はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆2月度

2016-03-28 22:24:04 | 受賞作品
 はがき随筆の2月度月間賞は次の皆さんです。(敬称略)
 【優秀作】5日「竜宮城」塩田幸弘さん=出水市下知識中
 【佳作】6日「母」中鶴裕子さん=鹿屋市王子町
▽16日「知らなかった~」竹之内政子さん=垂水市田神


 「竜宮城」は、52年ぶりの中学校のクラス会の模様です。「昭和の格調高い緞帳が上がったような感じ」という表現はいいですね。しかし、その昭和の舞台は、集団就職など必ずしも平穏なものとは限らなかったことでしょう。「生きててよかった」という感嘆詞は、ときには空虚にひびきますが、ここでは重いリアリティーを持っています。
 「母」は、介護施設に入所している母親を見舞いに行き、判れて帰るつらさが描かれています。同趣旨の内容は時々採り上げられますが、やはり無視できない悲しい現実です。好物のお土産をもらう度に「食べたことがない」とくり返される母親のご様子が、失礼ながら精神が壊れていく予感を現わしていて哀れです。
 「知らなかった~」は、初詣は縁のない神社にお参りすることにしている。今年も知らない神社で185段をのぼりつめたら、たき火をしていた人たちがいて、車道があるのになぜ歩いたのかと、いぶかしがられたという内容です。しかし歩いて登ったご利益に、熱々の焼き芋をもらったという、ほほ笑ましい内容です。
 この他に3編を紹介します。
 津田康子さんの「戦後70年」は、水木しげると野坂昭如への追悼文です。戦後70年がたち、戦争体験や被災体験が風化していくなかで、両氏は独特の立場で我が国の現況を鋭く見つめ、平和を願ってきた方々でした。
 小向井一成さんの「麦踏み」は、麦も人も強く踏みつけられるほど強く育つという、母親の言葉を信じていたが現実は違ったようである。仏壇の母親に問い掛けると、人生とはそういうものだという答えが返ってきたという、瓢逸な味のある文章です。
 秋峯いくよさんの「ゆらぐ」は、一回り上の元気で1人暮らしをしていた方を目標にしていたが、とうとう娘さんの所に移られた。別の友人はお元気だと思っていたのだが、ご夫婦で老人施設にはいられた。夫と暮らした自宅で最期までと考えていたが、自信がなくなってきたという内容です。
   鹿児島大学名誉教授 石田忠彦


月間賞作品

竜宮城

 地元の幹事君の肝入りで、昭和の格調高い緞帳が上がったような感じがした。全国から新幹線や飛行機でクラスメートが集まった。52年ぶりの再開である。みんな満面の笑みだった。まるで昨日、出水市立米ノ津小学校を卒業したかのように、瞬時に中学時代の話題になった。浦島太郎が仲間たちを連れて竜宮城に戻って来たみたいに歌や踊り、談笑で楽しい時間が流れた。「生きててよかったあ」と、集団就職列車に乗った彼がポツリ。その声を聴いた幹事君の目には涙がキラリ。「会えてよかったなあ」とアッチコッチから歓喜の声があがった。
  

中学英語

2016-03-28 21:58:34 | はがき随筆
 万能川柳にこんな句があった。「アメリカに生まれりゃオレもペラペラよ」。日本人は中学校で英語を習うが、簡単な英会話もできない。そこで小学校から正式教科にして、2020年の実施を考えているようだ。
 財界総理とうたわれた石坂泰三氏は、外国人の前で見事な英語のスピーチをされた。「私は中学時代にリーダーを、高校はシェークスピアを大声で読んだおかげだ」と話されている。
 この話に触発されて、わが家の本棚で中学英語の大切さを説いた本を見つけた。もう一度、手と口を動かして中学の英作文を勉強し直している。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2016-03-28 21:50:13 | はがき随筆
 3月は別れの季節。母校泊野小も少子化という形で137年の歴史に幕を下ろす。ぼくが通った頃は200名の児童であふれ、学校も集落も活気に満ちていた。回想していると、始業を知らせる懐かしい鐘の音。ハナシ捕り名人のりお君、ワレコッポのきよと君、おてんばのまちこさん、優等生のたみこさん、おとなしいすえこさん……と44名の友の名が脳裏によみがえってきた。若くてきれいな三浦先生、よく怒っていたけど工作が上手な塩田先生、優しい宮野教頭先生、朝礼の長い梶原校長先生と、心に残る思い出を作ってくれた泊野小学校ありがとう。
  さつま町 小向井一成 2016/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

筆談

2016-03-28 21:43:06 | はがき随筆
 園児たちがすっかり帰った教室に彼女を訪ねる。まあるい顔いっぱいに彼女の笑顔がはじけた。ままごとみたいに小さな机に向い合って座る。一本の鉛筆を使って、僕たちの音声のない会話が始まった。「のど大丈夫?」と僕。「ううん、まだ声でなくて……」
 途中、ポケットから取り出したアメ玉の一つを僕の口へ、一つを自分の口へ入れて彼女はにっこり笑った。後日、この話を聞いた友が言った。「まるで青春映画そのものだな」。19歳と22歳。まだ疑うということなど知らなかった2人の、ちっちゃくてかわいい恋の話である。
  霧島市 久野茂樹 2016/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鶏物語

2016-03-28 21:35:40 | はがき随筆
 1人暮らしのいとこが毎日卵を産む鶏3羽を飼っている。去る2月に腰痛手術で2週間入院することになり、困っていた。それを聞いた近所の人が家の鶏と一緒に飼ってあげると連れていった。ところが「ワイダオイゲーナイゴッカー」と言わんばかりにケンカするは、3羽をつつき回し、仕方なく元の小屋になおって一件落着しました。
 鶏までケンカがありますが、いま世界中で難民問題が出ているのだ。鶏は幸い元の小屋に帰りましたが、難民は帰る先なしで本当に可哀そうだなあー。何とか助けるよい方法はないものかと思う今日このごろです。
  湧水町 本村守 2016/3/19 毎日新聞鹿児島版掲載

脳梗塞の友

2016-03-28 21:29:01 | はがき随筆
 どんなに無念だろう。数年前まで、私とよく食事をしたり、私を山や海によく連れていった2人の脳梗塞の友。
 Sさんは、私の先輩で3回も脳梗塞を起こした。今は自宅でほとんど寝たきり。一月ほど前、遊びに行ったとき、彼は「もう、この足を使うことはない」と足を見ながらぽつりと話した。私は返す言葉が見つからなかった。
 もう1人のYさんは、左半分がまひして杖をつき、やっと100メートルほど歩ける。山や海がだい好きだったYさんは言う。「二度と山や海には行けない」。……力になれない私も悲しい。
  出水市 小村忍 2016/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載