はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆8月度

2015-09-21 14:26:38 | 受賞作品
 はがき随筆8月度月間賞は次の皆さんです。

【優秀作】30日「それぞれの証言」中馬和美=姶良市加治木町
【佳作】1日「強行採決」津田康子=鹿児島市宇宿
△14日「平和だからこそ」種子田真理=鹿児島市薬師

 
「それぞれの証言」
テレビ番組の、従軍看護婦の戦争体験を見たことに触発されて、自分の父親は、兵役当時どういう思いを抱いていただろうかと、父の苦しみを思いやる内容です。8月は戦後70年ということもあり、反戦への思いを書き記したものが目立ちました。8月15日だからということではなく、戦争へのそれぞれの証言が常時報道され続けることを願っています。
 「強行採決」 昭和の我が国の戦争の歴史をたどっていると、憲法9条の拡大解釈にまで至ってしまった。こういう事態に至ったのは、選挙民にも責任がある。戦争を知らない世代も、投票には慎重を期してもらいたい。というのは、いわゆる「年寄りのたわ言」かと嘆かれていますが、単なるたわ言にならないことは、言うまでもありません。
 「平和だからこそ」日本人の海外旅行が比較的スムーズにいくのは、そのパスポートに信頼性があるからにちがいない。その根底には、戦争をしない国という戦後70年間の平和があるからではないか。このような信頼が損なわれないような国であり続けたいという願いが込められた文章です。
 他に3編を紹介します。
 清水昌子さんの「ごめんね」は、お孫さんが来て宿題をした。弟が間違っているのをからかったら、同時にからかった姉のほうが一転、猛然と間違いを正してやった。喜ぶ弟を見て、やはり姉弟だと、婆アバは脱帽。微笑ましい夏休み風景です。
 奥吉志代子さんの「不謹慎でしたが」は、81歳でいわゆる孤独死をされた方のご遺族に、「子孝行をなさいました」とつい本音を漏らし、はっとしたが、それが受け入れられてホッとしたという内容です。
 中鶴裕子さんの「指輪」は、指輪が窮屈になって外したら、96歳の義母が自分のを譲ってくれた。四十有余年、義母とは何やかやがあったが、この時は心が通い合って嬉しかった。嫁にも受け継いでほしいという、他人からなる家族への願いです。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2015/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

水たまり

2015-09-21 14:26:02 | はがき随筆
 雨の中、市立図書館脇の道路の水たまりの中を赤い傘の少女が歩いている。その4歳ぐらいの子を傘を手に母親が見守っている。水たまりを選んで歩き、水の抵抗を楽しんで喜々としている。私に何かがひらめいた。
 中学を卒業したら刀鍛冶になりたかった私。さえた寒月のような刀の色味のすごさ! オレも作りたい! と思った。が、両親に反対され進学して無難な道を歩いて来た。退職して10年。私は今、赤い傘の少女に覚醒させられた思いだ。もう少ない余生。彼女のように<抵抗>に向かって生きてみようか。私も喜々として歩きたいから――。
  出水市 中島征士 2015/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

フォークダンス

2015-09-21 10:19:23 | 女の気持ち/男の気持ち
 近所の高校の体育祭をのぞいてみた。
 プログラムを見ると、フォークダンスに出られるのは3年生の女子全員と男子選抜とある。共学だが女子の方が多いのだろう。招集場所からぎこちなく手をつないだ2人組がフィールドに向かって小走りで駆けて行く。時々「そこの2人、ちゃんと手をつなぎなさい」と教師に怒られているのがおかしい。
 肩と腰のところで手を重ねる。あんなふうに校内で手をつないだら「不純異性交遊」のかどで校則違反として挙げられた末、謹慎ものだ。握手という習慣が無い日本では、おおっぴらに同世代の異性の手を握れる貴重な機会がフォークダンスなのだから、もっと勇気を出して楽しみながら手を取り合って踊ればいいのに。もったいない。
 「ほら男の子は横に並びなさい」と男性教師にせき立てられ、「ちゃんとエスコートしてあげなさい」と女性教師に追い打ちをかけられている男子生徒の困ったような照れたような表情。どの2人も無言で目を合わさずにすましているか、よくて照れ笑いと苦笑いを足して二で割ったようなはにかみを浮かべるので精いっぱいだ。
 「だらしない。しっかりしろよ」と、かつて自分もそうだったのに、ついやきもきしてしまう。
 あのどっちつかずな距離から近づくことも離れることもできず、気恥ずかしげにしている彼らの初々しさに、自分が嫉妬していたのだと気付いたのは、皆が退場したあとだった。
  出水市 谷口歩 2015/9/20 毎日新聞、男の気持ち欄掲載

ウカゼと停電

2015-09-21 10:05:31 | はがき随筆
 ようやく暑さが峠を越した頃、ウカゼが大暴れして去っていった。緊張感のない生活にどっぷりだったので、台風被害と停電にはジョジョンヒッタマガッタ。遠い遠い昔の話、あの頃詳しい台風情報はなく緊張感をもって風向きなどで、ウカゼがクッドと雨戸をツッパイなどで支え備えていた。夜はきまって停電、ろうそくで十分だった。
 便利さに慣れきってしまった昨今「停電にチイワイチイワイ」、ご飯も炊けず生活もできない。この便利さで得ている物、失っている物を改めてもう一度考えさせられた。
  さつま町 小向井一成 2015/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載


にがごい

2015-09-21 10:04:45 | はがき随筆
 夏野菜の定番、ゴーヤーは、にがうり、レイシなどと親しまれる。東南アジアから中国、沖縄へと伝わり栽培が始まった。ヨーロッパでは「ビターキューカンバー」と、その名の通り観賞用だったとか、苦みは食欲を増し夏バテ防止にぴったり。我が家ではゴーヤーチャンプルーの出番は多かった。種を除きニガゴイとニンニクを油で炒め、更にベーコンと豆腐を加え鶏ガラスープの素で味を整える。最後に卵を流し入れ完成。減塩に努め、素材に含まれる塩分だけで調理した。ゴーヤーの苦みを減らすべくレンジを使うのがポイントかも、お試しあれ!
  鹿屋市 中鶴裕子 2015/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

2015-09-21 10:03:59 | はがき随筆
 選択物を干し終えて空を見上げたら、北海道の形に似た雲を見つけた。礼文島、利尻島にも見える雲を見ていると、旅の思い出がよぎる。「あれあれっ」。島が離れていく。目で追っていると、北海道全体の雲も青空に広がって消えていった。
 雲はさまざまな形を作り、いろいろなことを想像させてくれる。見ているだけで楽しくなる。動物の形に見えたり食べ物にも変わっていくから面白い。もこもこと盛り上がった雲は、サクランボがのった「白熊」に見えてくる。
 「そうだ、白熊の買い置きがあった」と冷蔵庫へ向かった。
  鹿児島市 竹之内美知子 201/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載