はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

一瞬の出会い

2020-07-05 17:55:54 | はがき随筆
 昨夜12時まで書道出品の準備をし、朝9時前に郵便局の駐車場に待機していると、見知らぬ老婦人が後ろ向きの私に明るいあいさつ。「あと5分ですよ」とこちらも返事。出入り口が開き、5.6人の方たちが中へ。局の事務窓口は透明ビニールで外来からのコロナ予防。手先だけ客との交流ができる。開始一番の職員に「今日もやるぞ」と気力がみなぎっている感じ。用事が終わり、出口の方へ行くと、先ほどの婦人が椅子に座っておられる。今度は私の方が声を。「先に失礼します」と言うと破顔一笑、どこの誰ともしれる一瞬の出会い、楽しい心。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(80) 2020/07/04 毎日新聞鹿児島版掲載

言われなくても

2020-07-05 17:49:28 | はがき随筆
 相田みつをさんの「あたまじゃわかっているんだが」は言い得て妙だ。手の内を見透かされそうで、面はゆい気もするが。
 コロナ禍で、終日自宅で暮らす。居間で新聞をみると、すぐ書斎にこもる。散文を書いたり、退屈しのぎにクイズを解いたり。何かと落ち着かない。書斎は雑本で足の踏み場もないだらしなさだ。妻も「ケガしたら大変よ」と心配するが、当分その気にならない。
 外出もままならず、ストレスが満杯。願わくば妻に「よく片付きました」と二重丸をもらえる日が早く来るといいんだがなあ。言われなくても分かるよ。
 宮崎市 原田靖(80) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

聴診しますね

2020-07-05 17:42:36 | はがき随筆
 診察も終盤、「聴診しますね」と言われた。長いこと通院しているが初めての事でびっくり。「聴診してくださったのは、先生が初めてです」「そうですか」と涼しい顔。これまで医師はずっとパソコン相手に手は器用に動き患者はそれを見ているだけ。そう、データ主義とみていた。
 昔、あの時触診があったら死ぬことはなかったはずと思う事例がある。時間内の診察には限度もあろう。患者の希望として触診、聴診等の基本をぜひお願いする。長生きのために病院では、積極的に訴え、納得するまで聞きそして受け入れよう。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

登いこ

2020-07-05 17:34:54 | はがき随筆
 悪ガキの頃、夏、川は絶好の遊び場だった。中でも鰻取り。竹筒を鰻の通りそうな川底に仕掛けておく。取れた鰻のかば焼きは最高のごちそうだった。
 日がかんかんに照りつける。支流が本流に流れ落ちる所、そこに仔鰻が支流に登って埋けるように平たい石を並べて板を作ってやる。翌日見に行くとお箸ほどの大きさの仔鰻が体をくねらせながら登っていく。これを「登いこ」と呼んだ。
 堰や小さなダムの石畳には数え切れないほどの登いこたちが登っていた。いま彼らはどこに行ったのだろうか。獲られるシラスウナギが不憫でならない。
 鹿児島市 野崎正昭(88) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

車と私

2020-07-05 17:28:42 | はがき随筆
 運転免許を更新した。年齢を考えると、更新か返納か悩んだが、更新を選んだ。
 今の時点で、車のない生活は考えられなかった。特に亡夫の月命日のお参りだけは続けたい。亡夫の菩提寺は、郊外にあり、自宅からの交通のアクセスも悪く、車は必須である。
 私にとって、車なしでは動きのとれない日常になっている。と言って、いつまで車のハンドルを握れるのだろう。そう思うと車との限られた時間が大切でいとしくてたまらない。
 免許更新を機に、76歳の年齢を改めて自覚し、その重さをしっかりと背負い直した。
 宮崎県延岡市 橋本京子(76) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

デイサービス

2020-07-05 17:21:33 | はがき随筆
 家内が亡くなってから、買い物や炊事洗濯などの家事をしているが、娘が心配して「毎日家の中にいたら、楽しさが無くてストレスがたまるだけよ」と言って、デイサービスを手配してくれた。毎週日曜と金曜の10時に車が迎えに来て、14時半に送ってくれることになった。
 午前中は足腰のリハビリ、椅子に掛けてマツケン体操、ボールを使って手足の運動などを、昼食後はカラオケ、ピンポン、自転車のペダル踏みのような器具の利用などを楽しんでいる。利用者に対して、スタッフの人たちがとても親切にお世話をしてくれるのがありがたい。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

間借りできます

2020-07-05 17:12:44 | はがき随筆
 玄関の方からツバメの話し声が聞こえてきた。しばらく耳を澄ませてみることにした。
 「この物件、中古だけどなかなかいいわね。頑丈そうだし人間も優しそうだし」「だけどこの辺を縄張りにしているカラスがいて、しょっちゅうパトロールしているよ。巣作りの邪魔されないかな」「そう言えばヒナがかえってからカラスに襲われた夫婦がいるそうよ」「うーんやっぱりもう少し様子を見たほうがよさそうだ」「そうしましょ」
 ツバメの夫婦はそういうと、ぱっと飛び去った。え、ツバメの言葉が分かるのかって。そりゃもう長い付き合いだもの。
 宮崎市 福島洋一(65) 2020/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

無花果の木

2020-07-05 16:35:55 | はがき随筆
 季節はすごい。ただ一枚の如きが、時が来れば知らぬ間に、その木らしく整っていく。杉垣を塀に替えた後、広まった場所に植えた数種の果樹。粗雑な園芸屋さんで枯れ木を買わされたと思ったが、疑ってごめんなさい。無花果にたくさん葉が繁ってうれしいです。来年さ来年には実をつけるかしらん。さまざまなジャムを作ろうとワクワクします。昔は、母がよく無花果ジャム、夏ミカンの皮や蕗茎で砂糖菓子を作ってくれた。お焦げの匂い、もったり濃厚なおいしさ。その直伝は、今も私の滋養の源だ。無花果の木は、懐かしさをさらに濃くしてくれる。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載