はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

かっこいい

2011-07-03 17:36:59 | 女の気持ち/男の気持ち
 義父、義母、実母と続いた長い介護生活から解放され、ほっとしたのもつかの間、彼が体調を崩してしまった。誰よりも仕事大好き。誰にも負けない筋金入りの頑固そのものの彼が。
 「後継者もいないし、おまえも年金をもらうようになったし、仕事をやめるか」とポツリと漏らす彼。やめられるはずがないと思いつつ「そらよかが。たんと働いたから、ゆっくりすっが」と私。
 でも朝の日課だった漁模様を知らせるテレホンサービスを聞いている。水産加工業という仕事には必須の情報なのだ。心が揺れ動いているのが手に取るように分かり、胸が痛んだ。
 ところがその夜、彼はあれよあれよと計画を実行し、今では太りたい彼と痩せたい私が、季節を感じながら散歩するのが日課となっている。
 彼か家業を継ぐと言ったのは25歳の時。義父はまだ50代で現役バリバリだったるなのにすべてを彼に譲ってくれたのだ。それから失敗もたくさんしたのに、義父は黙ってそれを後ろから支えてくれた。かっこよかったなあ。
 それとは少し違うけれど、老後に余裕を持って引退してくれた彼。やっぱりかっこいいと思う。
 ずっと仕事が趣味だった彼は、まだ次の楽しみを見つけていないようだ。でも、私は次の楽しみをみつけて泳ぎだした。
 お疲れ様。ありがとう。
  阿久根市 的場豊子 2011/7/3 毎日新聞 の気持欄掲載

大渋滞

2011-07-03 17:30:31 | はがき随筆
 6月11日朝、夫と山口岡山の観光へ車で出発した。梅雨最中で雨は覚悟していたが、早速高速道路が通行止めとなった。
 熊本で高速を降り再び南関の高速まで10時間も要した。食事もトイレもできない。現代社会の盲点に落ちた気がした。無数の車の人々の1日が台無しの計り知れない影響をひたすら案じ渋滞を流れ、深夜宿に着いた。
 翌朝、体内が浄化されたような爽快な空腹感で目覚めた。飽食の今、久しく忘れていた感覚だった。雨の錦帯橋、後楽園、倉敷の街並みを堪能し、高速に乗り帰路に就いた。南関熊本間をわずか19分で通過した。
  出水市 塩田きぬ子 2011/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

初ナス

2011-07-03 17:23:03 | はがき随筆
 降り続く雨に気分がめいりそうだが、菜園を見ると浮き浮きしてくる。春に植えたトマトやナスの初取りがある。
 今朝、紫紺に光るナスを収穫した。私は焼きナスがすき。とげのあるがくを除き、薄く油を塗る。へたの方から先へ1.5㌢間隔に皮を切り、筋を引く。取れたてはすぐに焼け、皮は切り筋をつまむと簡単にはげた。まな板に、ところどころ薄茶色の焦げのナス。この色の美しさとふわーっとした匂いが台所に漂う。かつお節としょうゆをかけて朝食の膳に並べた。
 早速一口。溶けるようなやわらかさとうまみが口に広がった。
  出水市 年神貞子 2011/7/2 毎日新聞鹿児島版掲載