はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

昼寝

2020-10-15 21:52:28 | はがき随筆
 家に居る時、午後になるとほとんど毎日、1時間ほど昼寝をする。訪問客があれば家内が応対するので安心して眠っていたが、家内が亡くなってのんきに昼寝ができない。電話の子機を枕元に置いて寝ていたら、ある日、呼び鈴がピンポーンと鳴った。起きて出ると、老人会の会費徴収だった。別の日に電話がなったので子機を耳に当てたら、小声で訳の分からぬことをしゃべって「賛成ならば1を反対ならば2……」。私はスイッチを切った。それ以外は3時ごろまでまったく呼び鈴も電話もかからない。横着を決め込み、のんびりと昼寝をむさぼっている。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2020/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載

同居

2020-10-15 21:46:14 | はがき随筆
 マンションに1人住まいの長男が「金欠で賃貸にしないとならない」。大量の本や衣類、布団とともに転がり込んできた。
 2人の息子たちと暮らした年数より夫婦だけの生活が長くなるにつれガラクタが増えていった。処分品が山ほど。荷物入れにたいへんな思いをした。
 突然の同居で面食らったが3人の方が会話が弾み、活気づく。体力、気力が衰えた今は一人でも多い方が心強いと夫も言う。親子でもめたりはするが、心がしぼみそうなときに適切な言葉がけをしてくれる。牧師歴20年以上のなれる技と感謝する。夫とのいがみ合いも減った。
 鹿児島市 馬渡浩子(72) 2020/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載

お墓参り

2020-10-15 21:13:48 | はがき随筆
 お彼岸の一日、Hさんご夫妻と叔母の墓参に出掛けた。叔母は結婚僅か7カ月で軍医のご主人が南方洋上で戦死した。その後叔母は一念発起して女医として自立の道を歩んだのだが、子供に恵まれなかった。
 Hさんは叔母が小児科病院を開業していた時の婦長さんである。叔母が高齢となり、閉院の後も残務処理、身の回りの世話まで細々と面倒をみておられた。そのうえ叔母の死後も命日は、盆、彼岸とお参りを欠かされないご様子。ただただ感謝である。妻子も及ばぬ優しい気配り。叔母はこの上ない出逢いに恵まれたと思うことである。
 宮崎市 松尾順子(89) 2020/10/13 毎日新聞鹿児島版掲載

名月に憶う

2020-10-15 21:06:03 | はがき随筆
 月が美しい季節になった。「月々に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月」と故人も名月を讃えた。その月を眺めて、1969年アポロ11号で月面着陸したアームストロング船長とオルドリン飛行士の快挙に感動した記憶が蘇った。感動はしたものの幼い頃祖母と「まんまいさん」と手を合わせた月に、人類が足跡をつけてしまったかと妙な感慨を覚えたのも事実だった。コラムニストの故山本夏彦氏が「何用あって月世界へ? 月は眺めるものである」と言ったというが月に燃料工場建設計画などと聞くと、そつとしておいてほしいような気がしてくる。
 熊本市中央区 渡邊布威(82) 2020/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2020-10-15 20:59:37 | はがき随筆
 米寿超え 報恩感謝
 胸に秘め ごて(五体)
 鞭打って 実り求めん
 お蔭さまで9月、88歳。戦中戦後、昭和平成令和へと。ご先祖さま両親亡妻子孫、姉妹弟、多くの周りの方々。伏してお礼申し上げます。
 あとしばらくは足腰をいたわりつつ今の幸せをかみしめながら静かに日々を送ります。
 長男、良き嫁一家も、世のため人のため微力を尽くしてくれると思います。皆さま方もどうぞ卒寿を通過点として、つつがなくご長寿あらんことを祈ります。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(88) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ミシン

2020-10-15 20:52:52 | はがき随筆
 シャカシャカシャカ。新しいミシンは縫い目正しく布を送る。つっかえひっかえするミシンに、5年も前からためらっていた。あと何年使うだろうかと。
 母が施設に入所した作秋、ミシンを譲り受けたいと探したが、処分したのだろうか、見つからなかった。昔から何でも手作りする母だったので、それは老いの急降下を物語るようで寂しかった。ミシンは母の大事な一つと思っていたから。
 私がミシンを買ったのは、忍び寄る自身の老いへの抵抗だったかもしれない。心地よいリズムとスピードに、小窓のカーテンを一気に縫い上げた。
 宮崎県日南市 矢野博子(70) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ママは悪い人

2020-10-15 20:46:27 | はがき随筆
 「ママおくつ並べなさい」。5歳の娘に言われてしまった。1歳になる息子を抱っこし、左手には買い物袋をぶらさげていたのだ。「後で並べるから。ごめんなさい」と言うと「ダメねママは悪い人だ」ときついおことば。
 まだまだ赤ちゃんだと思っていた娘に叱られるとは。
 その日以来、娘の前ではきちんと靴を並べるよう心がけている。言葉遣いにも気をつけている。子供の成長は大人が思っている以上に早く、一日一日が大切だと感じた。娘から「ママ育て」されるのが複雑な気持ちだ。
 熊本市東区 長野美砂(27) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

復活への一歩

2020-10-15 20:36:11 | はがき随筆
 新聞紙上に活気が。明るい話題をありがとう。彼女こそ国民的ヒロインです。スポーツ選手のけがとは違い、白血病との闘いから1年7カ月、懸命にはい上がってきた。正直、女性は強いと感じます。
 感動をありがとう。20歳の池江璃花子選手。第二の水泳人生スタートです。
 世界の水泳仲間をはじめとして人々に勇気と希望を与えた。東京2020からコロナ禍へと先が見えたようで見えない中、4年後のパリ五輪が目標と、スポーツの持つ力は夢です。
 アスリート魂に応援を送りたい。復活への光明を願う。
 鹿児島県伊佐市 坂元佐津夫(68) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

20グラムの塩

2020-10-15 20:27:49 | はがき随筆
 ある朝、台所の出窓に置く小さなはかりに塩20㌘が載っているのに気がついた。あれ、この塩はなーんだ。きちょうめんに20㌘量ったのは何のため?
 手がかりを求めて冷蔵庫をのぞき、献立を振り返り、家計簿まで開いてみる。分からない。
 南の窓から私のお勝手仕事を鼓舞してくれるヒメシャラの木立を仰ぐ。知らないかい?
 目を閉じ、そして浮かんだのは故郷からのスイートコーン。「ゆでる時はね、塩、少々」の助言があった。きっとそれ。あの日から数日が過ぎている。「ふふっ、忘れんぼさん」と故郷の誰かの声がしたような。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(75) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

息子からの電話

2020-10-15 20:21:10 | はがき随筆
 日曜日朝、仏壇へお供え中、ブルン、ブルンと身震いする信号音に慌ててスマホを耳に当てる。「おはよう、写ってるだろう。俺、俺、今日はお母さんの命日だったね」と息子からの突然の電話。「何、何、何が写っているんだ」と問い返す。「スマホの写真だよ」「お父さん少し太り気味。お変わりありませんか」と息子に嫁の声が加わる。「ありがとう、コロナで運動不足かな、元気だよ。慣れないスマホで慌てたよ。間もなくお寺さんがお出でになるところだ」とのやり取り。TV電話など茶目っ気も母親にそっくり。嬉しい息子からの電話だった。
 熊本市中央区 木村寿昭(87) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

バス停にベンチ

2020-10-15 20:00:09 | はがき随筆
 我が家の庭の前に市内循環バス停が都合により移動してきた。循環を利用するのはお年寄りが多い。特に腰の曲がった老婦人の姿を目にすると、我が家の縁側にでも腰を掛けていただこうという気になるが、そうもいかない。そこで市役所に電話してみた。それから4日ほどたったら、少し離れたところにベンチが設置されていたのだ。
 20年以上も前の話になるが、関東に住んでいたころ、松戸市役所の「すぐやる課」が話題になったことがあるが、それを思い出した。利用者の状況報告と、西之表市役所の素早い対応にお礼の電話をした。
 鹿児島県西之表 武田静瞭(84) 2020/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

画像は、タネガシマ発-ネタガマシ日記
より

忘れ得ぬこと

2020-10-15 19:54:10 | はがき随筆
 人生には誰でも幾つかの忘れられないことがあるでしょう。
 あれは私が小学5年生の頃。生真面目で働き者だった、七つ年上の兄さんがある日突然行方不明になったのでした。
 母親に「お前は遠くの道を見とけ」と言われ、下校後、雨でかすんだ遠くを必死に見ていた記憶があります。当時田舎の我が家は遠くの方が見渡せる高台にありました。
 そして兄さんは3日目の昼間、サツマイモ小屋にいて、やつれた顔に僕は心臓が止まるほどでした。理由は母の使いで印鑑をなくしたから……。お騒がせなこと。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2020/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載

正代関ありがとう

2020-10-15 19:46:53 | はがき随筆
 令和2年9月27日大相撲秋場所、宇土市出身の正代が優勝した。千秋楽のその時、私はどきどきでテレビを見ることができなかった。夫の「勝ったよ!」の声でテレビに近づいた。
 と、同時に電話のベルの音。「ありがとう。優勝したよ」。こちらから発した。次々にメールが入る。私の息子ではないんだけど……と思いつつみんなにお礼を言う。
 熊本は地震、水害と続いており「おめでとう」という言葉から遠ざかっていた近年である。翌日、友人から赤飯を炊いたから取りにおいでと連絡あり。みんなうれしいのだ。
 熊本県宇土市 岩本俊子(71) 2020/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載

家路

2020-10-15 19:40:03 | はがき随筆
 この夏のある日のこと。いつもの脳外科へと思ったが、もう時間がないので新しいところへ。「予約ありますか」「いいえ」「あいにく午後休診です」。いつものところへ車を拾って、⏤⏤無駄なことをした。それに100㍍以上を今年一気に歩いていないので、不安が立ちこめた。渡ってまっすぐ行って……頭に描き、ああ、後ろへかえる方が車を拾うにもバスにもよかったのに。どこでもいつでも車を拾えると思ったが、電車通りの歩道側レーンは車が来ない。5時からのバスレーンだと気づき、次へガンバッタ。病身のときの耐久。
 鹿児島市 東郷久子(86) 2020/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載

地球の航行

2020-10-15 19:31:30 | はがき随筆
 「最大限の警戒」が呼び掛けられた台風10号に対し、現代の科学をもって勢力を弱体化できぬものかという話題になった。地球が致命的打撃を受けるくらいのエネルギーが必要らしい。
 彼岸を過ぎ、気温が落ち着いて海水温も低下した。朝夕は寒ささえ感じる季節になった。
 地球の公転による季節の変化である。とりあえず、恐怖の猛暑や破壊的なエネルギーを持つ台風襲来の心配はなくなった。
 ちっぽけな人間は公転速度を感じないが、地球などひとたまりもない神秘で巨大なエネルギーに操られながら、ゆっくりと航行しているのだろう。
 宮崎市 杉田茂延(68) 2020/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載