はがき随筆の2月度月間賞は次の皆さんです。(敬称略)
【優秀作】5日「竜宮城」塩田幸弘さん=出水市下知識中
【佳作】6日「母」中鶴裕子さん=鹿屋市王子町
▽16日「知らなかった~」竹之内政子さん=垂水市田神
「竜宮城」は、52年ぶりの中学校のクラス会の模様です。「昭和の格調高い緞帳が上がったような感じ」という表現はいいですね。しかし、その昭和の舞台は、集団就職など必ずしも平穏なものとは限らなかったことでしょう。「生きててよかった」という感嘆詞は、ときには空虚にひびきますが、ここでは重いリアリティーを持っています。
「母」は、介護施設に入所している母親を見舞いに行き、判れて帰るつらさが描かれています。同趣旨の内容は時々採り上げられますが、やはり無視できない悲しい現実です。好物のお土産をもらう度に「食べたことがない」とくり返される母親のご様子が、失礼ながら精神が壊れていく予感を現わしていて哀れです。
「知らなかった~」は、初詣は縁のない神社にお参りすることにしている。今年も知らない神社で185段をのぼりつめたら、たき火をしていた人たちがいて、車道があるのになぜ歩いたのかと、いぶかしがられたという内容です。しかし歩いて登ったご利益に、熱々の焼き芋をもらったという、ほほ笑ましい内容です。
この他に3編を紹介します。
津田康子さんの「戦後70年」は、水木しげると野坂昭如への追悼文です。戦後70年がたち、戦争体験や被災体験が風化していくなかで、両氏は独特の立場で我が国の現況を鋭く見つめ、平和を願ってきた方々でした。
小向井一成さんの「麦踏み」は、麦も人も強く踏みつけられるほど強く育つという、母親の言葉を信じていたが現実は違ったようである。仏壇の母親に問い掛けると、人生とはそういうものだという答えが返ってきたという、瓢逸な味のある文章です。
秋峯いくよさんの「ゆらぐ」は、一回り上の元気で1人暮らしをしていた方を目標にしていたが、とうとう娘さんの所に移られた。別の友人はお元気だと思っていたのだが、ご夫婦で老人施設にはいられた。夫と暮らした自宅で最期までと考えていたが、自信がなくなってきたという内容です。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦
月間賞作品
竜宮城
地元の幹事君の肝入りで、昭和の格調高い緞帳が上がったような感じがした。全国から新幹線や飛行機でクラスメートが集まった。52年ぶりの再開である。みんな満面の笑みだった。まるで昨日、出水市立米ノ津小学校を卒業したかのように、瞬時に中学時代の話題になった。浦島太郎が仲間たちを連れて竜宮城に戻って来たみたいに歌や踊り、談笑で楽しい時間が流れた。「生きててよかったあ」と、集団就職列車に乗った彼がポツリ。その声を聴いた幹事君の目には涙がキラリ。「会えてよかったなあ」とアッチコッチから歓喜の声があがった。
【優秀作】5日「竜宮城」塩田幸弘さん=出水市下知識中
【佳作】6日「母」中鶴裕子さん=鹿屋市王子町
▽16日「知らなかった~」竹之内政子さん=垂水市田神
「竜宮城」は、52年ぶりの中学校のクラス会の模様です。「昭和の格調高い緞帳が上がったような感じ」という表現はいいですね。しかし、その昭和の舞台は、集団就職など必ずしも平穏なものとは限らなかったことでしょう。「生きててよかった」という感嘆詞は、ときには空虚にひびきますが、ここでは重いリアリティーを持っています。
「母」は、介護施設に入所している母親を見舞いに行き、判れて帰るつらさが描かれています。同趣旨の内容は時々採り上げられますが、やはり無視できない悲しい現実です。好物のお土産をもらう度に「食べたことがない」とくり返される母親のご様子が、失礼ながら精神が壊れていく予感を現わしていて哀れです。
「知らなかった~」は、初詣は縁のない神社にお参りすることにしている。今年も知らない神社で185段をのぼりつめたら、たき火をしていた人たちがいて、車道があるのになぜ歩いたのかと、いぶかしがられたという内容です。しかし歩いて登ったご利益に、熱々の焼き芋をもらったという、ほほ笑ましい内容です。
この他に3編を紹介します。
津田康子さんの「戦後70年」は、水木しげると野坂昭如への追悼文です。戦後70年がたち、戦争体験や被災体験が風化していくなかで、両氏は独特の立場で我が国の現況を鋭く見つめ、平和を願ってきた方々でした。
小向井一成さんの「麦踏み」は、麦も人も強く踏みつけられるほど強く育つという、母親の言葉を信じていたが現実は違ったようである。仏壇の母親に問い掛けると、人生とはそういうものだという答えが返ってきたという、瓢逸な味のある文章です。
秋峯いくよさんの「ゆらぐ」は、一回り上の元気で1人暮らしをしていた方を目標にしていたが、とうとう娘さんの所に移られた。別の友人はお元気だと思っていたのだが、ご夫婦で老人施設にはいられた。夫と暮らした自宅で最期までと考えていたが、自信がなくなってきたという内容です。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦
月間賞作品
竜宮城
地元の幹事君の肝入りで、昭和の格調高い緞帳が上がったような感じがした。全国から新幹線や飛行機でクラスメートが集まった。52年ぶりの再開である。みんな満面の笑みだった。まるで昨日、出水市立米ノ津小学校を卒業したかのように、瞬時に中学時代の話題になった。浦島太郎が仲間たちを連れて竜宮城に戻って来たみたいに歌や踊り、談笑で楽しい時間が流れた。「生きててよかったあ」と、集団就職列車に乗った彼がポツリ。その声を聴いた幹事君の目には涙がキラリ。「会えてよかったなあ」とアッチコッチから歓喜の声があがった。