はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

悲しみの詩

2007-08-16 18:45:42 | 女の気持ち/男の気持ち
ある日、私は一編の詩に心を奪われた。それは杉山平一の「よもぎ摘み」という短い詩である。
  戦争へ行ったまま4年になるのに
  良人はまだ帰ってゐなかった
  彼女はその日よもぎを摘みに出た
  一番末の子をおんぶして
  八つの姉娘と五つの子は家で絵本を見て乏しい昼餉を待っていた
  …………
 私はその詩を何度も読み返した。よもぎ摘みの最中、母親は幼い子供たちを残したまま、電車にはねられ死んでしまうのだ。戦地から帰らぬ夫を待ち続け、あまつさえ食糧事情も乏しい戦時下に、3人の幼子を抱え、必死に生きる母親。
 素直な子供たちは、おなかを空かしながらも、おとなしく母親の帰りを待っていたのだろう。情景が目に浮かび胸が詰まった。
 戦争がもたらす不幸は、貧しさに追い打ちをかける。
 何のため、誰のための戦争なのか。
 過酷な時代を生き抜いた人でなければ、真の苦しさは分からないだろう。
 戦後に生まれ、2人の子の母親として今思うこと。それは、再び軍靴の響きが聞こえることのない世の中であってほしい。切にそう願う。
   長崎市 斉藤敬子(58)2007/8/16 毎日新聞鹿児島版「女の気持ち」欄掲載

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