はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ホッコリ張り紙

2020-10-26 20:24:20 | はがき随筆
 医者とは無縁の私もついに眼科にお世話になることになった。原因は分かっている。孫とのスマホゲーム対抗意識。闘争心がまだ残っていたとは。孫はまだ6歳、ババは74歳。視力が落ちたと感じたのは孫にも悪影響。ここらでババ降参しよう。
 病院はソーシャルディスタンスで会話も控え気味。会計窓口の壁に面白い張り紙を見つけた。「紙をなめた後にお札を数えて渡さないで下さい」とある。ホッコリして少し田舎を感じた。そういえば昔、父がごっつい指でつばをふき、お金を数えていたな。まだ他に面白い張り紙はないのかな。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(74) 2020/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載

再会

2020-10-26 20:18:01 | はがき随筆
 中学校の同級生から電話があった。私は延岡を離れていた時期が長く、彼女との交流も途絶えていた。そんな中、私の書いたはがき随筆が目に留まり連絡してくれたとのこと。すぐにでも会いたいと思った。約束の日、待ってる一分一秒がドキドキして落ち着かない。指折れば三十数年ぶりの再会である。
 そして遂に会えた。心に残っている彼女の変わらぬ笑顔に空白の時間はふっ飛んだ。当時の名前で呼び合うと時代は一気に昭和へとワープした。かつてのおさげ髪も今や77歳。青春を共有したまま健康で再会できたことに心から感謝している。
 宮崎県延岡市 橋本京子(77) 2020/10/25 毎日新聞鹿児島版掲載

迷信…?

2020-10-26 20:09:15 | はがき随筆
 隣家の前を通る度にドキドキする。生垣に植えられた生姜が全部消えたのだ。「無料のお裾分けが原因かな」。頂いた方の私の生姜は元気だ。10年ほど前の出来事を思い出した。「昔は、種を無料であげたら、あげた方が絶えると言ったんだ」。結局、小粒の蚕豆のお礼にと10円頂いて、その場は収まった。
 こんな事もあった。妻がきれいな野バラを道路脇から採取して庭に植えた。その冬、工事で道路わきの野バラは絶えたのだ。
 もやもやしたままの1カ月。秋彼岸の日、隣家の生姜が一本、頼りなさげに伸びていた。
 夏旱迷信に耐え種を残す
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(64) 2020/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

笑顔をありがとう

2020-10-26 20:01:56 | はがき随筆
 髪をいじるのが好きな私は、美容室行きが困難になった母、私の姉、待つのが嫌いな夫と計3人の理容師となった。
 母の5歳年上の伯母は、急な訪問にもパーマをあて、いつも小ぎれいにしていた。お肌の手入れも毎日するという伯母で、我が家に泊まった時もお手入れはしっかりしていた。
 伯母が美容室に行けなくなったらしい。「行こうか」。母はうなずいた。即宮崎へ。伯母はカットが終わると鏡を見て「ありがとう」。うれしそうだった。
 しばらくして、帰らぬ人に。「らくちゃんの髪で母さん逝ったよ」。いとこは涙だった。
 宮崎県串間市 安山らく(69) 2020/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

住めば都

2020-10-26 19:53:42 | はがき随筆
 小学6年になる時、父が鹿児島に転勤になった。友人と離れるのもつらいし、6年生という微妙な時期の転校に私の心は暗くなった。友人ができるかどうかという不安が顔に出ていたのか、母は「住めば都になるから」と励ましてくれた。最初はその言葉に半信半疑だった。
 思い出は通学路とともにできた。寒暑に耐え中学、高校と自転車通学をした。雨の日も雪の日も友達と一緒だから耐えられ楽しい思い出となった。思い出が積み重なることで不便で味気ないと思っていた土地に愛着を感じるようになった。私はようやく母の言葉を理解した。
 熊本市東区 松本華奈(19) 2020/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

かく病みたい

2020-10-26 19:46:07 | はがき随筆
 米寿を過ぎた男性が肺を患って入院した。二十数年来の付き合いで、気になってお見舞いに行った。体には酸素マスクをはじめ何本もの管がつけられていた。予告なしに訪ねたので彼は驚いた。「生きるのも大変だが、病むのも大変ですね」と話かけると、彼は「お浄土へ生まれる陣痛の苦しみです。あとひと踏ん張りです」とほほ笑んだ。最後に「すべてお任せです」と言って合掌した。「どうよく病むか」「どうよく死ぬか」などと説法するが、心底納得できるのは難しい。彼としかできない会話だったが、自分もかく病みたいと思って病室を後にした。
 鹿児島県志布志市 一木法明(85) 2020/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

写真家の友

2020-10-26 19:38:14 | はがき随筆
 熊本在住の親友から写真が送られてきた。A4の用紙に満天の星空だ。ひときわ大きく輝くのは木星。天の川はピンクの光彩を放っている。熊本県小国町の亀石峠で撮影したとか。
 彼女とは竹馬の友。小さい頃縄跳びや缶蹴りをして遊んだ。少々変わった少女であったが、大人になってからそれは鋭い感性に変貌したのだった。そのことが写真家としての才能だと、後年気付かされた。
 撮影の指導の傍ら、自ら四輪駆動車を運転し野外に出掛ける。宮崎県の五ヶ瀬川ハイランドスキー場も美しい星空のメッカだと、彼女は教えてくれた。
 宮崎県延岡市 源島啓子(72) 2020/10/24

彼岸花

2020-10-26 19:25:50 | はがき随筆
 いつもの場所に彼岸花発見。自然とはなんと素晴らしいのかとあらためて感動してしまう。
 37度超えの猛暑の今年の夏もお見通しだったのか彼岸花。季節の花、とりわけ彼岸花には郷愁を感じこころの花になる。田んぼのあぜ道に燃えるような真っ赤な大きな花。もぐら対策と聞いた気がする。納得。見事に伸びた茎にまぁるい赤い花は秋にピッタリの広告塔だ。花の集合体、それは棚田の演出家となりにぎやかにおおいに喋る。
 最近はあちこちで、かかし祭がある。黄金色の田んぼにかかし。彼岸花との組み合わせは最高!
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

「コロナ」のバス

2020-10-26 19:17:49 | はがき随筆
 やっと収束の域が近づいたコロナ禍だが、トヨタが1957(昭和32)年発売した乗用車にコロナと命名、ロングセラー車となったのは、古いモーターファンには懐かしい。
 しかし、ライバルの日産が4年先立つ53年、この名を付けた中型ガソリンバスを発売したのはほとんど知られていない。ディーゼルバスが普及し始めたころで、熊本県下では電鉄バスが市内線に1台採用しただけ。全国的にも少数派だった。全体に丸みを帯びた優美なスタイル。10年ほど前に出した本に1枚だけ残るモノクロ写真で、あらためて半世紀以上昔をしのぶ。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2020/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載