はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

イプシロン4号

2019-04-25 11:14:56 | はがき随筆

 1月18日、内之浦のロケット打ち上げを夫婦で見に行った。近くで見るのは初めて。午前2時ごろから待機してた方もあった。見学場までは渋滞で到底行けそうもなく、路肩で双眼鏡をのぞき込んだ。いよいよカウントダウンが始まり、快晴の空を固唾をのんで見守った。すると、いきなりロケットが火を噴きながら上昇。数秒おいて空気振動を伴う轟音の大迫力に魅了され、立ちすくんでしまった。白いロケット雲はまるで空高く上る竜のようだった。アニメの「千と千尋の神隠し」の一シーンと重なった。そのうち人工の流れ星が見られるとか?

 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載


義母との会話

2019-04-25 11:09:24 | はがき随筆

 長崎で入院中の義母に会いに行く。「智子さんよく来てくれたね」。93歳の義母はもうずいぶんと記憶が曖昧になっているが、私を分かってもらえホッとする。そしていつも必ず母はどうしているかと尋ねてくれる。

 「元気ですよ」。母は昨年他界したが、義母にはそう答える。

 すると不思議に母が生きている気がして、福岡まで会いに行かなきゃ、と思ってしまう。

 ほんのわずかな時間だけど、義母のおかげで母がいた頃に戻ることができた。しばらく義母とおしゃべりして主人と病室を後にする。おかあさんありがとう。また来るね。

 宮崎市 平野智子(60) 2019/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載


満天の星

2019-04-25 10:54:48 | はがき随筆

 年数回、天草に釣りに行くことを楽しみにしている。

 あの日は、強い雨風の後の静かな夜だった。午前3時ごろ出発して、ひと休みすめため、天草の水源である教良木ダムの駐車場に車をとめた。車から出て背伸びをしようと上を見た途端、私は思わず「ワアッ」と声を発した。

 目にしたのは、まさに満天の星。息をのんだ。星の一粒一粒がくっきりと輝き、それが全天にちりばめられていた。何と美しい。私は感動した。

 人は星を見てどうして感動するのだろう。そこに生命の起源をみるからなのだろうか。

 熊本市北区 岡田政雄(71) 2018/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載


曾孫のつぶやき

2019-04-25 10:46:51 | はがき随筆

 入院中の私の病室に出入りできるのは、限られた人だけで、夫も面会できない。主治医に無理に頼んで、曾孫に会わせてもらった。久しぶりに会う4歳になる曾孫は、おしゃまでおしゃべりな女の子になっていた。

 その子が私の好きな紅色の洋服を着ていた。「素敵な洋服ね。ばあちゃんも欲しいわ」と言うと「赤いお花の服、着ているのに。じいちゃんに買ってもらえばいいのよ」と言った。それでも「欲しいわ」というと着ていた服を脱いで畳んだ。渡してくれながら「小さいのに」とつぶやいた。この子の優しさに涙と共に急いで脱いだ服を着せた。

 宮崎県日向市 榎田安恵(78) 2019/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載