はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆3月度 月間賞

2015-05-02 21:22:58 | 受賞作品
 はがき随筆の3月度入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

 【月間賞】1日「春を待つ」橋口礼子(80)=出水市上鯖淵
 【佳作】23日「浄土への入り口」野幸祐(82)=鹿児島市紫原 ▽25日「昭和19年戦死」秋峯いくよ(74)=霧島市溝辺町崎森


 「春を待つ」 立春所感ともいえる内容です。梅から桜への三寒四温の移ろいの中で、夫君ともども元気に過ごせる日々に感謝されている、穏やかで心地よい文章です。人生を根底で支えているのは優しさだという、老年になっての実感が、桜の開花を待ちながら、紅梅白梅を愛でている雰囲気とよく解け合っています。江戸期の文人画の趣です。
 「浄土への入り口」 腹部大動脈瘤の手術の間、全身麻酔で4時間何も覚えていないし、夢も見なかったという経験です。手術中に亡くなったら、花園くらい見えるかと思ったが、恐らく見えないだろうし、「千の風」も吹いていないだろう。生は意識だといいますが、その意識が4時間もなくなった経験に、生と死について考えさせられる内容です。
 「昭和19年戦死」 戦時中、佐世保まで父親に面会に行った時の記憶です。父親はその時死を覚悟していたらしいが、2ヶ月後負傷し戦死してしまった。私事ながら、父の戦死を聞いた母が泣き崩れていたのを覚えています。このような形ででも、戦争を記憶している世代が激減しました。今の政治状況、このような悲しみが来ないとよいのですが。
 他3編を紹介します。
 岩田昭治さんの「プレゼント」は、妻が「吉野弘詩集」をプレゼントしてくれた。何も言わないが、自分の創作を励ますためだとはすぐ気付いた。妻の願いに応えたい。おのろけにも聞こえます。
 年神貞子さんの 「雲」は、子どもの頃、夕焼けの赤い雲を上から見たらどう見えるか興味があった。それが、航空機の上から実現した。それは言葉もないくらい美しかった。あれは本当に美しいですね。
 奥村美枝さんの「僥倖」は、「はがき随筆」は、目に触れたものなどを素材にすることが多いのですが、珍しく思索的な内容です。私たちの生命は一寸先は闇の状態の中で、幸せと畏れの両端を揺れ動いている。そういう運命の中で命を輝かせるのが、僥倖であり、天からの贈り物であろう。
(鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)2015/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

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