はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

もっと見たい

2014-10-31 22:11:47 | 岩国エッセイサロンより
2014年10月31日 (金)


岩国市  会 員   森重 和枝

 「おばあちゃん!」「あんたがここにどうして来たん?」「顔、見に来たんよ」。施設にいる姑に面会に行く度に、交わす会話だ。その時、目をパチクリさせて、にこっとする笑顔が、私は大好きだ。
 介護士さんに「あなたが見えると、笑顔が違いますね」と言われる。やはり、待っていてくれるのだ。耳が遠くなって、会話はスムーズに進まない。
 12月で白寿になる。百歳の坂はなかなか越せないと聞く。
 姑には、長寿記録を作ってほしい。一方通行でもいい。笑顔で一生懸命、話してくれるのを、もっと見ていたいと思っている。     

  (2010.10.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

空泳ぐ赤トンボ郷愁

2014-10-31 22:09:30 | 岩国エッセイサロンより
2014年10月27日 (月)

    岩国市   会 員   横山恵子

 先日、朝台所に行くと、天井近くに何か飛んでいる音がした。
 よく見ると、何と赤トンボ。懐かしいものに出合った気がした。昔は「赤トンボは神様のお使いだから、捕ったらいけん」と言われていたものだ。
 逃がしてやると、勢いよく飛んでいった。赤トンボ (アキアカネ)は、秋に湿った水田に産み落とされた卵が翌年ふ化し、7月上句には成虫になるという。
 子どもの頃は多くの赤トンボが飛んでいた。特に田舎に行くと、稲刈りの田の上を気持ち良さそうにスイスイと泳ぐように飛んでいた。
 それは、日本では当たり前の秋の風物詩だった。でも、いつ頃からだろうか、庭や近所の神社で数匹を見る程度になった。減ったのは、農薬の影響や休耕田が増えてきたためといわれている。
 赤トンボだけではなく、四季折々の美しい光景が少なくなっていく。いつか、そのしっぺ返しを受けるのではないかと危惧している。

       (2104.10.27 中国新聞 「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

新しい手帳に

2014-10-31 22:03:39 | 岩国エッセイサロンより
2014年10月22日 (水)


      岩国市  会員  片山 清勝

 定年退職は10月。その日、使い慣れた会社手帳から市販のものに変えた。すると何とも言えない新鮮さと、新たな道へ踏み出したという自覚が生まれた。これが「気分一新」か。それからは毎年この時期に翌年の手帳を購入する。
 1冊目のとき、白紙の手帳に家族の記念日や両親祖父母の命日などを記入した。その程度では予定欄は埋まらない。この先、埋まっていくのか心配した。
 その後、契約社員として勤務したり、誘われたり飛び込んだりして複数の趣味の会や団体に入会や参加をした。すると自然に予定欄が埋まり、退職日の心配は消えた。今は半年先の予定もちらほら。私的な予定を変更することもある。
 今年の手帳をパラパラと繰ってみる。大方は予定とその結果、災害発生などの覚え書きで、雑事に思えることが多い。そうは言っても人との約束は間違って迷惑をかけてはいけないと、心して書き込んでいる。
 そんな手帳が机の引き出しの奥に並んでいる。取り出して見ることはなく、保管する意味はない。そう思うが断捨離は忍びがたく、自分なりの跡が残ると思い、そのままにしている。会社人間だった。定年後、家でごろごろしているのではと妻は口にこそ出さなかったが心配していた。今は私の予定を確認してから頼みたい家事を言い出す。新しい手帳は15冊目。忘れ防止の相棒としてこれから1年、よろしく頼むよ。

            
     (2014.10.22 毎日新聞「男の気持ち」掲載)岩国エッセイサロンより転載

はがき随筆9月度

2014-10-31 21:04:33 | はがき随筆
 はがき随筆の9月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】30日「何を思うや」内山陽子(77)=鹿児島市田上
【佳作】10日「桜島の面影」津島友子(38)=鹿児島市宇宿
▽15日「少しずつ秋」山岡淳子(56)出水市高尾野芝引


 何を思うや 肺結核で闘病中のご主人の、子供にも親しく接することのできない辛さをくみ取ってやれなかった悔いを書いた内容です。後悔先に立たずといいますが、なくなられた人への悔いは、文字通り取り返しがつきません。その微妙な心理がよく現れている文章です。
 桜島の面影 越してきて1年半、県外に帰省したら、奇妙なことに、煙を吐く山を探していた。いつの間にやら、桜島が友達になっていた。すんでいる土地における生活感覚というか、人間心理の不思議さというか、その微妙さがよく表現された文章です。鹿児島が異土から少し変化してきているところがよく表れています。
 少しずつ秋 初秋の風物を次々と並べて、季節の推移を見事に表した文章です。文章の書き方には、何々づくしといって、同一の意味の言葉を羅列していく方法がありますが、「初秋の風物づくし」がうまくいきました。「平和な秋」になるとよいのですが。
 この他に、3編を紹介します。
 田中由利子さんの「アッパレ小学生」は、恐らく日射病と思われる小学生が、知らない家にいきなり飛び込んできて、面倒をみてもらい、具合がよくなると、クラブ活動に行くという。それを止めて自宅へ送ると、夕方お礼にきたという、一種の美談(?)です。小学生の様子が髣髴とする、気持ちのいい内容です。
 中馬和美さんの「1円玉」は。レジで1円足りない高齢の客に、別の客が出してあげようとされたら、丁寧に断られた。断られた人も出してあげようとした人も、その素直な態度に好感がもてたという内容です。この種の関係はわだかまりができそうですが、そうでないところを発見されました。
 清水昌子さんの「プロの子育て」は、ボランティア先の児童擁護施設で、小学生のけんかを見事に仲直りさせた職員の真剣な態度に、プロのすごさを見せつけられた。振り返って自分はどうだっただろうかと反省しきり。自分の子は難しいものです。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

切り花

2014-10-31 20:57:47 | はがき随筆
 近くの特産館は地元の新鮮な農産物、海産物、弁当、総菜などがそろい、連日大盛況。中でも周辺から出される花が大好きだ。一握りほどの切り花は1束100円と格安でうれしい。
 花屋の端正な美しい花と、一味違う身近な自然を感じる花である。百日草、マリーゴールドなどに、時季外れで花びらが虫食いのピンクのダリアが1本だけ。庭木らしき葉物も1枝ある。出荷した人、庭や畑、野山などが見えるようで楽しくなる。
 床の間に行けてみる。最後にダリアを葉陰にさし入れる。恥ずかしそうに少し顔を出す。やっぱり、きれい、可愛い。
  出水市 塩田きぬ子 2014/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝感謝の旅

2014-10-31 20:49:03 | はがき随筆
 さわやかな秋空いっぱいの9月末。隼人にいる弟が段取りをして清らかな流れの天降川上流河畔の宿に泊まった。私の妹弟、子供たちが集まった。初めての懇親の場。盛会であった。足の悪い私は婿たちに抱えられて玄関から車椅子。妹弟4人の部屋へ。手助けしてくれる妹と弟のかねて見られない優しさを改めて感じた。婿たちの思いやりがみにしみる。手助けがなければどこにも行けない私にすれば、楽しい大きな旅である。93歳を祝い慰労し、励ます一色の夕べとなり、弱った足をひきずり、家族に支えられた一夜のうたげ。感謝感謝の旅になった。
  鹿屋市 森園愛吉 2014/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

巡礼

2014-10-31 20:41:06 | はがき随筆
 春に6人の友と篠栗の霊場を巡礼したが、残りの霊場へ10月6、7日に出かけた。幸い天候に恵まれ、沿道に小花のゲンノショウコや薄紫の野菊が咲き、ススキの穂が秋の情緒を深めた。
 高齢の歩きは遅いが、道すがらの会話で霊場巡りが難なく過ぎていった。山道に入るや、汗ばんだ体にひんやりした風がいい。
 紅葉には少し早かったが落ちる滝を木の葉越しにみては感嘆、遍路道のせせらぎが心地よい。「心の旅」に出かけたはずだが、遍路道の風物に心を奪われ、打ち納めまで届かなかった。「大師様、来春また参ります」
  出水市 年神貞子 2014/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載