はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

辞典に咲いた花

2010-02-28 21:32:05 | 女の気持ち/男の気持ち
 その辞典のページをめくると、ところどころに朱色のボーダ-ラインが残っている。破れた部分をセロハンテープで補修したページもあり、使い込んだ長い歳月がしのばれる。
 国語、和英、漢和が一冊になったもので、戦後10年目に改版となり、学級に5冊ほど配給されたらしい。それをくじで引き当てた妻は、勉学に大いに役立ったと言っていた。部首索引が付いていて、I画から16画まで漢字の読みと意味が書いてあり、理解しやすかったとも。また字崩し一覧には楷書、行書、草書が記載されており、ペン習字や随筆、手紙書きに練習を重ねたという。
 結婚した時に妻が持ってきたその分厚い辞典はセピア色に変色してしまっている。
 彼女が黄泉の国へ旅立って13年。妻の形見は私にとって無くてはならないものとなった。ふっと寂しさが胸を吹き抜けるような日には、このセピア色の辞典を開いて、しばし妻の思い出に浸る。そうしていると次第に心が癒やされていくのが分かる。今やすっかり私の生涯の伴侶といった感じである。
 その辞典に花柄のカバーをつけてみた。すると、まるで机の上に花が咲いたように光り輝いて見える。
 「セピア色亡妻の形見にカバー掛け」
 この辞典は私の心にハチミツのような栄養を与えてくれる。ありがたい宝物である。
  熊本県荒尾市 石川 清治・80歳 
 2010/2/25 毎日新聞の気持ち欄掲載 

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