はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「心騒ぐ季節」

2013-04-14 23:51:50 | 岩国エッセイサロンより
2013年4月14日 (日)

  岩国市  会 員   沖 義照

 春、新しい一歩を踏み出すニュースが多い中、新聞の4コマ漫画「アサッテ君」を読んだ。

 石川啄木の歌の一節をアサッテ君が口ずさみながら花束を抱えて会社から帰ってくるものであった。「友がみな 我よりえらく 見ゆる日よ 花を買い来て 妻としたしむ」と、歌集「一握の砂」の中の一首である。「きょう、人事の発表があったみたいね」と奥さんはアサッテ君に背を向けて軽く聞き流している。

 この歌は、啄木が上京し満24歳の時に謳ったもので、このころ新聞社で校正係として働いていた。中学時代の友人たちは、目的に向かって着実に歩んでいたが、啄木は志を得ない境遇にあった。そんなときに謳った歌である。

 サラリーマンにとっての春は心騒ぐときである。大きな人事異動があったり、昇進昇格が決まるときだ。私も捕らぬ狸の皮算用は何度となくやってみたが、どれも空振り。そんな日にゃあ、確かに友がみな我よりえらく見えた。「俺って、だめな奴だよな。いやいや、上も人を見る目がない奴ばかりだ」などとぼやきながら家路に着いたものだ。帰り道、花なんぞを買って帰るようなことはついぞ一度もなかったが、啄木と同じ思いをしたことは何度もあった。

 今となってはみんな過去の小さな出来事。誰かの歌じゃあないが「いいじゃないの今が良けりゃ」ということだろう。
  (2013.04.14 毎日新聞「男の気持ち」掲載)岩国エッセイサロンより転載

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2 コメント

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お礼 (ロードスター)
2013-04-16 11:56:44
いつも岩国エッセイサロン会員のものを転載していただきありがとうございます。お元気の様子なによりです。北九州には出かけられますか?
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ロードスターさま (アカショウビン)
2013-04-18 22:58:46
お久しぶりです。
ブログをいつも楽しみに読ませていただいてます。
北九州は…。
どうしようかなあと思案中です。

6月は亡夫の命日で、親族が集まるため、何かと気ぜわしく…。

事務局長時代は、亡夫のことは後回しで、グランプリ大会に参加しましたが、次第にしんどくなってきましたぁ。
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