はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夢の光を

2014-09-03 23:30:12 | はがき随筆
 右眼を閉じ左眼に映る像は縦の線がゆがんで映る。人の顔もゆがんで映る。左眼を閉じて右眼に映る像は正常だ。左眼に異常を感じ眼科を訪問。視力、眼圧、血圧検査をすると、医師は加齢黄斑変性症と病名を告げた。加齢に伴うと説明、いささか安堵。レーザー光線照射は緊張した。体もこわ張り痛かった。数分間の治療だが、暗室では長時間に感じた。家でも「暗いところで読み書きをしないこと」と夫の助言に「ありがとう」と感謝。「目は口ほどにものを言う」。親からもらった生命、何にも代え難く貴重。永遠に愛する心でいたわろう。
  姶良市 堀美代子 2014/8/30 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆7月度

2014-09-03 23:29:54 | 受賞作品
 はがき随筆の7月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】16日「ヤモリ」年神貞子(78)=出水市上知識
【佳作】▽1日「手伝い」口町円子(74)=霧島市国分中央
    ▽29日「日々是好日」若宮庸成(74)=志布志市有明町野井倉


 ヤモリ 梅雨時になると浴室の窓に、白い腹部を見せてへばりつくヤモリを、今年も湯船の中から見かけた喜びと安心感が漂っています。毎年見かける小鳥や昆虫など、自然の微かな変化を確かめて、そこに時間の流れを感じ取っておられる生活の様子が、快い文章の流れで書かれています。
 手伝い 中学生のお孫さんが、何かと手伝いに来てくれる。今回はサツキの剪定と枝葉の後片付けだった。剪定技術の方はまだまだだが、おしゃべりしながらの共同作業は楽しく、若返った気分になる。当たり前であるはずの光景ですが、それが特別に優しい家族関係だと感じられるのは、こういう風景がめずらしいものになったせいでしょうか。
 日々是好日 バリバリの現役時代に思い描いた、妻と2人きりでの健康で楽しい老後が現在実現している。早朝ランニング、妻の手料理、小旅行など、かつては想像に過ぎなかったことが、想像以上に充実した現実となって、今その幸福感の中に浸っている。その状況の永続を祈られる気持ちがよく分かります。
 この他に3編を紹介します。
 中馬和美さんの「造林鎌」は、農園への小道の草刈りが必要になり、道具がないので、亡父の使っていた造林鎌を研いで使った。重たいしコツが要るしで、シャツの汗を脱いで絞っていた亡父の苦労が身にしみた。こういうことで実感する親のありがたみですね。
 野幸祐さんの「私のサポーター」は、腹部手術後のリハビリのために散歩に出た。雨の日で、疲れ、傘まで重くなった。諦めようかと思った時、きれいな紫色の五輪のアジサイの花が首を振って励ましていた。「耐える愛」という花言葉を思い出したりして、美しいアジサイのサポーターと頑張った。
 久野茂樹さんの「輝いていた頃」は、中学時代の懐かしい思い出が、見事な道具立てで語られています。夏、天竜川の河口、鉄橋の下、自転車での遠出、幼い恋、水泳の稽古、それに夕陽。井上陽水の「少年時代」を思い出しました。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2014/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載 

もう一人の私

2014-09-03 22:16:40 | はがき随筆
 「武田さん、昨日、中種子のAコープで声をかけたけど、見向きもしないで通り過ぎたわよ」。リハビリに出掛けたら、看護師さんから声をかけられた。「人違いです。昨日、中種子には行っていません」「うそ、間違いなく武田さんだったもの」。看護師さんは納得しない。鹿児島の天文館通りでも、行ってはいない日に見かけられている。実を言うと、関東での現役時代にも、先輩から「荻窪で見かけて声をかけたが、しらんぷりされた」と言われたことがある。もしかしてだけど……。ドッペルガー現象で“もう一人の私”が出没している?
  西之表 武田静瞭 2014/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載

祭りの夜

2014-09-03 22:07:53 | はがき随筆
 「おい、こら」「待て、逃げるな!」。必死で稲田へ逃げ込む。うまく逃げおおせたはずの私と友は1時間後、町の駐在所にいた。中学3年、真夜中、帰宅時間を守らず、派手な祭り衣装のまま補導されたのだ。小間結びにした編み笠が脱げない。焦った。「希望高校は?」「A高校です」。私はちゅうちょなく言い放った。間髪を入れず、巡査が怒鳴る。「お前みたいなやつ、行ける訳ない」。クソッ! 高校と何の関係があるんだ……。悔しかった。見返してやりたかった――。50年後、妻と母校のA高校を訪ねた時、ふっとあの夜の光景がよみがえったのだった。
  霧島市 久野茂樹 2014/8/28 毎日新聞鹿児島版掲載