はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

1円玉

2014-09-20 23:29:15 | はがき随筆
 私はスーパーのレジの3番目に並んでいた。
 1番目の高齢の女性がお札と硬貨を出した後、「1円がない」と財布の中をのぞきながらつぶやいた。すると、すぐ後ろに並んでいた高齢の女性が「どうぞ」と、自分の財布から1円玉を取り出し、台の上に載せた。
 しかし、1番目の女性は「他人にお金をもらうわけにはいかない」と口に出しながら1円玉を返し、「親切にありがとう」と丁寧に頭を下げられた。
 1円玉で自分の思いや考えを口にした方も、善意を示した方も率直で、不思議と待たされた気分はしなかった。
  姶良市 中馬和美 毎日新聞鹿児島版掲載

国語元年

2014-09-20 23:22:12 | はがき随筆
 朝食時。定番のヨーグルト。「さじ!」「スプーンでしょ」
 外出時。「俺のバンド、見ないか」「ベルトなら、いつもの所よ。スニーカーでいいの」「いや運動靴がいいな」。妻絶句。
 夕方。シャワーで汗を流し、「おい! 湯上げ!」「バスタオルとどうして言えないのかしら」と不機嫌になる妻。次は冷たいビールだ。「おい、コップ!」「グラスでしょ」とご機嫌斜め。さてと、寝るとするか。「洗った敷布と寝間着は」「シャツとパジャマでしょ」と、つっけんどんになる。
 我が家の国語元年なのかな。
  肝付町 吉井三男 2014/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載

移り行く季節

2014-09-20 23:11:49 | はがき随筆
 6月、隣の大木と我が庭木のセミが夜明けと共に激しい鳴き合戦を繰り広げた。アブラゼミかな、クマゼミ、ニイニイかな。耳を覆いたくなる程だ。7月にはヒグラシが混じり、セミの鳴きが少し穏やかになった。庭木の枝先に背の割れたセミの抜け殻が付いている。奥の草むらには腹を見せたセミの亡きがらが落ちていた。セミの鳴きもさまざま。雄は発音板を1秒間に何万回も振動させ、共鳴室に伝えて音になるそうだ。間もなくツクツクボウシの鳴きも聞こえてくるだろう。あの美しい鳴きを私は好き。ようやく暑さも過ぎ、草原のススキが伸びてきた。
  出水市 年神貞子 2014/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載