はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆5月度

2017-06-22 16:50:48 | 受賞作品
 はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。

 【優秀作】4日「断腸捨離」野崎正昭=鹿児島市玉里団地
 【佳作】17日「宝物」的場豊子=阿久根市大川
 △「80歳はヤバイ?」武田静瞭=西之表市西之表

 「断腸捨離」の表題は、断腸の思いと断捨離とのモジリです。いつ頃からかはやり出した身の周りの品物の整理と、それがなかなかうまく進まない心理を巧みに表現した内容です。バブルの時期頃から、私たちの所持品は増え続け、現在ではそれが殆ど不用品に化している。しかしモノには歴史が絡まっているので、捨てられない。なんとも厄介な事態です。
 「宝物」は、現在もあるかどうか、かつてあった吸い出し膏薬に関した逸話です。刺さったトゲや傷口のうみを、不思議なくらい吸い出して直してくれる塗り薬です。水産加工業の家に嫁いだ私に、母親の持たせた花嫁道具の一つでした。今でも残り少ない薬を、爪ようじでかすり取って使っているというところがいいですね。
 「80歳はヤバイ?」は、老いの自覚は自分ではなかなか難しいという、誰にでも訪れる経験が内容です。80歳を迎えたとき、たまたま身内の人たちが、3人も来訪し、直接にまたは間接に、運転が荒っぽいと言い置いて帰って行った。自分では気づいていなかったが、ありがたい忠告と感じている。
 この他に、美しい文章を3編紹介します。
 年神貞子さんの「身ぶり」は、最近とみに立ち居が不自由になっている。歌舞伎の玉三郎とまではいかないものの、加齢に逆らっても美しい立ち方をしたい。玉三郎の立ち姿やご自分の立ち居の描写がみごとで、鮮やかに目前に浮かぶようです。
 伊地知咲子さんの「ふるさと」は、高隈連山を眺望できる故郷の情景が、時間の経過とともに美しく描写されています。たそがれ時の、刻々とその色合いを変えていく夕空の様子、次第に浮かんでくる星や月、その色彩の変化、やがて明りのともる家々の夜景。美しい叙景詩です。
 山下秀雄さんの「菖蒲湯」は、高校生の頃の下宿近くの銭湯の思い出です。銭湯は年齢を問わない社交場で、巨人阪神戦が終わる頃、番台のお姉さんに挨拶され、一日が終わった気がして、菖蒲湯の移り香に包まれて帰って来た日々。
 鹿児島大学 名誉教授 石田忠彦

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