
濁流が「ゴーゴー」と音を立てて不知火海へ流れている米ノ津川。そのまわりでは青々と稲穂が秋の収穫へ向けて揺らいでいる。雄大な矢筈岳がドーンと見守っている。あぜ道には極楽浄土みたいに彼岸花が紅をそえている。子供の頃いっぱい手にとって匂いをかいでみた。茎が苦かった。走ってみたら、その頃にもどれた。この秋には久しぶりに彼岸花が見れる。親鸞は「人が逝ったお盆にも彼岸にも二度とこの世に帰ってこない」と説いているけど、彼岸花の陰から両親がほほ笑んでいた。そっと手を合わせたら、この世の煩悩も消えさった。
札幌市 古井みきえ 2015/9/23 毎日新聞鹿児島版掲載