はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

背中を押した春

2011-05-03 13:13:48 | 女の気持ち/男の気持ち
 今年でもう30年にもなる。
 「ダメヤッタ」と、高校の合格発表を見てきた息子が言った。万が一の望みを絶たれた息子に「どうする?」と問うと「予備校に行く」という。
 慌てて電話帳をめくり、黒崎の大学受験校に電話した。中学生はテストの結果で受け入れるので明日がテストの日ですと言われ、即申し込んだ。
 結果の報告に学校へ行くという息子を、私の前に座らせて、母親としての思いを話した。落ちたことはつらいし、悲しいし、少しは恥ずかしい気持ちもあると思う。でも、世間様に後ろ指をさされるようなことをしたわけではないのだから、ご近所の方には今まで通りに、元気にきちんとあいさつすることを約束してほしい。私も今までと同じ元気母さんでいるからと。そうすることで私自身の背中を「強くあれ」と押したのだ。
 学校から戻ってきた息子の顔は、すっきりしていた。先生に予備校のテストのことを伝え、友達とも話ができてよかったと話してくれた。
 息子と2人、予備校の玄関に立った日のことを、春がくるたびに思い出し、胸の奥が痛くなる。
  福岡県飯塚市 村瀬朱美 2011/4/29 毎日新聞の気持ち欄掲載

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