて閑静な住宅地の中に、こんもりとした森があった。なるほどパワースポットと呼ばれる
雰囲気の所である。その地は吹上町の大汝牟遅神社(おおなむち)の「千本楠」である。
  鹿児島市 下内幸一 2010/12/9 毎日新聞鹿児島版掲載