はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆 2月度

2013-03-13 21:51:17 | 受賞作品
 はがき随筆2月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】24日「恋文」井尻清子(63)=出水市
【佳作】21日「夢に見た帆船」鵜家育男(67)=鹿児島市
【佳作】23日「僕は野良猫」鳥取部京子(73)=肝付町

 恋文 亡き夫君への文字通りの恋文です。それも、なんの恥じらいもなく、というかあっけらかんとというか、これほど率直な恋情慕情愛情の吐露は、読む人の照れくささを吹き飛ばしてくれます。それにしても、人が人を死後までも恋い慕うというのはむしろ不思議な気もします。人間の情念の謎に思い至らせてくれる文章です。
 夢に見た帆船 太平洋の白鳥と呼ばれる日本丸を見に行った時の印象記です。その外観の美しさが、海賊船やシルバー船長などの活躍する空想の世界に連れ込んでくれ、まるで少年時代にもどったような気分になったというものです。いくつになっても、少年時代の好奇心と憧憬とをもち続けるのは素晴らしいことですね。
 僕は野良猫 野良猫に対する、愛情あふれた文章です。それが、野良猫の視点から書かれているところが、優れた文章になっています。野良猫が「奥さん」に「随筆に書くよ」と言われ、逃げ出したというところは、筆者の手の内をわざとさらすことで、文書を重層的にしています。
 この他に3編を紹介します。
 新川宣史さんの「決められた道」は、中学校の学芸会で、自分は郵便局員、友人は教員の役を演じさせられたが、後に2人ともその職業についていたという不思議が書かれています。それは先生の先見の明だったのかどうか、今は尋ねる術もない。清水昌子さんの「女正月」は、正月の忙しさをねぎらうための女性だけの慰労会、その女正月を再現させての小旅行の報告です。しゅうとめとの関係に苦労した話が盛り上がるなか、自分は嫁を大切にしているという互いの「自慢話」になったというのが、なんともおかしい文章です。中田輝子さんの「ひったまげたなあ」は、84歳になられる小学校の担任の先生が、菜の花マラソンを完走されたことへの驚きの文章です。8時間、1万3000番、自分に褒美などの恩師の電話の言葉は感動的です。要所に薩摩方言を混在させたために、文章が生きてきました。
  鹿児島大学名誉教授・石田忠彦

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