月間賞に野見山さん(熊本)
佳作は永井さん(宮崎)、北窓さん(熊本)、堀苑さん(鹿児島)
はがき随筆9月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】20日「手を握る」野見山沙那=熊本市東区
【佳作】5日「精霊様トンボ」永井ミツ子=宮崎県日南市
△19日「台風一過」北窓和代=熊本県阿蘇市
△22日「千年菓子」堀苑美代子=鹿児島県日置市
「手を握る」は、医療現場の一角を鋭く切り取り、そこで向き合い受け止めなければならない課題の重さを、的確に表現してあります。その人の手を握ることによって、たとえひと時であっても、看護する者との間に通ったであろう安らぎが、読む私たちにもしみわたります。作者のしなやかな思考とこまやかな感性そのままの文体が好ましい。
「精霊様トンボ」は、盆の時期に数を増す精霊トンボに触発された回想。薄い赤味を帯びた黄色のトンボははかなげで、子どもなどが追い回しても、人の近くを離れず飛び回ります。亡き人の霊を乗せて来ると信じられた理由もよく分かります。子どもの頃竹ボウキで追いかける作者をきまっていさめた祖父は、末の息子を戦地で亡くしていました。当時はよく理解していなかったとあります。しかし、祖父の悲哀は孫の心の深いところに届いていた、読む者にははっきり分かります。
「台風一過」には、久しぶりに再会した自転車通勤の折の目に入る田、河川、道路、空をいろどる景色が、まるで銀輪の回転のように軽快な文体で描かれています。甚大な被害が予想された第10号の過ぎた後だったのでしょう。幸いにさほどのこともなかった安堵感のなかで、木々の枝が飛ばされているのを、自然の調和の力として見るところにも共感を覚えます。
「千年菓子」は、東京の孫娘から届いた「からくだもの」の話題。遣唐使が伝えたとして京都の菓子屋で製造しているようです。食卓に置いて愛らしい巾着状の形をまず愛でて、ついで口に入れると、ほのかに溶けて甘かったとのこと。香りは? 米粉に7種の香を練りこみ、木の実や自然の甘味料を加えてごま油で揚げてあると説明して、読者の想像にゆだねたのでしょう。1000年の時間を封じ込めて、古雅な1篇です。
熊本大名誉教授 森 正人