はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

走れば春

2019-04-25 16:45:53 | はがき随筆

 いつもの温泉で70代のマラソンランナーと出会う。「ことしも挑戦、400位台、タイム4時間35分」。淡々と語る。電気風呂を楽しみつつ小柄で柔和なお年寄りにほれぼれす。ひなまつりの日、首都と南のさつまで、5万人が快い汗を流した。

 自己ベストを目指す人、とにかく完走を願う人、沿道の応援に手を振り、己を励ましひた走る。花曇りの中、人生がはじける。人生っていいなと改めて思う後期高齢者。改めて隣の若きご老人に敬意をささげる。やがて、光輝、高貴、文字を変えても後期。ケセラセラ、願わくばピンピンコリ、嗚呼!

 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載


女子中学生

2019-04-25 16:38:10 | はがき随筆

 エレベーターに乗り込むと先客がいた。女子中学生が4名。

 夫が「セーラー服か…懐かしいなぁ」とつぶやく。と同時に「キャハハー」と4人が一斉に笑う。「そんな事言ったらセクハラだから」と夫をたしなると、またもや「キャハハー」と大きな声。笑い声が狭い空間をくるくる回る。降りる直前に「ごめんなさいね」と頭を下げると手を振り「イイエ」の仕草。

 先を行く夫の背に「あんな事言ったらダメよ」と言うが意に介せずの歩き方。言った側より受け手の感情だから難しい。彼女たちの笑顔。セクハラは勘違いですよと言っていたようだ。

 宮崎県延岡市 源島啓子(71) 2019/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載


至福の春

2019-04-25 15:52:24 | はがき随筆

 「サイタ サイタ サクラガ サイタ」。私たちが小学1年生で初めて習った国語。今まさに桜花らんまん。早朝の散歩では公園、小学校運動場と満開の桜の下を歩く。時には風で舞い散る花びらはハラハラと肩を、そして老髪も飾る。居間に隣接する住宅の庭の大木の桜も満開。一陣の風に花嵐となり縁側に降り注ぐ卒業式を終えた子どもたちは花の下での笑顔。桜花乱舞と重なり、何と至福の春。齢を重ね、体は所々さび付いてきたが、春をいっぱい身に受けて元気を出そう今日めでたく次の年号「令和」も決まった。三世代に向かって前進。

 熊本市中央区 原田初枝(88) 2019/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載


ミニアルバム

2019-04-25 15:46:00 | はがき随筆

 初孫が小学校を卒業する。孫はあたしより大きいサイズの靴を履き、声変りもして、もう一緒に風呂にも入ってくれなくなった。卒業にあたり、彼の誕生以来撮り溜めていた写真から48枚を選び出し、少しコメントを添えたミニアルバムにまとめて贈ることにした。一枚一枚は彼の成長を物語り、その笑顔はじじばばを楽しませてくれた。思春期に入り、大人の階段を上り始めた彼は、これからは被写体になる機械も減り、多感な時期を過ごしていくのだろう。

 これから続く孫たちにも同様のミニアルバムを贈ろう。また新たな目標ができた。

 鹿児島県姶良市 中馬和美(68) 2019/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載


墨書

2019-04-25 15:37:50 | はがき随筆

 最近、墨書の便りがめっきり減ったが、現役時代の友人、T君から便りが届いた。

 彼の墨書は驚嘆して呆れるばかりの墨跡である。これが恋文でもあったなら、天にも昇る思いであろうが、2人とも男性ではどうにもならない。

 人生行路で、今は交友も薄れ、いつの間にか中年を越えて初老に至り、今も惚れ惚れするほどのさえた筆跡で、今年も季節ごとに近況の便りをいただき、その度ごとに墨跡に呆然とする。

 字の上手下手で人を計るべきではないと自戒しているが、でも、心の醒めるものがある。

 宮崎市 黒木正明(86) 2019/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載


校区の標高

2019-04-25 12:32:45 | はがき随筆

 散歩の道すがら小学校の横を通るが、校庭の隅のフェンス越しに小さく書かれたと標本が見える。「基本測量」「三角点」「国土地理院」と読み取れる。そしてその横に石柱が。

 前々から標高はどれくらいかと気になっていたが、事務の女性にうかがったら「へぇ、そんなのがありますか」とご存じない様子。でも調べてみますと言って翌日海抜75㍍だそうですと電話を下さった。

 これで長年のもやもやが解けた。近くの立田山の高さは125㍍。下を流れる白川からすると50㍍くらいかと想像していたが75㍍だそうな。

 熊本市北区 佐々京子(83) 2019/4/25


上品にアイリス

2019-04-25 12:23:08 | はがき随筆

 

    ここのところ20度近くの暖かい日が続いている。今年の立夏は5月6日だが、そんな陽気に誘われてか〝仲夏の候〟に咲くアイリスが開花した。

 「アイリスが咲いたよ。薄紫だからかなあ、あまり目立たないね」とカミさんに声をかけた。

 「今どこの家の庭にも咲いているけど、上品だわよね」。カミさんの言う通り、薄紫の衣を身にまとった、色白の美しい女性が、物静かに小首を傾げてこちらを見ているかのようだ。

 それでは今日はヴィヴァルディの「四季」を聴くことにしようか。アイリスには「夏」より「春」が似合うように思う。

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載


ばぁばぁ着替えたの?

2019-04-25 12:14:39 | はがき随筆

 娘が「お母さん、今日は早く行かんといかん。保育園頼むわ」と慌てて仕事に出かけた。

 ゆったりした服に着替え「保育園行こうか」と促す。すると、2歳の孫が「ばぁばぁ着替えんと?」と言うのだ。「えっ、着替えたよ」と答えるや「違う、ママみたにいに着替えると」と口をとがらせた。「はあ?」と思いつつ「わかった」と娘が仕事に行くようなシャツとズボンに着替えた。「これでいい」と尋ねると「いいよ」のOKが。

 娘に報告すると「よく見てるね」と噴き出した。孫の観察力に脱帽。指摘されないよう気を付けなくちゃ。

 宮崎県串間市 林和江(62) 2019/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載


春への誘い

2019-04-25 12:07:09 | はがき随筆

 「うわぁ、すごい」。思わず声が出る。この前までつぼみだったモクレンも、紫色の大輪の花で青空を見上げる。冬から春へ季節は確実に移った。花々が一斉に輝く。人の背筋もピンと伸びる。暖かいことは素晴らしい。気分が前向きになり、外へ出かけたくなる。やっと待ち望んだ春が来た。窓を全開し爽やかな空気を入れる。小鳥のさえずりさえも愛おしい。レンゲも菜の花もいい香り。

 愛犬の桃太郎は俄然元気で、可愛いお尻を振り振り。散歩がうれしそう。私は用水路をのぞき、コイやナマズを探す。少し遊ぼう。春は道草OK。

 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載


自己紹介

2019-04-25 11:59:24 | はがき随筆

 「ヨイ、ヨツイ、いやシクライかな?」。散歩中のご夫婦がわが家の表札を見て悩んでいる。「シイといいます」と声をかけると、「あーそのまま読めばいいんですね」。

 「四位」の読み方を巡って時々交わされる会話だ。またシイと名乗ると、イシイさん? と間違われたり、シイが通じてもどんな字を書くのかひとしきり説明が必要だったりと、結構面倒だ。しかし目と耳でしっかり覚えてもらえるのは、ひょっとしてラッキーなことなのかも。

 4月は出会いの季節。いろんな自己紹介が繰り広げられることだろう。

 宮崎市 四位久美子(69) 2019/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載


令和3年の免許証

2019-04-25 11:51:33 | はがき随筆

 高齢者講習も無事パス。あと3年OKの運転免許証を手にした。平成34年5月まで有効の文字がまばゆい。昭和39年の原付き、42年の普通車取得から大した事故、違反もなく過ごせたことを神に感謝するとともに、まだまだ安全運転を続けるぞ、と心を新たにする。

 免許証返上を暗に呼びかけられたりもする。市中心街を結ぶ公共交通機関も比較的利用しやすい場所に住んではいる。とはいえ、休養やボランティア活動でマイカー移動が避けられない事態もしばしば。これまで以上に心身の健康維持に努め、令和3年更新も、と欲が出てきた

 熊本市東区 中村弘之(82) 2019/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載


広報「きりしま」

2019-04-25 11:44:47 | はがき随筆

 霧島市が発行する「広報きりしま」の巻末を飾る随想欄に載せていただけることになりました。私は県外からのIターン組。その視点を生かして、生来の「きりしまっこ」には当たり前になりがちな霧島の優れたところを全国に発信しますという内容です。手段は、ライフワークと決めた全国紙への「俳(歌)壇」の投稿です。入選すれば<霧島市 久野茂樹>と載るからです。霧島の固有名詞を織り込みながら、週に何千通もの投稿作品から選ばれるのは容易ではありません。でもでも頑張ります。知力と体力への「老いの挑戦」です。

 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載 


満月と桜

2019-04-25 11:38:07 | はがき随筆

 タクシーを降りたのは自宅のはるか手前だった。酔いを覚まそうとしばらく歩く。月光照らす川沿いの道をフラフラしながら今日一日を振り返る。入社して初めての花見。必死でいろんな人にお酌をしてまわった。上司とどう話せばよかったのか。失礼はなかったか。昼間から駆けまわって場所取りをし、ブルーシートを敷くのにまごついて、結局あのコとも話せなかった。帰り道、満月の下でほっとひと息。そして気付く。酒をあおって夜空を見上げ、揺れる枝花をめでる。だから花見っていうんだなあ。ちょっびり大人の気分になった二十四の春だった。

 鹿児島県出水市 山下秀雄(49) 2019/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載


心にくいね

2019-04-25 11:30:52 | はがき随筆

 青空の下、高校の卒業式が終わった翌日。制服姿の孫が母親と2人で来てくれた。

 「父親は」と尋ねると、卒業式で緊張したらしく体が痛いので留守番しているからとのこと。皆で大笑いした。おそらく「ひりっ子」で、色々のことがかけ巡ったのだと察知した。会話が弾むなか、母親がカメラを向け、皆で卒業記念を、と。孫は卒業証書と記念品の小さな筒を手にし、カメラにおさまった。心にくい企画に目が潤む。

 1歳から保育園に預けられ、園長先生に抱かれ泣きじゃくる遠い日の姿がよみがえる。婆への心遣いと長寿の薬に感謝。

 宮崎県延岡市 島田葉子(86) 2019/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載


空き家

2019-04-25 11:21:58 | はがき随筆

 名古屋の自宅の左隣が約4年前に空き家になり、売却・新築となった。さらに今度は右隣が同様に売却・新築の様子。隣家としては、空き家での事件や火災の発生を強く懸念している。

 実は、熊本では昨年秋に妻の実家が空き家になり、いずれ解体・売却は必死の状況に。自身でも経験しているだけに、周囲の方々のご心配はいかばかりかと心が痛む。今後は、盆暮れや春秋のお彼岸前後をめどに帰省して、従来同様庭木のせん定や花壇の維持、庭の雑草除去に励むつもりだ。この数年、隣保の方々と築いてきた信頼関係を無にしないように。

 名古屋市昭和区 佐々木信生(70) 2019/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載