はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2014-10-01 23:55:36 | はがき随筆
 字の地名が「野堂」という仏教地名らしい墓地団地がある。
 その一角に家の墓地もある。
 街の墓と違って、田舎の墓地は彼岸の中日というのに、人一人いない。 墓の中にはきれいに花が飾られた所もあれば、枯れたままの花の所もある。
 崩れかかった墓は訪れる人もなく、寂しく悲しい気にさせる。家の墓には34柱の無銘者の合葬銘がある。
 しかし、墓も建てられないほどの貧しさの中、亡くなった先祖を思う時、此岸の今に感謝したい。
  鹿児島市 下内幸一 2014/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載

何を思うや

2014-10-01 23:49:54 | はがき随筆
 娘が小1の時、肺結核の夫の闘病も5年目。ある日、夫が「私が元気なら有子に英才教育をしてやるのだが。お前さんには無理だろうな」と言った。カチンときた私は「アリコは勉強も出来てしっかりした子と先生も褒めておられます」と言葉を返した。夫は何を思ったか、一瞬キッとなったが、寂しげに「そうか」と言って黙ってしまった。
 夫の切ない気持ちを思いやらなかった我が心の狭さと冷たさが悲しく悔やまれた。
 今、中3と小6の孫が先々の志望校目指して勉強に励んでいる。夫が存命なら何を思うだろうか。
  鹿児島市 内山陽子 2014/9/30 毎日新聞鹿児島版掲載