はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆8月度

2012-09-15 17:45:35 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】15日「白いスニーカー」竹之内美知子(78)=鹿児島市
【佳 作】26日「半歩でも前へ」種子田真理(60)=鹿児島市
▽30日「ソウメンカボチャ」年神貞子(76)=出水市


 白いスニーカー 梅雨の晴れ間に、亡夫の残したスニーカーをベランダでほしあげ、陽光を浴びたスニーカーをそっと履いてみた。その瞬間に亡夫の姿がよみがえったという、一瞬の感覚を捉えた優れた文章です。スニーカーの白、太陽を吸った靴の温かさとその感触、それらの感覚が合わさって、夫婦愛を懐かしく漂わせています。
半歩でも前へ 地デジ化以来、テレビ離れし、読書にいそしんでいる。すると、自分の未熟さに気づかされ、その克服に悪戦苦闘している、という内容です。テレビ無しの生活が幸いしました。人は努めている間は迷うものだ、とはゲーテの言葉です。前進していってください。
 ソウメンカボチャ 年神さんの描写力にはいつも感心します。ソウメンカボチャの生育、収穫、食材などの模様が色彩豊かに描写されています。このような文章が書けるのは、観察の細やかさに基づくものに違いありません。
 他に4編を紹介します。
 武田静瞭さんの「撮った!」は、夜しか咲かない月下美人の花の撮影に成功した喜びが書かれています。他人には些細なことかもしれませんが、本人にとってはやはり幸福な瞬間です。
 畠中大喜さんの「裸電球の夏」は、節電騒動につけても、敗戦直後の窮乏生活が思い出され、むしろ懐かしいという内容です。あの頃を体験した人も少なくなってきました。
 内山陽子さんの「ゴーヤー」は、ゴーヤーの苦みに馴れたのが、義母の葬式の弁当を食べた時だったという、意外性で読ませる文章です。「人は悲しい時にもおなかがすくものだ」という感慨はリアルな発見ですね。
 高野幸祐さんの「身勝手な男」は、その飄逸さが素晴らしいと感じました。アパートの1人暮らしの無聊を慰めようと買って来たグアバの鉢植えが伸び過ぎてしまい、グアバからどうするつもりだと問われて、困惑している心境が書かれています。

(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

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