はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

母娘のジョイ・タイム

2007-07-23 17:48:46 | 女の気持ち/男の気持ち
 布ぞうり作りが楽しくて仕方がない。1作目は3歳半の孫娘に、キティちゃんの模様入りでこしらえた。ご機嫌をとって履かせたが、「バアバ、ナーちゃん、いや、履きたくない」とあっさりと断られた。
 次の作品は左右不ぞろいで、思わずふきだしてしまったが、母へのプレゼントにした。
 「あら、いいねえ。私も作れないかなあ」と首をかしげて見入っている。
 記憶を捨て始めている89歳の母が久しぶりに興味を示し、教えて欲しいと言い出した。
 そこで編みひもをミシンで縫ってもらった。調子よく縫い上げていく。
 「お母さん、すごいね。上手上手」
 「8歳の時からミシンを使っているのよ。まだまだ大丈夫ね」
 母はがぜん生き生きとしてきて若返った感じだ。
 ぞうり作りをエンジョイするひとときを、母と私のジョイ・タイムと名付けよう。次はどんな配色にしようか。誰にあげようか。私の心もときめく。
 縫う速度も自在に調節して、母はすこぶる会長だ。しばらくしてミシンの音が止まった。
 「由井ちゃん、全部塗ったよ。ところでこれは何になるの?」
 母の顔に童女の笑いがはじける。
  鹿児島県阿久根市 別枝由井(65)
  2007/7/23 毎日新聞鹿児島県版「女の気持ち」掲載

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