はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆5月度入選

2010-06-28 16:01:30 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入選作品が決まりました。


▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん(71)の「ペットレス」(26日)
▽鹿児島市上荒田町、高橋誠さん(59)の「公園のハモニカ」(30日)
▽阿久根市赤瀬川、別枝由井さん(68)の「ラブ・アゲイン」(11日)

以上3点です。

 墨田の花火というガクアジサイが好きで、昨年挿し芽しておいたものが、今年は幾鉢も開花し、楽しませてくれました。植物とのつきあいは、若葉を楽しむにしろ花を愛でるにしろ、1年に1回きりなので、気が永くなります。来年の墨田の花火の純白な花弁が今から楽しみです。
 清田文雄さんの「ペツトレス」は、1年前に亡くなった愛犬が今でも夢寐(むび)に現われ、黒犬だったので、黒色恐怖症に陥っているという内容です。自分の悲しみへの距離の取り方が絶妙で、優れた文章になっています。内田百聞の『ノラや』を思い出しました。
 高橋誠さんの「公園のハモニカ」は哀愁に満ちた文章です。春の気配の漂う夕暮れに、近くの公園からいつも「月の沙漠」などのハモニカの音が聞こえていた。それがいつのまにか聞こえなくなってしまった。あのハモニカの初老の男はどうしたのだろう。余韻が残ります。
 別枝由井さんの「ラブ・アゲイン」は、「友だち以上、恋人未満」だった人と、45年ぶりに出会った。軽口をたたいて別れたが、メール・アドレスを交換しておいた。それ以後メールの交換をしているという微笑ましい内容です。最近高齢者のメール利用が盛んになってきたようです。最近出た『高く手を振る時』という小説にも、メール利用の70歳後半のプラトニック・ラブが描かれています。
 以上が優秀作です。その他に数編を紹介しておきます。
 伊地知咲子さんの「はるじょおん」(4日)は、草花の名前をかつて幼い娘と言い争って、自分が間違っていたのだが、そこに娘の成長を見たという内容です。中島征士さんの「下駄」(21日)は、下駄にまつわる学生時代や若い頃の思い出です。
 「今、雨の日でも下駄がいい。」という結びが利いています。口町円子さんの「俄然ハッスル」(17日)は、ハエやゴキブリの季節になると、殺虫剤に頼らず、新聞紙で叩いてまわるという元気な内容です。3編とも、自分の行為への客観化が優れています。

(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

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