はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

日課のブログ15年目

2020-10-18 19:57:05 | はがき随筆
 ブログを初めて15年目に入った。4年目からはほぼ一日も休まず続けられている。体調に波はあっても書き終えると「今日も元気に過ごせた」。いつからか健康のバロメーターになった。新型コロナウイルス禍ではとりわけ強く感じる。
 肩に力を入れないことが長続きする。そう思って日々のことを飾らずに書いている。他の人のブログも訪問する。驚きや発見があり、いろんな意見や提言に接して視野も広がる。
 1年ごとを区切りに投稿を手作り本にして残すことも楽しんでいる。1年分を印刷すると500㌻ほどになる。その紙を知人が設計、製作してくれた「製本機」と呼んでいる木製の枠にはめる。そして背表紙を貼るなどして丁寧に仕上げる。これまでの14冊を並べると、分身が整列しているように感じる。
 今月末で80歳になる。まだ若いという先輩の励ましを甘受し、15冊目に向けて日々のことをつれづれに書き留めておこう。今日もパソコンを開く。
 山口県岩国市 片山清勝(79)
画像はブログより


気遣い

2020-10-18 19:50:50 | はがき随筆
 雨の裏通り。道幅いっぱいの宅配車が向こうから来る。傘をたたみ、軒下を借りて通過を待ちながら、見るともなしに運転席を見ていた。車が私の前を通過するとき、少し速度を落とし、運転手が軽く頭を下げた。私はあわてて会釈を返した。
 自分の安全のため避けたのだが運転する方は自車の通過のためによけてくれた、そう思う気持ちがお礼の仕草になったのだろう。
 自身への気遣いが、相手にいい印象として受け取られた。ちょっとした心がけがまーるい社会に通じるのか、なにか明るい、妙にうれしい気持ちになった。
 山口県岩国市 片山清勝(79) 毎日新聞山口版掲載

はがき随筆9月度

2020-10-18 19:16:10 | はがき随筆
月間賞に野見山さん(熊本)
佳作は永井さん(宮崎)、北窓さん(熊本)、堀苑さん(鹿児島)

はがき随筆9月度の受賞者は次の皆さんでした。

【月間賞】20日「手を握る」野見山沙那=熊本市東区
【佳作】5日「精霊様トンボ」永井ミツ子=宮崎県日南市
△19日「台風一過」北窓和代=熊本県阿蘇市
△22日「千年菓子」堀苑美代子=鹿児島県日置市

 「手を握る」は、医療現場の一角を鋭く切り取り、そこで向き合い受け止めなければならない課題の重さを、的確に表現してあります。その人の手を握ることによって、たとえひと時であっても、看護する者との間に通ったであろう安らぎが、読む私たちにもしみわたります。作者のしなやかな思考とこまやかな感性そのままの文体が好ましい。
 「精霊様トンボ」は、盆の時期に数を増す精霊トンボに触発された回想。薄い赤味を帯びた黄色のトンボははかなげで、子どもなどが追い回しても、人の近くを離れず飛び回ります。亡き人の霊を乗せて来ると信じられた理由もよく分かります。子どもの頃竹ボウキで追いかける作者をきまっていさめた祖父は、末の息子を戦地で亡くしていました。当時はよく理解していなかったとあります。しかし、祖父の悲哀は孫の心の深いところに届いていた、読む者にははっきり分かります。
 「台風一過」には、久しぶりに再会した自転車通勤の折の目に入る田、河川、道路、空をいろどる景色が、まるで銀輪の回転のように軽快な文体で描かれています。甚大な被害が予想された第10号の過ぎた後だったのでしょう。幸いにさほどのこともなかった安堵感のなかで、木々の枝が飛ばされているのを、自然の調和の力として見るところにも共感を覚えます。
 「千年菓子」は、東京の孫娘から届いた「からくだもの」の話題。遣唐使が伝えたとして京都の菓子屋で製造しているようです。食卓に置いて愛らしい巾着状の形をまず愛でて、ついで口に入れると、ほのかに溶けて甘かったとのこと。香りは? 米粉に7種の香を練りこみ、木の実や自然の甘味料を加えてごま油で揚げてあると説明して、読者の想像にゆだねたのでしょう。1000年の時間を封じ込めて、古雅な1篇です。
 熊本大名誉教授 森 正人



独り言

2020-10-18 19:09:00 | はがき随筆
 昔から10年ひと節と言われていたことを思い出し妙に最近気になり出した。どうしてかと言えば10年の間に仲良しの友達が次々と星のように消えていった。なんとも言えない寂しさを感じる。竹藪の竹の一節をしみじみと眺めてみる。節から芽が出る。節は大事なものと思いながら、納得いかないものが交差する。人生を一口で言った人は偉いなあと感心する。芽が出て花が咲き次の世代を作る大自然の摂理の偉大さ。頭の上で蝉が1週間の命に挑戦して鳴き続けている。コロナウイルス感染は目に見えない自然の禊かもしれないと思う。
 熊本県八代市 相場和子(93) 2020/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

長い巣ごもり

2020-10-18 19:01:11 | はがき随筆
 自粛生活に入り時間に余裕ができた。それまで目をつぶってきた片付け、庭の手入れ、衣類の手直し等々、捨てたり繕ったりと家事の合間に忙しい日々を過ごした。片付くたびに「これもできた」と一人ご満悦。友人のお誘いもお断り。家族の意向もあり、板挟み状態で二の足を踏む。最近は長い巣ごもりにも飽きてきた。外は秋。ジム仲間を思い、以前の生活がいかにありがたかったか、人との関わりの大切さ、癒されてきたのかを痛いほど知った。皆に会いたくてぼつぼつ巣穴から顔を出したくなった私だった。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(70) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

存在感

2020-10-18 18:53:20 | はがき随筆
 小丸橋を渡り海方向に堤防を歩く。ここは遮るものがなく、空が大きく広がって心地いい。振り返ると、夕焼け空に飛行機雲が出ていて白線が美しい。
 と、軽トラが来るのが見えた。道の端によけた。ところが車も私のすぐ横に止まり、「存在感があるなあ」とひと言。全く知らない小柄なじいさん。「え、ああ、私、太ってますもんね」と運転手を見ると、幅を測るよう両手を広げた後、走り去った。
 存在感? どういう意味? この場合は太すぎるってこと? 余計なことじゃ、とつぶやいたものの、何だかおかしかった。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(71) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

ドライアイ

2020-10-18 18:45:56 | はがき随筆
 小文字を追い、数字を読み取り、電卓を打つ。目を使う仕事で、両目の視力に極端に差がでて検査した。緑内障ではなかったが、ドライアイ。そういえば目が痛い。パソコンに集中し、時を忘れ、テレビ・読書などでも目を酷使。現代人だなぁ。この歳で、パソコンなんて利器を使うのも大変です。後少し……後少し、仕事を辞めれば全て終わると呪文をかけ、愚痴と目薬、ブルーベリーの錠剤で補う気力。が、ドライアイは治るだろうか。最後にやりたいのは、畑と庭仕事、自然の中で自然に拠った生活なのだが。しかし、パソコンも手放せそうにない。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

定期便

2020-10-18 17:09:51 | はがき随筆
 片言を話せる頃から末孫が毎朝、電話をくれるようになった。聞き取ることは分かるらしく、うなずく仕草をしているらしい。私は片言が分からず妻に電話を渡す。そのせいか、年長になった孫は妻に電話をする。毎回「おはよう! ばあばは元気ですか。僕はいつも元気だよ」から始まる。東京の天気、温度を教え、遠い鹿児島との違いを確認する。「いま何時?」と時間を聞くが、東京と同じであることが気になるらしい。そんなやり取りを見ている私の顔はニコニコマークだが、いつまで電話くれるやら。先のことは考えず、今は定期便を楽しもう。
 鹿児島県出水市 宮路量温(74) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

自問自答

2020-10-18 17:02:20 | はがき随筆
 義父が101歳で亡くなった。新型コロナの影響を考慮して、夫は神奈川の弟と沖縄の次男には帰省させなかった。
 初盆は玄関に消毒液を置き、無粋な紙コップで茶を出した。食事も紙皿、割り箸を用意した。
 2人には初盆の帰省も諦めさせた。義父の大往生をお祝いの気持ちでおくろうと決めていたのに、コロナがつきまとい、水をさされた思いを抱いた。
 夫の死の際、息子に「帰ってくるな」と言えるだろうか。夫は私の時、今回同様の苦渋の決断を下せるのかと自問自答している。終息が待ち遠しい。皆の顔がそろって一年忌を迎えたい。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(66) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

目標

2020-10-18 15:16:20 | はがき随筆
 「笑ってる。かわいい」。高校3年の春、手術室へ向かうベッドの上で看護師さんに言われた言葉です。虫垂炎の再発による突然の手術で不安を隠すための笑顔でした。看護師のその一言で安心の笑顔へと変わりました。先生も看護師さんもずっと笑顔で励まし、不安を取り除き、勇気を与えてくれました。体と心が救われました。
 それから1年。先生、看護師さんは私のヒーローです。ついに私の目標となり、この春、看護学生となりました。
 今度は私がみんなのヒーローになりたいと歩き始めたところです。
 熊本市東区 丸田流月(18) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

トンボ

2020-10-18 15:10:00 | はがき随筆
 気象庁がレベル4と予報した台風10号。9月5日の夕方、避難した家にトンボが飛び込んできた。明日からあさってにかけて超大型の台風が来る。トンボを捕獲して、段ボール箱に入れた。「台風の避難と思って我慢しておくれ」とトンボに言い聞かせた。
 7日の朝に、台風は何事もなく過ぎ去った。捕獲していたトンボを解き放つと元気よく飛び出した。家の周りを飛び交う仲間が祝福するかのように舞っていた。
 その後は鈴虫も鳴いて、台風疲れの心を癒してくれて、焼酎で乾杯。
 鹿児島県出水市 道田道範(71) 2020/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載