はがき随筆の7月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)
【月間賞】16日「ヤモリ」年神貞子(78)=出水市上知識
【佳作】▽1日「手伝い」口町円子(74)=霧島市国分中央
▽29日「日々是好日」若宮庸成(74)=志布志市有明町野井倉
ヤモリ 梅雨時になると浴室の窓に、白い腹部を見せてへばりつくヤモリを、今年も湯船の中から見かけた喜びと安心感が漂っています。毎年見かける小鳥や昆虫など、自然の微かな変化を確かめて、そこに時間の流れを感じ取っておられる生活の様子が、快い文章の流れで書かれています。
手伝い 中学生のお孫さんが、何かと手伝いに来てくれる。今回はサツキの剪定と枝葉の後片付けだった。剪定技術の方はまだまだだが、おしゃべりしながらの共同作業は楽しく、若返った気分になる。当たり前であるはずの光景ですが、それが特別に優しい家族関係だと感じられるのは、こういう風景がめずらしいものになったせいでしょうか。
日々是好日 バリバリの現役時代に思い描いた、妻と2人きりでの健康で楽しい老後が現在実現している。早朝ランニング、妻の手料理、小旅行など、かつては想像に過ぎなかったことが、想像以上に充実した現実となって、今その幸福感の中に浸っている。その状況の永続を祈られる気持ちがよく分かります。
この他に3編を紹介します。
中馬和美さんの「造林鎌」は、農園への小道の草刈りが必要になり、道具がないので、亡父の使っていた造林鎌を研いで使った。重たいしコツが要るしで、シャツの汗を脱いで絞っていた亡父の苦労が身にしみた。こういうことで実感する親のありがたみですね。
野幸祐さんの「私のサポーター」は、腹部手術後のリハビリのために散歩に出た。雨の日で、疲れ、傘まで重くなった。諦めようかと思った時、きれいな紫色の五輪のアジサイの花が首を振って励ましていた。「耐える愛」という花言葉を思い出したりして、美しいアジサイのサポーターと頑張った。
久野茂樹さんの「輝いていた頃」は、中学時代の懐かしい思い出が、見事な道具立てで語られています。夏、天竜川の河口、鉄橋の下、自転車での遠出、幼い恋、水泳の稽古、それに夕陽。井上陽水の「少年時代」を思い出しました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2014/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載