はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆2月度

2014-03-31 15:56:38 | 受賞作品
 はがき随筆の2月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】11日「魚が陸へ上がる」高橋宏明(70)=日置伊集院町飯牟礼
【佳作】▽7日「楽しいいきさつ」秋峯いくよ(73)=霧島市溝辺町崎森
    ▽23日「早春賦」若宮庸成(74)=志布志市有明町野井倉


 魚が陸へ上がる 30年前の出来事ですが、小魚が多数浜へ上がると聞いて、それを拾いに行った思い出です。随筆の出来は一つは素材の珍しさにあります。珍しい話題にはつい引き込まれます。しかし、それだけではなく、この現象の理由を種明かし風に説明し、最後に現在の海洋汚濁に思いを馳せたところが、優れた文章になりました。
 楽しいいきさつ 贈り物合戦とでもいった文章です。合計5回の贈答が、その1つ1つに、事情というか真心というか、いわば生活の綾がついているのが興味を惹きます。文化人類学という学問分野に、人間の文化の根底には、贈答や交換があるという考えがあります。それを思い出しました。
 早春賦 庭に小鳥のための餌台を作り、そこに来る小鳥を、双眼鏡と野鳥図鑑とで調べて、楽しんでいるという内容です。窓辺の老夫婦のたたずまいが、目に見えるような文章です。確かに人生の愉しみ方は、人それぞれで、このように静かな時間が穏やかに流れていくのは、かえって羨ましくも感じます。
 この他の優れたものを紹介します。
 一木法明さんの「死をみつめて」は、がん転移で余命を宣告された方に、『歎異抄』からの法話を行っているという内容です。僧籍にあるのだから当たり前だと言ってしまえば、身も蓋もありませんが、他人の運命と共通感覚をもつのは、重たく、容易なことではありません。
 伊尻清子さんの「いぶし銀」は、100歳の知人がとかくお元気で、読書に手芸に畑仕事に、それに電動カー、という屈託のない生活を紹介した文章です。地味でも鈍く光っている生き方に感服された様子がよく分かります。
 堀美代子さんの「桜島噴火100周年」は、大噴火の記念写真展を見に行った時の感想です。着の身着のままで逃げ惑う人々に同情されたようですが、都市近郊の活火山は確かに微妙な存在です。しかし、爆発しようが降灰に悩まされようが、鹿児島のひとは桜島が好きなのも不思議です。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

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