はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

グローバル食材

2020-10-15 19:24:15 | はがき随筆
 甘辛く調理した小魚とアーモンドのパックを買う。猛暑で大汗をかくと、水分と同時にミネラルも失われる。補充には小魚が最適と何かで読んで。
 販売は仙台の会社。加工製造会社は愛媛県伊予市。ラベルの小魚の絵にはわざわざ国産と表示、アーモンドにはない。別の食品で米国産と見たのを思い出し、外国産と推定する。
 世界のどこで採れようと関係ない。きちんと管理した四国の会社の商品が東北の会社経由で熊本に並んだのか、なんて考えながら一つまみ口に放り込む。グローバル食材のミネラル分が体中に広がった、気がした。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2020/10/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ばあばですよ

2020-10-15 19:17:42 | はがき随筆
 車が家の前で止まった。助手席のトイプードル犬が伸び上がって吠える。「怪しい人じゃないよ、ばあばだよ」と娘。マスクにサングラス帽子では怪しく見えたようだ。「マロンちゃん初めまして。ばあばですよ、よろしくね」。助手席を追われたマロンちゃん、呼んでも知らんぷり。会うたびに呼びかけると振り向いてくれる。そんなある日、驚いたことに娘の家に行くと「いらっしゃい」とばかりに迎えてくれた。そして膝に飛び乗ってきたのです。「あら、ばあばを覚えてくれたのね」と、ふわふわした首元を思いっきりなでた。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

千曲川

2020-10-15 19:11:17 | はがき随筆
 私が毎日新聞はがき随筆のペングループに加わりずい分たつ。月間賞をいただいた「千曲川」で私のファンになってくださった、ある方からお話をきく機会があった。昨年の大水害で予期せぬ暴れ方をした千曲川。「千曲川」をハーモニカで吹くと、穏やかで女性らしいのに、突然「怒り川」となって死者まで出し、あれ以来吹けなくなったそうだ。
 私も「今さらながら『音楽は心を育てる』ですね」と応じた。その方は長年、はがき随筆を大事に読んでくださっているそうだ。心に感じたことを書く。「随筆」。情景は心を揺さぶる。
 宮崎市 田原雅子(86) 2020/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

里の秋

2020-10-15 19:02:35 | はがき随筆
 「静かな静かな」で始まる童謡『里の秋』。今でも秋が深まると、テレビやラジオから流れてくる。のどかな里山の景色や、郷愁を誘う谷内六郎の童画ふうな絵が目に浮かぶ。
 歌詞では、1.2番で山里の秋の夜に、いろり端の母子が父の笑顔を思い出している。3番は、椰子の島の南方から日本に向かう父の無事を祈っている。父はマグロかカツオ船の漁師なのだろうと、私は思っていた。
 この歌は敗戦で体や心に傷を負った引揚者を励ますために作られたことを、最近知った。ノスタルジーだけでは聞けない75年目の『里の秋』だ。
 鹿児島市 高橋誠(69) 2020/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

エール

2020-10-15 10:20:05 | はがき随筆
 チラシに飲料水のケース売りが激安で載っていた。杖をつき義足歩行の私は、実家の父に頼んで店に向かう。途中、車の中で高価な健康器具を買ったと聞き父と口げんかした。当てにしていた父は車から降りずにいた。
 店内で箱が重くカートに乗せるのに困っていると、近くにいたおじさんが乗せてくれ助かった。会計を済ませ外に出ると、今度は、娘さんが駆け寄ってきて「母から言われたので、一緒に車まで行きます」と心優しい言葉に感動しつつ、母娘に深く感謝した。
 父への腹立たしさも消え、すがすがしい気持ちになった。
 宮崎県串間市 林和江(64) 2020/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

やっせんぼ

2020-10-15 10:13:45 | はがき随筆
 薩摩弁で小心者、臆病者のことを「やっせんぼ」といいます。小学校時代は跳び箱は大きな山に見えて、箱の前で足がすくみます。万事この様子でした。
 近ごろは行きつけの病院でも診察直前は脈が早打ちします。これが心臓の検査ともなると、動悸を抑える薬を飲まないと検査ができない有り様です。
 いま台風10号が猛烈な勢いで上陸を狙っています。三方が畑に囲まれた我が家は台風の格好の餌食です。家の安全、はては命があるだろうかと胃が痛くなります。やっせんぼの私は、台風よ、はるか洋上を通過してくれと祈るのみです。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(78) 2020/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

川の鯉

2020-10-15 10:05:55 | はがき随筆
 「奥さん、川に大きい鯉がたくさんいるよ」と知らない人が言う。「奥さんは幸せだな。長生きするよ」とも。釣れるかと問うが、五ヶ瀬川から綱之瀬川に入る鯉はたくさんいても、そう簡単には釣れない。
 昔、祖母が「一日一寸、10日で尺の鯉が釣れると上々」と語った。つまり気長に待つとのこと。
 五ヶ瀬川は大河だ。鮎、鯉、蟹、ヤマメなど多くの生物を育み、人々に大きな恵みを与えた。私が来て70年。山と川には恩恵も頂き、離れては暮らせない。
 初夏にはネムの花が笑み、今は山栗がたわわに実っている。みんな私の財産である。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(93) 2020/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

猛暑の中へ

2020-10-15 09:58:52 | はがき随筆
 「あさって退院にしましょうか」と主治医の先生は静かにおっしゃった。
 16日間の入院は緊張感が強く、退院まぎわになってやっと病棟の一日のリズムが見えてきた。先生は回診の時、笑顔になるような事をさらっと言ってくださり本気でやる気が出る。体だけでなく心まで幸せにしていただくお医者様ってすばらしいと、今更のように尊敬が増す。分刻みに多忙なスタッフの皆さんはコロナの影響で仕事が倍増しご苦労が胸にしみる。
 大きな組織の中で働く方々にどうぞお身体を大切にと叫びたい。たくさんのありがとうも。
 熊本市東区 黒田あや子(88) 2020/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載