はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆 8月度

2014-09-24 15:32:42 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】9日「愛妻」森園愛吉(93)=鹿屋市寿
【佳 作】1日「白映え」伊地知咲子(77)=鹿屋市打馬
     14日「またもぶざま」馬渡浩子(66)=鹿児島市慈眼寺町


 愛妻 哀切さを極めた文章です。生きていること自体が業苦だと言ったのは、確か釈迦だったと思いますが、その言葉の真意を実感させられます。半身不随のまま26年の闘病生活をなさっている奥様も大変でしょうし、その間看病され、今や薄れ行く意識の奥さまを見守るご主人の心情も推察するに余りあります。
 白映え お母様が、実家の「生まれた、生きた、死んだ」と刻まれた墓石のある墓地を知人に譲られた。その処置の仕方と墓碑銘の潔さ。一方、お母様は名前と没年と年齢だけで、何も主張しない墓石の下に永眠されている。それもまた潔い。白映えの題名が季節感を表すとともに、美しい内容を引き立てています。
 またもぶざま 日ごろ省エネを心がけているのに、なにもかもつけっぱなしで眠ってしまっていた。改めて家中の電気を消して、暗闇の中でも大丈夫と、2階の寝室へ行くつもりが、玄関の土間に転がり落ちていた。文章には自己戯画化という方法があり、おかしみなどの一定の効果を上げるものです。うまくいきました。
この他に3編を紹介します。
 松尾繁さんの「ある記憶より」は、背戦中戦後の台湾での記憶です。子どもたちが台湾の子どもをいじめていたが、戦後は仕返しをされることもなかった。かつての国家の行った植民地政策が、今私たち個人の問題になっているという、吹く座作で微妙な問題を考えさせる文章です。
 田中健一郎さんの「子ほい話」は、昔は小泉八雲の怪談、大人が話してくれる怖い話、集落での肝試しなどが、子どもにとっての夏の夜の風物誌でした。科学技術の進歩とともに、夜が明るくなってしまい、幽霊の出る幕がなくなってしまいましたが、されがいいことかどうか。
 武田静瞭さんの「もう一人の私?」は、よく人違いされる話です。もしかして、もう一人の自分が出没しているのではないだろうか? ドッペルゲンガーを熱かったぽーの小説「ウィリアム・ウィルソン」は、お読みになりましたか。
  鹿児島大学名誉教授 石田 忠彦 2014/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載

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