はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

父の手

2019-04-24 22:15:20 | 岩国エッセイサロンより

2019年4月22日 (月)

       山陽小野田市  会 員   河村 仁美


 父の器用な手は私の憧れだ。絵を描き習字もたしなみ、たくさんの絵手紙ももらった。もつれたタコ糸をきれいにほどいてくれていた父もまもなく九十。ずいぶん年をとった。

 「そろそろ寝る時間よ」と声をかけると父が手を差し出す。今まで1人で立ち上がっていたので、とまどいながら手を差し伸べると安心したのか手を握り立ち上がって寝室まで歩いた。朝食はいつもパン食なので、食べる分だけ皿にのせて渡した。目を離したすきに縛っていた袋を開けパンを食べ続けている。 油断大敵。手の力は弱くなったが、器用さは健在なようだ。
  (2019.04.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


花粉症知らず

2019-04-24 22:13:46 | 岩国エッセイサロンより

2019年4月18日 (木)

 

花粉症知らず

 

   岩国市   会 員   片山清勝

 目の前に、分厚いマスクに保護眼鏡を掛けた人がいた。「花粉症じゃないの」と声を掛けられて、知人と分かった。重装備の知人には悪いが、遺伝なのか感度が鈍いのか、私は花粉症を経験したことがない。
 思い返せば、子どもの頃には近くの山も遊び場の一つだった。広場と同じように駆け回った。
 杉の実がなるころには杉鉄砲で遊んだ。小さな竹を銃身に、自転車のスポークや竹の串などを銃身の長さに合わせて切り、突き出し棒を作る。銃身に弾代わりの実を詰めて、思いっ切り突き出して飛距離を競って遊んだ。
 杉の実を取る時にはしっかり花粉を浴びた。弾の滑りをよくするため、実を口に含んで湿らせてから詰めて発射した。時には誤って飲み込んだ。こうした遊びから自然に抗体ができ「花粉症知らず」になったと勝手に思っている。
 一目で花粉症と分かる姿は減っているようでもあるが、それは見掛けだけという。予防法や治療薬、個人の対処法によって苦しそうでなくても、症状は変わらないらしい。
 前に住んでいた所では、隣家に高さ20㍍もあろうかという杉の大木があった。黄色の花粉が風に吹かれ、帯状になって飛散していくのを下から眺めたこともある。その頃、花粉症のことは知らなかった。
 真っすぐに成長する杉の木は、和風の建築には欠かせない貴重な資材である。
 杉は人を苦しめているとは知らない。
     (2019.04.18 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)