はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

7年後の気掛かり

2020-07-15 20:14:06 | はがき随筆
 本紙日曜日に掲載されるクロスワードの第1000回を全問正解で達成したいと大それた夢を持っている。あと残り約370回、ざっと計算すると7年後になる。それまで寿命と能力に恵まれるかとても気掛かり。
 それよりもっと大きな気掛かりが有る。現在新聞各社では急速に新聞のデジタル化が進んでいる。7年後も果たして紙の新聞の早朝宅配が続いているだろうか。デジタル画面ではあのパズルの設問120余の答えを書いたり消したりができない。それはまあ諦めるとしても、深く考えて読むには紙の新聞も絶対必要だと痛切に思う。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2020/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

腹帯ふたたび

2020-07-15 20:00:30 | はがき随筆
 人類皆マスクの新時代。いまや思い思いの色柄マスクは当たり前になった。
 店頭からマスクが消えた頃、まだ多くの職場では白いマスク着用が主流だった。だが既に白いガーゼ地は手に入らず、嫁の腹帯で息子のマスクを作ることにした。
 以前嫁は、「もう子どもはふたりでいい」と言ってはいたが鶴亀や犬の刻印を見るとハサミを入れるのは後ろめたかった。二つの命を支えて守り、育んでくれた大切な岩田帯だ。嫁も複雑な思いがあったろう。
 今、腹帯は形を変えて再び息子家族を守ってくれている。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(63) 2020/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

月見草

2020-07-15 19:49:54 | はがき随筆
 月見草を探して野道を1時間位歩いた。だが、長い間ウオーキングをさぼっていたせいで時期を逸したようだ。花が終わり枯れ残っている状態のものばかりだった。残念な思いでなおも探していると、何と! 一つ小さな黄色い花があった。かわいい、ありがとうと思わず言った。
 故郷の家のそばに、今は廃線になったが線路があった。その両側に月見草がたくさん咲いていた。駅までその線路のわき道を通っていた。月見草を見ると、少女の頃の私が黄色い花の中を駅へと駆ける姿が思い浮かぶ。
 今日は、貴重な月見草に出会えて本当に良かった。
 宮崎市 堀柾子(75) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

往復はがき

2020-07-15 19:42:23 | はがき随筆
 ぱあちゃん元気にしてる。わたしはげんきだよ。コロナにまけないでね。小学2年の孫娘から往復はがきが届いた。母の日に、感無量。うれしくてありがたく、最高の幸せ。挿絵にはアルプスの少女ハイジのスカートの子。コロナのバイキンは、ピカチュウのとげに変身して棒でたたいてやっつける。「じょうずなえをありがとう。マスク、手あらい、うがいもきちんとしてね」。返信ハガキにしたためた。コロナへのやるせなさが無邪気に子ども心に伝わる。葉書の活躍が、宝のごとく思えた。パプリカのような深紅の太陽が山の端に隠れた。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

会いたい

2020-07-15 19:33:49 | はがき随筆
 5月で5歳になった、ひ孫の誕生祝は我が家で行うことにしていた。好物のサクランボも真っ赤に色づき待っていたが、鳥たちの餌になってしまった。
 ひらがなで「たんじょうびおめでとう」と手紙を出した。返事がきた。「ばあちゃんたんじようびおめでとう」とあった。私の誕生日は12月なのに……。
 お皿を洗う動画やテレビ電話で何度も会ったけど、会いたい。
 「パパのママと同じお医者さんになる」と言って、私の具合が悪い時は「体調どうですか」とおもちゃの聴診器をあててくれたが、最近では船長になるという。大分に住む彼女に会いたい。
 宮崎県日向市 榎田安恵(79) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

曽祖母の死

2020-07-15 19:18:46 | はがき随筆
 曽祖母は折り紙が得意で、老人ホームに入所していても千羽鶴を完成させるほどでした。ところが肺炎で入院となり日に日に容体は悪化していきます。「もってあと1日」と言われた時は家族一同ぼうぜんとなりました。主治医の先生、看護師さんの懸命な対応、周囲の励ましのおかげで持ち直し、3ヶ月も頑張ってくれました。
 ホームの部屋の片付けに行くと、日記を発見。毎日最後に「さみしいな」と書かれていました。涙がこみあげてきました。
 今、看護師への道を歩き始めた私を、曽祖母が応援してくれているように思います。
 熊本県八代市 中本歩花(18) 2020/7/11  毎日新聞鹿児島版掲載

これなあに

2020-07-15 19:03:51 | はがき随筆
 小学4年生になった孫が「じいちゃんキャベツある?」と言うので畑に取りに行く。
 夫の育てている野菜は青々と育ち、どれもみずみずしい。私はいたずら心を出し「ハーイ今から野菜の名前当てクイズよ」と言い、まず人参さん。「ハイッ」と元気な声。キュウリさん、レタスさんと読み上げて行くと、孫の首は傾くばかり。
 思えば、葉っぱや泥つきのままの野菜をあげたことはなく、いつもきれいに洗っていたなあと私も反省した。
 最後にトマトさんと言うと、「ハイッ」と喜びの声が畑中に響いた。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(72) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

やりがいを感じる時

2020-07-15 18:56:25 | はがき随筆
 今年の4月から看護助手として病院に勤務している。入院患者さんに、優しく几帳面な性格のAさんがいる。
 ある日、環境整備のためAさんのお部屋を訪れた。「Aさん、こんにちは。お部屋のお掃除をしに来ました。ベッド柵と床頭台を掃除してもいいですか」。Aさんは快く「うん、よろしく。ありがとう」と言ってくれた。掃除していると「こんなにきれいにしてくれるのはあなただけよ。ありがとう」と言葉をいただいた。リップサービスにしてもうれしい一言。「はい、済みました。また来ますね」。ルンルン気分で部屋を出た。
 熊本市中央区 大賀悠衣(18) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

面白てか時間

2020-07-15 18:49:04 | はがき随筆
 先日、関東に50年近く住む同級生より電話があった。
 「仕事で週3日出社、あとは家。息抜きの場にも行けず、うつうつとしている。かごっま弁で語りたか」と、さっそく「おやっとさあ」と応じる。
 久々に彼女からも面白いかごっま弁が飛び出すので、少々シャクに感じながらも他愛ないさえずりで小一時間。「鹿屋に帰ったごちゃ、わっぜ笑ろた!」と満足してくれた。
 昔と変わらない、でも私の数倍辛酸をなめた彼女である。故郷を思い出してくれてありがとう。図らずもコロナ禍がもたらしてくれた面白てか時間。
 鹿児島県鹿屋市 日高美代子(73) 2020/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載